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リハーサルスタジオの扉を開けると、独特の空気が三人を包み込む。
壁には吸音材が貼られ、天井からは無数のライトが降り注いでいる。
楽器やケーブルの並ぶ空間は、彼らにとって“日常”であり、特別な場所でもあった。
「今日は新曲のアレンジ、ちょっと挑戦してみたいんだ」
元貴がギターケースを開きながら、涼ちゃんに向かって声をかける。
「いいね、元貴。どんな感じ?」
涼ちゃんはキーボードの前に座り、軽く指を鳴らす。
滉斗は自分のギターを手に取り、静かに二人のやりとりを見守っていた。
彼はリハーサルの準備を手早く整え、さりげなく涼ちゃんのキーボードの電源を入れ、ケーブルの接触まで確認してあげる。
「涼ちゃん、ペダルの位置これで大丈夫?」
「うん、ありがとう、滉斗。助かるよ」
涼ちゃんは滉斗の細やかな気遣いに、自然と笑顔を向ける。
滉斗はその笑顔を見て、心の中でそっと安堵する。
自分の存在が涼ちゃんの役に立っている、そう感じられる瞬間が、彼にとって何よりの幸せだった。
リハーサルが始まると、元貴のテンションは一気に上がる。
「涼ちゃん、ここのハーモニー、もっと強く出してみて!」
「わかった、元貴。やってみるね」
元貴は涼ちゃんの隣にぴったり立ち、肩越しに鍵盤を覗き込む。
「やっぱり、涼ちゃんの音が入ると全然違うんだよなぁ」
そんな言葉に、涼ちゃんは少しだけ耳を赤くして
「もう、元貴はおだてすぎ」
と照れ隠しに笑う。
滉斗はそんな二人の様子を、静かに見守りながらも、
自分のギターでそっとリズムを支える。
大きな声で主張することはないけれど、
滉斗のギターがあるからこそ、二人の音楽は安心して広がっていくのだ。
休憩時間になり
元貴は
「涼ちゃん、ちょっと外の空気吸いに行こう」と手を引く。
滉斗は「行ってらっしゃい」とだけ言い、二人を見送る。
外のベンチで、元貴は涼ちゃんの肩に寄りかかりながら、
「涼ちゃんとこうしてると、いろんなメロディが浮かぶんだ」
と小さく呟く。
「元貴、音楽の話してるときが一番楽しそうだよね」
「だって、涼ちゃんと一緒だと本当に楽しいんだもん」
涼ちゃんは少し照れながらも、元貴の言葉を受け止める。
そのやりとりを、スタジオの窓越しに滉斗が見つめていた。
彼は静かに微笑み、二人の幸せそうな姿を胸に刻む。
リハーサルが再開されると、三人の音はさらに一体感を増していく。
涼ちゃんのピアノが優しく空間を包み、元貴のギターが力強く響き、
滉斗のギターがそのすべてをしっかりと支えていた。
音楽がひとつになる瞬間、三人の心もまた、静かに重なっていく。
けれど、滉斗の胸の奥には、誰にも言えない淡い痛みが残っていた。
それでも彼は、涼ちゃんの幸せを願い、今日も影からそっと支え続けるのだった。