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戦闘が徐々に激しくなる中、キルロンド生たちの中でも一番奥に構えていたパーティも、一人の兵士と相対し、そして、危機を迎えていた。
「ゴヴくん!!」
それは、ララ・フレア、モモ・フレア、ルル・フレア、ゴヴ・ドウズの平民パーティ。
運悪く、炎バリアを展開させる相手の為、ルル一人の力では、シールドが削れない中、必死にサポートに徹するララとモモだったが、気弱なモモに目を付けられ、その瞬間を、シールダーのゴヴが守りに入っていた。
(そういや、セノって魔族も言ってたな……。今度の戦いには大人はいない。訓練生ばかりの有象無象。今度こそ、死人が出るかも知れない。だとしたら、当たり前だろうけど、一番弱い俺たちなんだよな……)
“岩防御魔法・ガンシルド”
ゴッ!!
モモに向けられた強力な魔法、モモの前に出て、ゴヴは自身の目の前に岩の壁を形成する。
しかし、メキメキと岩は崩壊を始めていた。
(エルフ帝国での訓練で、俺たちも少しは強くなったと思う。けど……ここまでなんだろう。俺にしてはよく頑張ったかな……。最後まで、コイツらを守れた……)
「ゴヴくん……逃げてよ……。君なら逃げられるのに……」
守られながら、必死でゴヴを退かそうと、モモは背中を揺するが、ゴヴはその場から離れない。
(見ていてくれていますか、母さん……)
平民街は、マンションが横に並ぶような構造で建てられていて、そこで平民たちは暮らしていた。
しかし、行商人だった父は、平民の中でも少し地位が高く、その地位を守り、後を継がせる為、俺を貴族も通う魔法学校へと入学させた。
当然浮くし、友人なんて出来ない。
暫く一人での日々が続き、それにも慣れた頃だった。
「ゴヴ、彼女たちは貴族院フレア家のご姉妹だ。訳あって自ら地位を平民に下げたが、お前が付き人となった」
「え……? 俺が付き人……?」
元々の地位は貴族だったのに、自ら平民になったおかしな一族、フレア家。
その三姉妹の付き人に、俺が選ばれた。
きっと、父はチャンスだとでも思ったのだろう。
「ハァ? アンタが新しい付き人?」
開口一番、上から煽るように文句を付けてきたのは、青髪の次女、ルル・フレア。三姉妹の中で一番気性が荒く、男子との喧嘩までする始末だと聞いていた。
「落ち着いて、ルルちゃん。物静かで優しそうじゃない」
ルルを宥めるのは、赤髪の長女、ララ・フレア。同い年とは思えない、年上のような面立ちが特徴的だった。
そして最後に、何も言わず、扉の隙間から見つめてくるのは、人と接するのが臆病な桃色髪の三女、モモ・フレアだった。
(こんな変わり者三姉妹のお守りをするのか……。先が思いやられるな……)
「私は、行商人ドウズ家の長男、ゴヴ・ドウズです。これからよ……」
「アンタ! 同い年なんだから敬語なんて要らないでしょ!」
「は、はぁ……」
フレア三姉妹は、俺の通う魔法学校へ編入し、いつも三人一緒に行動を共にしていた。
少し下がって、その三人の光景を見るのが、俺の日常へと変わって行った。
しかし、元々貴族院にいたのに平民に自ら落ちる変わり者の一家の中で、こんなに奇抜な三姉妹。
問題は直ぐに発生した。
それは、虐めだった。
平民に落ちた哀れな三姉妹と、噂は瞬く間に広まり、わざとぶつかられたり、物を隠されたりが日常茶飯事となってしまっていた。
ルルもイライラした様子だったが、誰が主犯か分からなく、モジモジした様子の中を、ララが制していた。
ある時、何も言えないモモが標的になってしまった。
妹を守らんと、ララも歯止めが効かず、二人揃っていじめっ子たちの前に出でた。
「おい、ゴヴ! お前、コイツらの付き人なんだろ! お前も何か文句あんのかよ!」
そして、いつも一緒にいる俺も目を付けられる。
全員の視線が、俺へと集中する。
「は? 別に、ソイツらの喧嘩なんだから、俺から何か口出しする気はないけど」
そんな俺の言葉に、全員が唖然としていた。
そして、珍しくルルが俺の胸ぐらを掴んだ。
「ア、アンタ……それでも付き人なの!? 今までの付き人の人たちは、こういう時……」
しかし、何も言わずにララがルルを抑えた。
そして、瞳を見つめ、首を振った。
その後、当然ながら喧嘩が始まり、意外にも身体的に強かったルルとララは、男子たちを見事に蹴散らし、それから三姉妹への虐めは少なくなっていった。
「ハァ! せいせいするわ! みんな近付いて来なくて気楽だし、無能な付き人は何も言ってこないしね!」
