テラーノベル
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「だ、駄目と言いたい所なんだけど……」
「どうしても、駄目? お金は私が自分で払うし、ナナさんも一緒に居るし……」
「でも、ほら、な? 前回も危ない目に合ったばかりというか……」
「ハッ! と言う事は、フォーにも声を掛ければ――」
「待て待て待て、会社に勤めてる社会人ってな? 意外と夏休み少ないんだよ、流石に泊まり込み警護は相手に申し訳なさ過ぎる。本人からも何とかイベントの予定を取り付けたって言ってたくらいだから……」
その夜、必死にお兄ちゃんと交渉していたのだが。
ナナさんの方は、声掛けたらあっさりOK。
むしろtimelimit:10と交渉して、動画にしても良い? みたいなお話を通し始めている様で。
コレに関しては、向こうも道場の宣伝になるってノリノリだって聞いている。
なので、メンバーは既に揃ったのだ。
だから後は、私がお兄ちゃんの許可を得るだけ。
「でもでも、移動中は殆ど電車移動だし、皆も居るし。それなりの集団だったら、声掛けて来る人も居ないんじゃ……」
「まぁ、確かに。それにこういうのも“若い頃の経験”というか、良い思い出になるのは凄く理解してるんだが……泊まりかぁ」
「道場に着いてからは、それこそ武術の達人がすぐ近くに付いてる訳だし、それこそ安心なのでは……?」
「た、確かに! ちょ、ちょっとだけそっちの方を、相手方に確認してからでも良いか? 俺の方で、timelimit:10にお話を聞くというか。保護者としての質問だったら、迷惑になる事もないだろうし」
という事で、その場でメールし始める兄。
すると、すぐにその後通話が掛かって来て。
『夜分に突然失礼いたします、平素より大変お世話になっております。御社のガンサバイブオンラインではtimelimit:10を名乗らせて頂いております、佐々木 天馬と申します。この度は、夏休みの体験ツアーをご検討いただけていると言う事で、詳しく説明させていただければと』
お兄ちゃんのパソコンから、彼の声が聞えて来た。
思わず兄妹揃って姿勢を正し、ピンと背筋を伸ばしてしまった程。
「此方こそ、夜分にご連絡してしまい申し訳ありません。6keyのサポーターを務めております、白川 努と申します。こうしてゲーム外で直接お話するのは初めてですが、どうぞよろしくお願いいたします。妹共々、日頃からお世話になっております」
「え、えっと! ゲーム以外では、初めまして! 白川 夢月です! 今、お兄ちゃんから合宿に行って良いかって許可貰ってる所でして、えっと、えっと――」
「こら、夢月。会話の順序、な? 妹が失礼しました」
『はっはっは。いえいえ、気にしませんから大丈夫ですよ。シックスも、こんばんは。武術体験にご興味を持って頂いた様で、とても嬉しいです。さてさて、それでは早速お聞きしましょうか。何でも質問して下さい? やはり泊まり込みともなれば、送り出す側は不安が多いでしょうから』
という事で、お兄ちゃんと10のお話合いが始まってから。
私は後ろで聞いているだけになってしまったのだが、何と言いますか……お兄ちゃんが、凄く保護者って感じで色々聞いてくれており。
一日のスケジュールから、どういった項目を教えるのか、怪我をする恐れは無いのか。
またどのような面々が集まるのか、男女比や寝泊まりする場所の構造。
更には本当に怪我をした場合、すぐに手当て出来る様な病院の有無などなど。
物凄い数の質問を投げかける度、相手は即答。
お兄ちゃんが、これだけ色々な不安を覚えていたのかってビックリしたのは当然だが。
これらに対してtimelimit:10が、物凄く慣れた感じに説明しているのもビックリ。
本当に保護者と学校の先生の会話を聞いているみたいな、そんな気分になってしまった。
『なるほど、最近その様な事が……ではこうしませんか? 白川夢月さんの連絡先を、私の方にも教えて頂いて。皆様が駅に着く頃に、こちらから車でお迎えに参りますよ。もちろん帰りも、そこまでお送りいたします。そうすれば道中、危険な目に合う事も極めて低くなるかと』
「す、すみません……そうして頂けると言うのなら、本当に安心です」
「ちょっとちょっとお兄ちゃん!? それは流石に悪いんじゃないかな!?」
『いえいえ、全く問題ありませんよ? それに皆様以外に来るのは、近所の子供達が泊まり込みで遊びに来るぞーという程度なモノですから。そしてお兄様の御心配はごもっともです。今だけは迷惑云々の話では無く、未成年を送り出す心配を少しでも減らすという意味で、どうか我々の我儘に付き合って下さいませんか? シックス』
何故か、テンの方からもお願いされてしまう始末。
こ、これは良いのでしょうか……だって私、向こうの家にお邪魔する身分なんですけど。
『堅苦しく考えず、“教えたい病”のジジィが、皆様を待ちきれないから早く連れて来たいという我儘、程度にお考え下さいませ……いや本当に。実際今から夏休みが待ち遠しくなってしまっておりますから、ハッハッハ』
とか何とか冗談みたいな事まで言い始めているが。
これ等の話を聞いて、やっとお兄ちゃんも頷いてくれた。
もはや相手に申し訳ない感じにはなってしまったが、それでも……ヤッタ!
