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白山小梅
12
#借金
1,754
* * * *
話を終えた春香と瑠維は警察署を後にし、昼食をとるために近くのカフェに入った。
互いにパスタセットとアイスコーヒーを頼むと、春香は椅子の背もたれにへたへたと倒れ込む。
「あー、疲れたー」
「お疲れ様でした」
「瑠維くんもついてきてくれてありがとう。一緒にいてくれたから心強かったよ」
「春香さんの力になれたのなら良かったです」
その時にふと先ほどの刑事との会話が思い出される。まるで瑠維のことを知っているかのような話し方だった。
「あの……聞いてもいい?」
瑠維は春香を一瞥してから、水の入ったグラスに手を伸ばす。水を一口飲み、ほっと息を吐いた。
「刑事さんのことですか?」
「あっ、うん、そう。答えたくなければいいの! ちょっと気になっただけだから……」
聞かれることがわかっていたかのような態度に、春香の方がびっくりしてしまう。ただため息をついた姿から、あまり良い反応ではない気がしたので、春香の方が戸惑ってしまう。
そうよ、警察と関わりがあるなんて、いいことじゃないかもしれない。でも高校時代の彼を思い出せば、そんなネガティブなことに縁があるタイプには思えなかった。
逆に何か表彰されたのかもしれない。それなら納得がいく。
「そんな百面相しないでください」
「えっ⁈ そんな顔してた……?」
「えぇ、してました。大したことではないですよ。昔の知り合いなんです。学生時代にちょっとお世話になることがあって。今回ももしかしたら川崎さんが担当かも知れないと思っていたので、久しぶりに会えて嬉しかったです」
「へぇ……そうだったんだぁ。刑事さんと知り合いみたいだったから、何か事件に巻き込まれたりしたのかと思ってびっくりしちゃった」
瑠維がどことなく寂しそうに笑った気がしてドキッとした。何か言ってはいけないことを口にしてしまったような印象を受けた。
「あぁ、そうだ、春香さん。伝えておかなければいけないことがあって」
「ん? なぁに?」
「今日は知り合いのパーティーに参加するよう強要されていまして、帰るのがたぶん遅くなってしまうと思うんです」
「あっ、そうなんだ……」
ということは、あの家に一人でいないといけないのか。そう考えると少し心細くなる。
「あっ、でもなるべく早く帰りますし、それから……ちゃんと同じベッドで寝ますので」
それを聞いた春香は思わずクスッと笑ってしまった。彼がそのことを気にしてくれているとは思わず、嬉しくなった。
「うん、わかった。でもなるべく早く帰ってきてくれると……安心かな」
昨夜ぐっすり眠れたのは瑠維くんが隣にいてくれたからーー春香が遠回しにそのことを口にすると、瑠維はメガネを押さえながら下を向く。
「……頑張ります。あと申し訳ないのですが、夕飯も一人分でお願いします」
「あぁ、そうか! 忘れてた」
その時に二人の前にパスタが配膳される。
「一人の夕食なんて久しぶり。なんか変な感じ」
「春香さんのご飯が食べられないなんて、すごく残念です」
瑠維がそんなことを言うとは思わなかったから、春香の方が恥ずかしくて照れてしまう。たとえ食事のことだとしても、誰かにそんなふうに求めてもらえるのは嬉しかった。
「ま、またいつでも作るよ⁈」
春香が言うと、瑠維はパスタを食べていた手を止める。
「あの……ストーカーが捕まったからと言って……すぐには出ていかないでくださいね。もう少し春香さんのご飯を食べていたいので」
新居を探そうとしていた考えを見透かされたかのように、春香の思考は止まってしまう。
それは私にそばにいて欲しいって言っているように聞こえるよーー瑠維にじっと瞳を見つめられ、息苦しさと体の芯が熱くなるような感覚に陥る。
瑠維くんと一緒にいると、自分の中の欲望が溢れ出てしまいそうになる。もし私が何か行動を起こせば、先輩後輩というか、私を守ってくれた大切な友人を、下手をすれば失ってしまうことになるのだ。
友人としてのこの距離感を保てれば、もう少しこの時間を楽しめるはず。それならしばらく黙ってそばにいても許されるだろうかーー。
「じゃあ、お言葉に甘えてお世話になっちゃおうかな……」
春香が言うと、瑠維は目を細めて少しだけ口角を上げた。この仕草にこんなにときめく日が来るなんて、高校生の春香には想像出来なかっただろう。
時間とともに心も変化するのだと、改めて実感するのだった。
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