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「なんなんですかね? あの老婆」
残された倫太郎たちは壱花が出てくるのを待ちながら、あのあやかしについて考察していた。
「さあ、わからないが。
お前にも最初からハッキリ見えてるんだよな? じゃあ、結構力の強いあやかしだな」
冨樫もあやかし駄菓子屋に関わるようになってから、外でも結構見えるようになってはいるが、壱花や倫太郎ほどではないはずだった。
「それか、お前とあのあやかしのなにかが共鳴して、見えているのか。
にしても、壱花、遅いな」
とちょっとイライラしはじめながら倫太郎が呟いたとき、冨樫が言った。
「あの……我々、これ、あれじゃないですか?
修学旅行のとき、湯上がりの女子が色っぽいって、女風呂の近くで張ってる高校生男子みたいになってませんか?」
次々出てくる女性たちは、確かにゆるく結い上げた髪も襟足も、上気した頬も色っぽい。
「……お前、そんなことやってたのか」
「私がやってたわけではありませんよっ」
やってたのは、他の男子生徒ですっ、と叫びかける冨樫を、倫太郎は、しっ、と手を上げ止める。
あの老婆がお玉を手に出て来たのだ。
すたすた歩いて何処かに行ってしまう。
「……お玉が濡れてたな。
そして、お玉から蒸気が上がってた」
「え?」
「っていうか、あのあやかしを追ってたはずの壱花はどうしたっ?」
遠ざかる老婆と女湯ののれんを交互に見ながら倫太郎が叫んだとき、湯上がりでほっこりした壱花が出て来た。
倫太郎たちに気づき、
「いや~、いいお湯でした~」
と笑う。
「なに大浴場、満喫してんだっ。
あのあやかしを追えよっ」
あのあやかし、中でお玉でなにしてんだっ? と言うと、
「ああ、なんか風呂の湯を汲み出してたんですけど。
なんか違うなって顔して出ていきましたね」
と壱花は言う。
「……なんか違うなって顔してたのがわかったのか?
あんまり表情ないようだが、あのあやかし。
さすが、化け化けだな。
って言うか、お前、それ、側にしゃがんで見てたのか?」
「いえ、お風呂場でそれ、変な人じゃないですか。
向こうはこちらを気にしていないようだったので。
風呂の淵に立って湯を汲み出すおばあさんを湯に浸かって、真正面から見てました」
お玉で湯を汲み出す老婆をお湯の中から、ほこほこしながら見ている壱花が浮かんだ。
「……なにひとりで、くつろいでんだ」
ええっ?
社長が見張れって言ったんじゃないですかっ、と壱花は叫ぶ、
「だって、服着て風呂場に入ってったらおかしいじゃないですか。
っていうか、社長たちも入ってこられたらどうですか?
私があのおばあさん見張ってますよ」
そう壱花は言ってくれたが、
「いや、お前じゃ不安しかない」
と倫太郎は言った。
「冨樫、お前、入ってきていいぞ、風呂」
いえいえ、行きますよ、と言って、冨樫もついてきた。