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呪いの目で見た最後の星
第二話・観測者たち
配信事故の翌日。
トレンドには、まだ昨夜の切り抜きが残っていた。
〈ガチの異変説〉
〈演出じゃないよな?〉
〈最後のフレームやばくね?〉
メアはそれを見て、鼻で笑った。
「すごいねー。完全に“話題作り成功”って感じ」
「……ねえ、メア」
メルは、スマホから目を離さずに言った。
「昨日の、あれ……ほんとに、ただの事故だと思ってる?」
「思ってない」
即答だった。
メアは、目札の貼られた自分の目元を指で軽く押さえる。
「でも、だからって今さらどうしようもないでしょ。見えてる以上、使うしかない」
メルは、何も言い返せなかった。
――見えている。
でも、その「見えている」は、
本当に“見ていいもの”なんだろうか。
妖医の診療所は、今日も薄暗かった。
カーテンの閉まった部屋で、妖医は双子の目を覗き込む。
「……進行、早いね」
淡々とした声。
「え、なにが?」
メアが聞き返す。
「“侵食”」
妖医は言った。
「目札は、ただ視界を貸してるんじゃない。
君たちの“見るという行為”そのものを、別の領域に接続してる」
メルの背中に、冷たいものが走る。
「使うたびに、少しずつ……」
妖医は、少しだけ言葉を選んでから続けた。
「君たちの“人間側”が削れてる」
メアは笑った。
「それって、どれくらい?」
「正確な数字は出ない。でも――」
妖医は、はっきり言った。
「このまま使い続けたら、
“元の形”では終われない」
部屋に、沈黙が落ちる。
メルは、ぎゅっと袖を握った。
「……それって、どういう……」
「“生まれ変わり”の話じゃない。
輪廻の外に落ちる可能性が出てくる」
メアの表情が、ほんの一瞬だけ硬くなった。
帰り道、二人は遠回りして街を歩いた。
何気ない風景。
コンビニ、信号、歩く人。
――なのに。
メルの目には、所々に**“綻び”**が見えた。
ビルの角が、ほんの少しだけズレている。
道路の向こうが、ありえない奥行きを持っている。
「……メア」
「なに?」
「……見えてない?」
「なにが?」
メルは、言葉にできなかった。
“見えない”のが、普通なのかもしれない。
そう思った瞬間、
自分の見ている世界の方が、急に怖くなった。
情報屋の事務所は、相変わらず雑多だった。
モニターだらけの部屋で、情報屋は軽い調子で言う。
「いやー、昨日のアレ、観測データ的には大当たり」
「笑い事じゃないんだけど」
メアが睨む。
「分かってる分かってる」
情報屋は、画面をいくつか切り替えた。
そこには:
突然“裏側”が見えるようになった一般人
存在しないはずの路地
消えて戻らない建物
の記録。
「“歪み”が、表層に浮いてきてる」
「原因は?」
「まだ特定できない。でもね」
情報屋は、少しだけ声のトーンを落とす。
「これ、自然現象じゃない」
メルが息をのむ。
「誰かが……?」
「“誰か”というより、“何か”」
情報屋は言った。
「世界の構造そのものに、穴が開き始めてる」
その夜、屋上。
銀髪の神は、相変わらず静かに星を見ていた。
「歪みは、いずれ臨界点を超える」
淡々とした声。
「そうなれば、この世界は“別の形”に再編される」
「それって……世界が壊れるってこと?」
メルが聞く。
「“壊れる”より、“書き換わる”に近いわね」
神は、二人を見る。
「あなたたちの目は、その“書き換えの途中”を見ている」
メアは、少しだけ不機嫌そうに言った。
「で? 私たちに何をしろっていうの」
「本来なら、何もしなくていい」
神は、はっきり言った。
「でも――あなたたちは、もう観測者側に入ってしまった」
メルの胸が、嫌な音を立てた。
「観測者……?」
「見てしまった以上、
あなたたちは“無関係”ではいられない」
帰り道、二人は黙って歩いた。
静かにメルが話しかける
「もし、このまま目札を使い続けたら……私たち、ほんとに“戻れなくなる”んだよね」
「さっきから言ってたでしょ。そうかもね」
メアは、前を見たまま答える。
「……それでも、使うの?」
メアは、少しだけ足を止めた。
振り返って、メルを見る。
「使うに決まってるでしょ」
即答だった。
メルの胸が、きゅっと縮む。
「でも……壊れていくって……」
「壊れる前に、終わらせればいい」
メアは、いつもの強気な笑いを浮かべる。
「世界の歪みも、私たちの問題も。
全部、先に片付ける」
メルは、俯いた。
「……私は……そんな簡単に割り切れない」
小さな声。
「この目で見る世界が、本物じゃなくなるなら……
それって、ほんとに“生きてる”って言えるのかな……」
メアの表情が、ほんの一瞬だけ硬くなる。
「……メル」
少しだけ、苛立ちの混じった声。
「考えすぎ。私たちは、もう選んでる」
「……」
「見える方を」
沈黙が落ちた。
同じ夜道を歩いているのに、
二人の間に、ほんのわずかな距離ができた気がした。
メルは、また空を見上げる。
星は、相変わらず綺麗だった。
でもその光が、
どこか、前よりも遠く感じた。