「そういえば、御船印ってなんですか?」
老婆のあとをつけながら壱花は冨樫に訊いてみた。
「船の御朱印みたいなもんだ」
と言う冨樫に、船であやかしを追っていたせいもあり、
「それ集めるとなにかが起こるんですか?」
とうっかり訊いてしまう。
「……なんでだ。
何故、船会社になんでそんな力があると思う」
もっともなことを言う冨樫に、そりゃそうですよね、と思いながらも壱花は言った。
「でも、なにか船って不思議なことが起こりそうな雰囲気がありますよね」
「どの辺に不思議な雰囲気がある」
相変わらず、追求厳しい倫太郎が突っ込んで訊いてきた。
「え……。
えーと……
あ、ほら、何故か海に浮いてたりするし」
「人も海に浮くよな」
「……すごく重いのに浮いてたりするし」
と壱花は言い換えた。
いかにも今、考えました、な感じになってしまったな、と思ったとき、案の定、倫太郎が更にケチをつけてきた。
「海に浮いてるだけで不思議な感じがするのなら、飛行機の方がもっと不思議な感じがするんじゃないか?
あっちは空飛んでるんだからな」
そこで、壱花はふと思いつき、訊いてみる。
「そういえば、御船印があるのなら、御飛行機印とかあるんですかね?」
「ないんじゃないか? 語呂が悪いから」
そんな理由でですか……? と思いようなことを倫太郎が言い、
「飛行機関係の神社の御朱印ならあるぞ」
と冨樫が言った。
……飛行機関係の神社の御朱印か。
それを集めたら、なにかが起こるのだろうかな?
空飛ぶあやかしが現れるとか、と思う壱花の頭の中では烏天狗が御朱印帳から、どろんと現れていた。
そのとき、
「あ、あの老婆、立ち止まりましたよ」
と冨樫がみんなに教えてくれる。
老婆はゲームセンターで足を止めているようだった。
ゲームセンターの真ん中あたり。
子どもたちが群がっているボールすくいをじっと見つめている。
「……なにしてるんでしょうね?」
「ちょっと様子を見るか」
なにもしないでゲームセンターにいるのは不自然なので、壱花と倫太郎はメダルゲームをはじめた。
冨樫はクレーンゲームでぬいぐるみをとっている。
老婆はまだ、水流でぐるぐる回っているボールを見つめてた。
クレーンで小さなボールを持ち上げてとるゲームで、水とボールは半円の透明なドームで覆われている。
「なにしてるんでしょうね」
壱花はそちらを窺いながら呟いた。
「そして、私はなにをしているんでしょうね。
メダル、あっという間になくなってしまったんですけど」
メダルゲームはやったことがないので、なにがどうなるのかわからないまま、すべて負け。
メダルは全部ゲーム機に吸い込まれていった。
たくさんメダルを出している倫太郎が、無言で壱花が持っているカップにザラザラと入れてくれる。
「あ、ありがとうございます……」
と礼を言いながら、壱花はまた、無駄にメダルをゲーム機に突っ込んだ。
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