テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ひなが 綾小路清隆 とともにゴールしたあとも、
グラウンドの熱気は収まらなかった。
「今の見た!?」
「天白さん、綾小路くんを選んだよね!」
「もう付き合ってるんじゃないの!?」
観客席のあちこちで、
そんな声が飛び交っている。
ひなは顔を真っ赤にしながら、
恵ちゃんと桔梗ちゃんのもとへ戻った。
「ひな、最高だった!!」
軽井沢恵 が勢いよく抱きついてくる。
「まっすぐ綾小路くんのところに走っていったひなちゃん、すっごく素敵だったよ〜!」
桔梗ちゃんの笑顔に、
ひなの胸は嬉しさでいっぱいになった。
だが、競技はまだ終わっていない。
続いて走るのは、綾小路くんだった。
スタート地点に立つ彼は、
周囲のざわめきにも動じることなく、
いつものように静かな表情をしている。
ひなは胸の前で手をぎゅっと握りしめた。
(綾小路くん……)
スタートの合図。
綾小路くんは無駄のない動きで封筒を取り、
その場でカードを開く。
一瞬だけ文字を確認する。
そして――
彼は何の迷いもなく走り出した。
まっすぐ、
一直線に。
その視線の先にいたのは――
あたしだった。
「えっ……!?」
ひなが息を呑む。
周囲の歓声がさらに大きくなる。
「やっぱりーー!!」
「綾小路、一直線だ!」
恵ちゃんと桔梗ちゃんは、
もはや大興奮で立ち上がっていた。
綾小路くんはひなの前で立ち止まる。
そして、
静かな声で言った。
「来てくれ」
差し出された手。
ひなの鼓動は耳の奥で激しく鳴り響く。
「お題は……?」
震える声で尋ねると、
彼はカードをひなに見せた。
そこには、簡潔にこう書かれていた。
『今、一番大切な人』
世界の音が、
一瞬遠のいた気がした。
ひなの瞳に、
みるみる涙が溜まっていく。
「……綾小路くん」
夜久瀬
3
彼は表情を変えずに、
けれど確かな声で言った。
「これ以上、適任はいない」
ひなは震える手で、
そっと彼の手を取った。
「……うん」
二人は並んでゴールへ向かって走り出す。
観客席からは、
割れんばかりの歓声が上がった。
「きゃーーー!!」
「告白じゃん!」
「Dクラスすごすぎ!」
ゴールテープを切った瞬間。
ひなの目から、
ぽろりと涙がこぼれた。
「嬉しくて……」
そう呟くと、
綾小路くんはひなの涙を親指でそっと拭った。
「泣くほどのことか」
いつもの淡々とした口調。
けれどその瞳には、
ひなだけに向けられる優しい光が宿っていた。
「俺にとって、お前は特別だ」
観客のざわめきの中、
その言葉だけがはっきりと胸に届く。
「誰よりも大切だ」
ひなは涙を浮かべたまま、
幸せそうに微笑んだ。
「……私も」
借り物競走。
それは偶然の競技ではなく、
二人の想いを誰の目にもわかる形で示す時間となった。
もう隠す必要なんてない。
彼にとって、
自分は「一番大切な人」。
その事実が、
ひなの胸を優しく満たしていた。
コメント
1件
うわああ、もう最高でした……! 借り物競走で「今、一番大切な人」ってお題、しかも迷いなく一直線にひなさんのとこに来る綾小路くん、反則級に胸熱でした。観客が「告白じゃん!」って騒ぐのも納得の展開で、最後に涙を拭う仕草と「特別だ」「大切だ」の言葉、地味にグッときました。設定の活かし方も上手いし、このエピソードだけで二人の関係性がぐっと深まった感じがして、続きが待ち遠しいです!