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海は誰のものでもない。誰のものにもならない。海は自由の象徴だ。その深い青は他の色に染まることを知らない。海は綺麗で、どこまでも深くて、一度引き摺り込まれたなら、もうもどれない。
「スマイル?」
はくり、息を飲んだ。顔をあげれば、きんときと目線が絡んだ。美しい、海。
「どうしたの?もう酔った?」
ふ、と笑うと烏龍茶を口に含む。その喉仏が上下する様子を、スマイルはぼんやり眺めていた。
「……ゃ、」
「さすがに一杯じゃあね?」
どうして、こんなことに。洒落たイタリアンレストランできんときと向かい合って夕食を取りながら、数日前まで記憶を遡る。
[明後日、暇?]
ふいにスマホが震えて、そのメールの差出人に肩を震わせた。スマイルはきんときに対し、およそただの友人には抱かないはずの感情を芽生えさせてしまっていた。それはいつからだったか、学生時代は当たり前に友人のひとりとして交友関係を続けていたはずなのに、数年前にはこの恋心を自覚していた。
[暇]
恋心など微塵も感じさせない温度の返答。しかしそれもそのはず、スマイルにはその恋を実らせようという気持ちは一切なかった。共通の友人たちの顔が浮かんでは消えるし、そもそも実る恋ではない。
[飯行かね?]
そうわかっていても、どくり、心臓が跳ねた。二人で?どこに?どうして急に?書いては消してを繰り返し、返信もままならない。
[いいけど]
結局送信されたのはそんなつっけんどんな言葉。けれど向こうからは可愛らしい兎のスタンプなんかが送られてきて、安堵に胸を撫で下ろした。そうして迎えた、今夜。
「本当に景色いいね」
「そう、だね」
窓の外に向けられた視線に、スマイルも倣った。夜の街に煌々と輝くビルの灯り。夜景を見下ろしながら、普段はあまり飲まないワインのグラスを揺らして、その赤をまた一口口に含む。ゆっくりと味わい嚥下して、言葉を紡ぐために湿った唇を舐めた。
「……ねぇ」
「あのさ」
声が重なった。お互いに言葉を途切らせる。ふと落ちた沈黙に、ふ、ときんときが笑う気配がした。
「いいよ。何?」
「いや……その、さぁ」
周りを見回す。一見して恋人同士、或いは夫婦だとわかる風貌の男女しか目につかない。都内でも有数の高層ビルの最上階、夜景、洒落たレストラン。そんな条件下、スマイルには友人同士の二人がいる方が浮いている気がしてならなかった。
「……やっぱ、何でもない」
「え?一番気になるやつやめろよ」
そういい抑え気味に漏らされる笑い声に、また胸が跳ねる。あぁ、思春期でもあるまいし、一方的に想いを寄せる相手の一挙手一投足にいちいち緊張するのをやめたい。
「きんときは?」
「ん?じゃあ俺も何でもなーい」
「えぇ?」
唇を尖らせる。けれどそんな少し意地悪なところにも惹かれてしまう俺は重症なのだろう。いつになったらこの恋心を捨てられるのだろうか。
「嘘嘘。いやさ、最近どうなのかなって」
「?何が」
「ほら、女の子。いないの?」
くるくるとパスタをカトラリーに巻き付けていた動作を思わず止めた。が、すぐに平静を装ってフォークを口元まで運ぶ。
「……そんな話をするために呼んだの?」
「そんな話って言うなよ。ほら、どうなん?」
「いねぇよ」
だって俺の想い人は、この数年ずっと今目の前にいるお前なんだから。などと言えるわけもなく、口内に広がったトマトの程よい酸味と甘味のバランスに舌鼓を打ちながらそれらを嚥下する。
「何で?」
「何で、って……」
「スマイル顔もいいし声もいいし、昔からモテるじゃん」
心拍数が逸る。優しい微笑みを携えながら俺が食事をとるところを眺めているきんときに、文句の一つや二つ言ってやりたい気持ちになる。そんなことを平気な顔をして言うな、勘違いしてしまうだろう、と。
「……急に何。褒めても何も出ないけど」
「ふは、いやさ、実は隠してるだけとかない?」
「ねぇよ」
「ほんとに?」
かぶりを振るう。俺の胸中も知らず、そっか、なんて気の抜けた返事をするきんとき。
「今だから言うんだけどさ。俺、お前のこと好きなんだよね」
「あぁ、……」
……
「……は、?」
「っふ、間抜けな顔」
ぶわり、顔が熱を持つ。言葉の意味が、わからない。思考が滞って、目の前にいるはずの彼の顔もうまく捉えられなくて、どんな表情をしているのかもわからない。
「は……?……ぇ?」
「だから。好きだって言ってんの」
すき。好き?きんときが、俺を?全身が熱い。はくり、口を開いて言葉を紡ごうとしては、何も浮かばずに閉じるを繰り返す。
「……ま、ぁ。嫌いだったら、こんなに一緒にいないでしょ、」
「……あのさぁ」
呆れたような声。食事を再開する気にもなれなくて、テーブルの上に脱力したまま置かれた片手に骨ばった手が重なった。
「、へ、」
