テラーノベル
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――目を開くと、そこはどこかの砂浜だった。
びゅう、と風が吹いて、独特の磯の匂いを運んでくる。……僕の苦手な匂いだ。
手の甲で鼻をおさえて、視線を逸らすように周囲を見渡すと、近くにあばらやが見えた。
ふと首を傾げる。なんだろう、あのあばらやは見たことがある。あの木の傷み具合、ひどくリアルな色味。
そうか、と思い出した。あれは僕が買ったジオラマに使われていた、ミニチュアの漁師小屋にそっくりなのだ。よく見ればそばに、網をかけた柵まで見える。
ではここは、あのジオラマの中なのか。
どうしてそんなところに自分がいるのかわからず、呆然と海に視線を戻す。――と、沖合いに何か、黒いものが見えた気がした。
なんだろう、あれは。波間をゆらゆらと漂い、こちらに……浜辺に近づいてきている気がする。
――何か、胸の奥がざわつく感じがした。
あれは歓迎すべきものだという感覚もある反面、生理的な嫌悪感も湧きあがる。
近づいてくるそれは、いったい何をもたらすのか。わからないが、少なくとも心の底から歓迎できない何かがある。
こないでくれ。
ふと、頭の中に閃いた言葉は、強い拒絶の色をしていた。
そうだ。こないでくれ。ここからどこかへ行って、二度とこちらへ近づかないでくれ。
だが、そんな思いも虚しく、それは少しずつ少しずつ、こちらへ向かって流れてくる。
ふと、何かの臭いが鼻をついた。
なんだろう、と考え、近い臭いに思い至って慌てて口と鼻を抑える。
僕は知っている。姉さんの遺影と位牌を安置した、小さな白木の祭壇。さかえ義兄さんが向き合えずほったらかしになっていたそこで、仏花の生けられた花瓶からしていた、水が、花が、腐っていく臭いを。
今臭ってくるそれは、その時嗅いだそれよりはるかに、生臭く、異臭と呼ぶに相応しい。
だとしたら、だとしたら。
僕は考えたくないその正体を想像してしまい、その場に膝をついて吐き気を抑えた。
海からやってくる、異臭を放つもの。
もしかして、あそこに漂っているのは――。
コメント
1件
方舟さん、読ませていただきました……。 夢の情景、すごく映像が浮かぶ描写でした。特に磯の匂いと腐った花の記憶が重なるところ、ぞっとしました。近づいてくる“何か”に「こないでくれ」と拒絶する主人公の心の声が、切なくて不気味で……。最後の「もしかして」で止める余韻、すごく好きです。続きが気になります🌙