俺は、別に何も言わず、ただ後ろを歩いた。
喧嘩が起きても、虐められても、ただ後ろにいた。
なんか、色んなことがどうなろうが、父がゴマを擦れなくなろうが、どうでもよかったんだ。
「ゴヴ、少しお話しない?」
「母さん……」
病弱な母は、寝たきりのことが多く、あまり連れ出して話すことも控えるように言われていた。
「最近、大変な三姉妹ちゃん達の付き人になったんですってね。お父さんが嬉しそうにしていたわよ」
「それは……別に……。俺は何もしてないし……。アイツら自由すぎるから、基本的には放ってる」
久々に話が出来たというのに、また三姉妹のこと。
俺は少しむくれながら、窓の外を見た。
「私はね、ゴヴのそういうところ、好きだよ」
「え……? どういうところ……?」
「ふふ、秘密。でも、それが伝わっているから、その三姉妹ちゃん達も、解雇できないんじゃないかしら」
「俺は何もしてないのに……何が伝わってるって……」
「でもね、ゴヴ。もし本当に、大変な目に遭ってしまうことがあったら、その時は守ってあげてね。それは付き人としてじゃない。大切な友人として、ね」
「いや……別にアイツらと友人なんかじゃ……」
困惑する俺に、母は微笑みながら部屋に戻った。
そんなある時、三姉妹と、以前、虐めの主犯と思われた男子二人組が、同時に休む日があった。
俺は、嫌な予感がし、早退をし、フレア家に急いだ。
悪い予感は的中、フレア家の前には、貴族院の所有する高価な車が二台と、三姉妹に両親、虐めっ子と、その父親たちも門で言い争っていた。
「だから、この子たちのせいで、僕たちの息子が怪我をさせられたと言っているんです! 問題ですよ!」
虐めっ子の父親たちは、怒っている様子で、虐めっ子たちの目論見は、恐らく三姉妹を辞めさせること。
「でも、うちの子たちがそんなことをするとは、とても思えないんです……」
しかし、怪我をさせたのは事実で、ルルも今まさに、ララに制され、手を出そうとしていた。
「ゴヴ……! アンタ……!」
「よぉ、どうせお前は何も言わないんだろ。達観して見てろよ、いつもみたいにさ」
はぁ……面倒臭いな。本当に面倒臭い。
そして僕は、両手を掲げる。
でも、何故だろうか。
“岩魔法・シルド”
俺は、三姉妹を包む岩のシールドを形成した。
バンバンと叩くが、中からも外からも干渉は出来ない。
「ララとモモとルルは、その二人を中心に長いこと虐めを受けていたんです。それでもやり返さずにいたら、気弱のモモを標的にして、喧嘩に発展しました」
「お前……! いつもは何も言わないくせに……!」
「君はなんなんだ!? 急にやって来て……! 関係ないだろう!」
「今の魔法は、ルルが手を出さないようにシールドを張りました。僕は彼女たちの付き人。ずっと見て来た証人でもあります。さっき、自分でそう言っていたもんな。『いつも何も言わずに、見ていただけ』だって」
虐めっ子二人は、何も言い返せずに口を尖らせる。
「ほ、本当なのか……? お前たちが虐めを……?」
「白状しろよ、二人とも。今なら間に合う。このまま学校の問題になれば、辞めるのはお前たちの方だぞ」
そうして、二人は白状し、父親二人はフレア家の両親に深く謝罪をして、帰って行った。
「アンタ……いつも黙って見ているだけだったのに、急になんなの!?」
「はァ? ルル、お前、あのまま言われ続けていたら、絶対に手を出していただろ。それじゃ確信犯になるんだよ」
「何その言い方!! 何様のつもりよ!!」
パシン!
俺を責めるルルに、ララは始めて手を上げた。
小さな音で、あまり痛くなかっただろうが、三人とも涙を浮かべさせていた。
そして、普段は何も言わないモモが、小さな声で告げた。
「ゴヴくんは……初めて私たちを同列に見てくれた……。偏見も、ゴマ擦りとか、お父さんに言われているんだろうけど、ゴヴくんは私たちを縛ったり、お節介とか何もしないで、それでも見守っていてくれた……」
「私たちは知っているはず。どうして自由にしていられたのか、楽しく学校生活を過ごせていたのか。それは、ゴヴくんが私たちのことを何も言わずに見ていてくれたから」
「私だってそれくらい……分かってるよ……」
「水を差すようで悪いが、俺はそんな救世主みたいに思ってはいないぞ。ただ面倒だっただけだ」
「やっぱり今の無し!! コイツをぶん殴る!!」
「やってみろ、猪突猛進女!!」
それからは、たまに喧嘩をしながらも、なんだかんだで三姉妹の付き人を続けた。