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魔界の空に、人間界の花火が咲いた。
――それが、当たり前になった。
* * *
「……すごい」
セラフィナは、バルコニーから空を見上げていた。
十歳。
もう、あの頃みたいに
転んですぐ泣いたりはしない。
けれど。
胸が高鳴るのは、変わらない。
「姫君。本日の主役が
そんなところで静かにしていては」
クロウ・フェルゼンが、少し困ったように言う。
背は伸び、声も低くなったが、
目は相変わらず真剣だった。
「……だって」
セラフィナは、振り返る。
「ちょっと、うるさいんだもん……」
城の大広間からは、
笑い声と音楽。
人間界と魔界、
入り混じった人々。
もう、誰も剣を持っていない。
「……それも、成長ですね」
クロウは、穏やかに微笑んだ。
* * *
大広間。
長いテーブルには、
人間界の料理と魔界の料理が並ぶ。
甘いものも、辛いものも。
「姫君、お誕生日おめでとうございます」
ノエル・クラークは、すっかり青年の顔になっていた。
「これを」
差し出されたのは、
人間界の職人が作った小さなペンダント。
「……綺麗」
「守護の意味があります」
アルト・ヴォイドも続く。
「こっちは、魔族鍛冶と人間鍛冶の合作だ」
小さな腕輪。
「……みんな、ありがとう」
少し照れたように、セラフィナは笑った。
その瞬間。
周囲が、静かになる。
(……)
(やっぱり)
(可愛い)
誰もが、同じことを思った。
* * *
玉座。
魔王は、ゆっくりと立ち上がる。
「――我が娘、セラフィナ・ノワール」
場が、静まる。
「今日で、十歳だ」
「人間界と魔界が、
ここまで来られたのは――」
一瞬、視線が娘に落ちる。
「この子が、泣き、笑い、
信じてきたからだ」
セラフィナは、少し驚いた顔をした。
「……パパ?」
魔王は、ほんのわずかに微笑んだ。
「誕生日おめでとう」
その瞬間。
拍手が、割れんばかりに響いた。
魔族も、人間も。
身分も、種族も関係なく。
* * *
夜。
ケーキの前。
「……ふー……」
十本のろうそく。
一息で、すべて消える。
「おめでとう!」
歓声。
セラフィナは、手を胸に当てる。
(……10歳)
(もう、子供じゃない)
でも。
ふと、思う。
(……でも)
視線を上げると。
父がいて。
クロウがいて。
ノエルとアルトがいて。
リリアが、泣きそうな顔で立っている。
(……やっぱり)
「……まだ」
小さく、つぶやく。
「大丈夫……」
「みんないるから」
その言葉に。
大人たちは、誰も笑わなかった。
ただ、深く、頷いた。
――守ると誓った世界が、
今、ここにある。
そして。
この姫は、
もう「守られるだけ」の存在ではない。
人間界と魔界をつなぐ、
小さな光になっていた。
十歳の誕生日。
それは、
新しい物語の、はじまりだった。