これで、夏休みの間も皆と遊べる!
そしてtimelimit:10からも、色々と教えてもらえる機会が本格的に訪れた事になるのだ。
「それでは……どうぞよろしくお願いいたします。ウチの妹は、少々警戒心が緩い所がありますので……どうか。あと運動神経は極めて悪いので、どうぞお手柔らかに……」
「お兄ちゃん!?」
『深く、心に刻みつけておきましょう。夜に悪さをしようとする子供達が居れば、私の方で制裁しておきますので。どうぞ、お兄様はご安心なさってください』
二人揃って凄い事を言っているけど……本当に、心配し過ぎなのでは?
などと、色々突っ込みたくはなったけど。
その後必要な持ち物やら、どんな服装が望ましいというお話を伺い、そっちは必死にメモ。
私達の体力や技術を見て、にはなるが。
成長が早い場合は少しだけ山に入ったりもするみたいだ。
専門の道具は全部向こうが用意してくれるらしく、参加費を考えると“本当に元が取れるのだろうか?”ってちょっと心配になる程。
『そして今回は、近所の子以外は皆様“プレイヤー”という事なので……可能であれば、少々特別メニューも用意させていただこうかと。是非、お楽しみに』
「ほ、本当ですか!? 凄く嬉しいです!」
「夢月……相手は本物の武闘家だからな? こういう時は、それこそ“お手柔らかに”が正しいのでは……」
なんて会話を最後に、とりあえず彼との通話は終了。
お兄ちゃんからも合宿参加の許可が取れたので、私は急いで皆に伝える為にガンサバにログインするのであった。
楽しみ、凄く楽しみ!
夏休みがこんなに待ち遠しいのなんて、本当に初めてかもしれない。
◆
『ナナさん! 今回は本当にありがとうございます!』
「いえいえこちらこそ~、誘ってくれて嬉しい! ていうかシロちゃんとお泊りだなんて聞いたら、行くしかないっしょ!」
ゲーム内で集合した時も、すっごくお礼を言われたけど。
そっちが終わって、普通に通話を繋いだ時もまたお礼を口にするシロちゃん。
いやはや、本当に楽しみなんだねぇ~って分かるくらいにニコニコしていて、とても微笑ましい。
とはいえ、今回の夏合宿。
私としても動画ネタとしてありがたいし、10番目である佐々木 天馬さん。
そしてそのご家族、というか息子夫婦ですら全面協力します! みたいな雰囲気だったし。
こっちとしては、というか配信者としては本当にありがたいと言えるだろう。
何より。
「今回は向こうも“特別メニュー”を作ってるって言ってたし、マジでガンサバに役立つ技術とか教えてくれそうだよ~? やったねシロちゃん、私達今後無双しちゃうかもよ?」
『そっちも凄く楽しみで、何やるんだろうって今からワクワクしっぱなしです!』
いやはや、相変わらず真っすぐだねぇ。
むしろ私達の場合は、それこそ基礎体力向上の訓練で終わってしまいそうな気がするけど。
とはいえ、そんなのは相手も理解している筈。
そしてtimelimit:10が少しだけ教えてくれた内容としては……彼の息子さんが、“お客様用のパソコンを組んでいる”というお言葉を聞いたのだ。
つまり、私達が習うのは現実の項目だけじゃない。
VRでの訓練も、今回の合宿に含まれると言う事で間違いない。
であれば。
「負けっぱなしは、性に合わないもんねぇ~」
『ナナさん?』
「うんにゃ、こっちの話。ねぇねぇシロちゃん、すんごく田舎で、川遊びも出来るんだってさ! 水着持って行こうよ! 皆で川遊びしようぜ~」
『み、水着ですか!? わ、私……昔の学校指定のヤツしか持ってないです。あんまり成長してないから、今でも着られるかな……』