「それ、素?なわけないよね」
するり、指が絡まる。あつい。手が。きんときと触れている面積が。こんなにも、熱くて。
「……なんで、拒絶しないの?」
▫︎ ▫︎ ▫︎
少し、期待している自分がいる、と、きんときは自分のことを冷静に客観視していた。目の前にいるスマイルは、やはり表情こそ大きく変わらないものの、視線を彷徨わせて口をつぐんでいる。
「スマイル」
びくり、大袈裟なほど肩を震わせる彼のことをかわいいと思う。知的で揺るがない自我。他人に無頓着なようで、時々垣間見える優しさと気遣い。基本はそつなくなんでもこなすが、実はかなり不器用なところ。
「……答えて?」
するり、細い指に指を絡ませた。だって、スマイルの白い肌が紅くなっているのは、きっと店の照明のせいでも、気のせいでもない。
「……そ、の」
「うん」
長考して答えを考えているところも愛おしい。きんときは柔らかく微笑んで言葉の続きを待った。
「嘘告じゃ、なくて?」
そうして待って紡がれた言葉がそんなものだったから、思わず吹き出してしまった。そうだ、スマイルという男はこういう男だ。そして俺は、そんなところにも惹かれたんだ。
「なに笑ってんだよ……」
「っ、いや、ふふ、だって、嘘告のためにこんなとこ来る必要ないでしょ」
「それはぁ……そうだけど」
この日のために雰囲気のいいレストランを探し、わざわざ数週間前に予約を取ったのだ。
「ドッキリじゃ、なくて?」
「ないよ。スマイル、……俺はスマイルのことが好き」
改めて、はっきりとそう口にした。スマイルがようやく俺の目を見る。その菫色は、滲んでいた。
「っ、え、!?ご、ごめんスマイル、そんなに嫌だった……?」
慌てて彼の手を離し、その涙を拭う。いくらスマイルが拒絶する素振りを見せないからって、その優しさに漬け込んでしまったか?そう思っていたとき。
「ち、が、」
震える手が、きんときの腕を掴んだ。
「……うれ、しくて、」
「……え、」
今度はきんときが固まる番だった。ぽろぽろ、涙を溢しながらスマイルが言葉を紡ぐ。
「お、れ……、……俺も、ずっと、すきだった……ずっと、っ……」
ついには言葉に詰まり、嗚咽を噛み殺し始める想い人の姿に、胸に広がる多幸感。
「……ねぇ、なんで過去形なの?今は?」
「ッ、……す、き、」
「過去形にしないでよ。俺ら、これからでしょ?」
涙を流していてもなお整った顔。むしろ、卓上の蝋燭の淡い灯に照らされた涙が光って、その様は西洋の絵画かのように美しかった。
「スマイル。俺と、付き合ってくれませんか」
また一粒涙が伝って、その雫は机に染みを作った。
「……はい」
ふわり、微笑んだスマイル。その笑みを忘れることは、きっと生涯ないだろうときんときは思った。
▫︎ ▫︎ ▫︎
「隣駅まで歩いて帰ろうよ」
きんときのその言葉に、断る理由もなく了承した。綺麗な街並みを、二人で並んで歩く。
「……夢じゃ、ない、?」
「ふふ、ずっと言ってる。夢じゃないよ」
叶わないと思っていた恋。人生で恋をしたのはたった一度きりで、きっと自分という人間は人生でこの一度きり、二度と恋をすることはないのだろうと、ずっと思って生きてきた。それが突然覆されて、動転するなという方が無理な話だ。
「スマイル。手繋ごう」
「ぇあ、」
する、と絡んだ手。重なる体温。また心拍数が逸る。
「まさか泣かれるとは思わなかったよ。本当に焦った」
「……ごめん」
「ううん。嬉しくて泣いちゃうの、かわいかった」
「かわ、……っ」
その爽やかな、大好きな声でかわいい、と囁かれれば、心臓は大きく脈を打つ。
「ふふ、ほんとにかわいい。かわいいね」
「〜〜ッ、……ばか、」
「あはは、顔真っ赤」
そんな、かわいいなんて、今までどちらかというときんときは口にしない方だった。BroooockとかNakamuからはたまに言われていたけれど。
「……いつから、好きだったの」
「ん?ん〜……いつからだろ、気付いたら好きだったなぁ。2年前くらい?スマイルは?」
「……4年前くらい?」
「もう、なんで言ってくれないの」
ふたり、他愛無い話をしてはくすりと笑いあって、歩みを進める。あぁ、もう駅に着いてしまう。まだ手を繋いでいたい。この温もりを手放したく無い。
「スマイル、今日はありがとう。これからは恋人として、よろしくね」
「っ……、ん。こちらこそありがとう、よろしく、」
改めて口にされるたび、だんだんときんときと恋人になったという事実が現実味を帯びてくる。人通りのない地下鉄の改札の前で、彼が立ち止まった。そして。
「……へ、ぁ、」
ちゅ、と、軽いリップ音が響いて、唇を食まれたことに気がついた。
「おやすみ、スマイル」
「〜〜〜、」
「ふふ……また、近いうちに」
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