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夜の静寂が、再建途中の街を優しく包み込んでいた。
小さな家の寝室。規則正しい滉斗の寝息だけが響く部屋で、元貴はふと目を覚ました。窓から差し込む月光が、隣の布団で眠る夫の横顔を淡く照らしている。
(……なんだろう、この感じ)
理由はわからなかった。ただ、胸の奥が不意に締め付けられるような、言いようのない寂しさがこみ上げてきた。かつて14年間、一人で耐え抜いたあの凍てつくような孤独の残滓が、静かな夜の隙間に滑り込んできたのかもしれない。
元貴はたまらず布団を抜け出し、吸い寄せられるように滉斗の布団へと潜り込んだ。
「……ん」
わずかな衣擦れの音に、滉斗の意識が浮上する。かつて戦場を生き抜いた男の覚醒は早い。滉斗は寝ぼけ眼ながらも、隣に滑り込んできた温かな熱源に、すぐさま気づいた。
「……元貴? どうした、眠れないのか」
低く掠れた声。元貴は何も答えず、ただ滉斗の胸元に顔を埋め、その柔らかな着物の生地をぎゅっと掴んだ。伝わってくる滉斗の体温。それは、あの修行時代の冷たさなど微塵も感じさせない、力強く、安心させる温もりだった。
滉斗は状況を察したのか、深く溜息をつきながらも、その大きな腕で元貴の背中を優しく抱き寄せた。
「また変な夢でも見たか。……俺はここにいる。どこへも行かないと言っただろう」
「……わかってる。わかってるんだけど、ひろぱに触れてないと、全部消えちゃいそうで」
元貴の震える声に、滉斗は抱きしめる力を少しだけ強めた。
最強の剣士として、そして一人の夫として。滉斗は元貴が抱える繊細な寂しさを、誰よりも理解している。自分がいなかった14年、元貴がどれほどの重圧を一人で背負ってきたかを。
「……バカだな。消えるわけないだろ。お前が咲かせた花も、この街も、そして俺も……全部、ここにある」
滉斗は空いた手で、元貴の背中をゆっくりと、一定のリズムで叩き始めた。それはまるで、幼い頃に傷を癒やしてくれた元貴への、彼なりの不器用な「癒やし」のようだった。
「ひろぱの手……あったかいね」
「……お前が温めてくれたんだろうが」
ぶっきらぼうな言い方だったが、その手つきは驚くほど優しい。
元貴は滉斗の胸の鼓動を耳に感じながら、少しずつ心の波が静まっていくのを感じた。
「ねえ、明日も一緒にいてね」
「当たり前だ。……一生、離さないと言った約束、忘れたのか」
「忘れてないよ」
元貴は満足げに小さく笑うと、滉斗の腕の中で、今度こそ深い安らぎへと沈んでいった。
滉斗は、すやすやと寝息を立て始めた元貴の額に、慈しむように一度だけ唇を落とし、自身も再び目を閉じた。
夜が明ければ、また二人の新しい一日が始まる。
かつての孤独も、寂しさも、二人の重なり合う体温がすべて溶かしていくのだった。
明日も上げます。気が向いたら、今日中に。
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