「いやいやいや、新しいの買って夏を満喫しなきゃ! 今度一緒に買いに行こうよ! ね、お願~い」
なんて、いつも通りの会話に持って行ったが。
私の中にある十番目の記憶、それはコピーNPCを相手にした経験しかないのだが。
アレですら、私の動きを封殺して来た程のアクションの数々。
本物はどれ程凄いのか、そしてコレを超える何かを見つけないと、私はtimelimit:10に絶対に勝てない事を意味する。
超遠距離型の9Kとか、爆弾魔のoctopus8。
またはそもそも方向性が違う555などは、まだ勝てなくても納得がいくのだが。
私が得意とする、近距離から中距離戦闘において。
6keyと同様に“超近接戦”を得意とする、timelimit:10。
自分も得意だと思っていた土俵で、手も足も出ないのでは……それこそ、悔しいというものだ。
以前シックスに負けた時は、悔しいって言うより“楽しい”が先行した。
もう一回もう一回って、自然と言葉が出るくらいに楽しかったし、何より私にも勝ち筋が見えた。
十戦十勝にはなれなくとも、勝てないと思わせる様な試合内容では無かったのだ。
だけど、10番目は。
私の目からすると、全然勝てる未来が浮かばない。
圧倒的なまでの、上位者という立ち位置に思えて……“逃げたくなった”のだ。
リアルで逃げ続けている私にとっては、VRは立ち向かう場所。
だというのに、そんな感情を覚えた自分が許せなかった。
そしてシロちゃんは本物のテンと、シックスで試合を行い引き分けに持ち込んだと言うじゃないか。
だったら、私が逃げて良い理由なんか無い。
6keyとsevenは、本当に良い試合が出来るっていう存在でありたい。
なら、もっと強くなれ。
この子は何処までも吸収し、どんどん強くなっている。
であれば、年上であり度々頼ってくれるシロちゃんに対して、いつまでも胸を張れる存在であり続けたい。
これを叶えたいのなら……今回の一件で、timelimit:10に勝てる一手を見つけるしかない。
VRの世界では、カメラに写っている間は、私は“逃げない”と決めたのだから。
「ホント楽しみだねぇ~……」
『はいっ! 私、お泊りイベント好きになりそうです。前の謝恩会もそうですし、今回も凄く楽しみです!』
「だからって、クロさんの家に泊りに行くー! なんてやったら、ガチでお兄さんに心配されちゃうからね? そういうのは順序を守ろうね~?」
『そ、そんな事は流石にしませんよ!?』
コロコロと感情を変えるシロちゃんに対して、思わず微笑を浮かべながらも。
心の中では、確かな決意が生れていた。
例え今回はリアルでの“修行”になろうとも、耐え抜く。
現実だったとしても、絶対に逃げない。
そして確かな何かを掴んでからじゃないと、絶対に帰れない。
私は賞金首の7番目であり、ネットの世界こそ生きる場所なのだから。
ここで商売をすると決めた以上、逃げれば“存在意義”に関わるのだから。
コメント
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147話読了!お兄ちゃんの保護者としての質問攻め、あれだけ細かいとこまで気にしてて本当に良い兄貴だな~ってほっこりした。でも10さんの即答っぷりがプロ過ぎて、逆に「教えたい病ジジィ」発言で笑ったわ(笑)。夢月のワクワクがこっちまで伝わってきて、夏合宿が楽しみになるね。最後のナナさんの「逃げない」って決意、あの悔しさから強くなる覚悟がめちゃくちゃ熱かった。日常回だけどキャラの心情がