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第五十章
白虎の反撃
―俺の獲物―
琥珀は、刀骨の猛攻を必死に受け続けていた。
双剣を交差させ、迫り来る拳を受け止める。
――重い。
腕が痺れる。
一撃を受けるたびに、身体が後ろへ押し込まれていく。
「……っ!」
刀骨がさらに踏み込む。
琥珀は咄嗟に身を捻った。
拳が頬を掠める。
その勢いのまま身体を回転させ、双剣を振り抜く。
だが、刀骨は僅かに身体を引いただけで避けた。
「ちっ……!」
琥珀は舌打ちする。
速い。
力も、速さも、今まで戦ってきた相手とは桁が違う。
それでも――。
「……あたしは……」
握った双剣に力を込める。
「護るって……決めたんだ……!」
琥珀の足元に光が集まった。
「――身体強化!」
瞬間。
身体の奥から力が弾ける。
全身を巡った力が、筋肉を、感覚を、限界を超えて引き上げていく。
「迷うな、迷うなあたし!」
地面を蹴る。
一瞬だった。
琥珀の姿が刀骨の視界から消える。
「――っ!」
次の瞬間。
凄まじい衝撃が刀骨の身体を襲った。
「ぐ……っ!」
刀骨の巨体が吹き飛ぶ。
地面を削りながら数メートル先まで転がった。
琥珀は荒い息を吐きながら、双剣を構え直す。
「……護るって決めた!!」
刀骨がゆっくりと立ち上がった。
口元に浮かんだのは、怒りではない。
冷たい笑みだった。
「……偽善か」
刀骨が拳を握る。
「そんなクソみたいな偽善――」
地面が鳴った。
「根元からぶっ壊してやる」
刀骨が一気に踏み込んだ。
拳が琥珀へ迫る。
琥珀は双剣を振り抜いた。
鋭い刃が拳の軌道を逸らす。
「させるか!」
刀骨は止まらない。
今度は蹴りが飛んできた。
琥珀も脚を上げる。
ドンッ――!
互いの脚が激しくぶつかった。
二人の身体が同時に弾かれる。
数歩下がったところで、琥珀は双剣を下ろした。
刀骨も拳を下げる。
二人とも、何も言わない。
荒い呼吸だけが、その場に響いていた。
睨み合う。
次に動いたほうが負ける。
そんな一瞬の静寂。
――そして。
消えた。
「……っ!」
琥珀が気づいたときには、刀骨は目の前にいた。
速い。
反応するより早く、拳が腹部へ叩き込まれる。
「――がっ……!」
身体がくの字に折れた。
鈍い衝撃が身体の奥へ突き抜ける。
次いで――
嫌な音が響いた。
肋骨が折れる。
「……っ」
口元から血が溢れた。
視界が揺れる。
足から力が抜けていく。
それでも琥珀は、刀骨を睨もうとした。
だが――。
もう、身体は動かなかった。
その場に崩れ落ちる。
刀骨は倒れた琥珀を見下ろした。
「大人しく寝とけ、クソ女」
そう言って、琥珀の頭を軽く蹴る。
刀骨は踵を返した。
そのまま何も言わず、結界の外へ出ていく。
――しばらくして。
赫夜が刀骨を見つけた。
「……あら?」
刀骨は立ち止まる。
赫夜の視線が、刀骨の頬へ向いた。
「血……?」
刀骨が頬に触れる。
指先に赤いものが付着していた。
その瞬間。
――シュッ。
何かが飛んだ。
刀骨の横を掠めたそれは、地面へ突き刺さった。
双剣の片割れだった。
赫夜が目を見開く。
刀骨も、ゆっくりと振り返った。
そこには――。
ふらつきながら立ち上がった琥珀がいた。
息は荒い。
顔色も悪い。
それでも、その目だけは死んでいなかった。
「……女、舐めるな」
刀骨を睨みつける。
そして――。
「ばぁーか♪」
琥珀は満足そうに笑った。
そのまま、糸が切れたように再び倒れる。
刀骨は何も言わなかった。
頬を伝う血を、指でゆっくり拭う。
赫夜が刀骨の横顔を見る。
「……刀骨」
刀骨は答えない。
「あなたが血を流してるところを見るの……何年ぶりでしょうか?」
刀骨は、自分の指先についた血を見る。
そして――笑った。
赫夜が僅かに目を細める。
「……それに」
刀骨が顔を上げる。
「そんな楽しそうに笑ってるあなたを見るのも、何年ぶりでしょうか?」
刀骨は答えなかった。
ただ、地面に倒れた少女へ視線を向ける。
その口元には、まだ笑みが残っていた。
「……ああ」
刀骨は低く呟いた。
「白峰琥珀」
初めて、その名を呼んだ。
そして――。
「俺の獲物だ」
口元が歪む。
獲物を見つけた獣のような、愉悦に満ちた笑みだった。
コメント
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おおお、第50話めっちゃ熱かった! 琥珀が身体強化で牙を剥いたとこ、渾身の叫びとともに護る覚悟を決めた流れが本当にアツかった🔥 敵わないと分かってても立ち上がって「女♡♡♡な」の捨て台詞からの「ばぁーか♪」は最高すぎる。笑顔で倒れるの最高にかっこよかったわ。 しかも刀骨が笑って「俺の獲物だ」って言ったあたり、シリアスの中に狂気めいた愉悦が漂ってて痺れた。 輪廻さんのバトルの空気感、凶悪なまでの緊張感が伝わるいいエピソードだった。次が気になりすぎる!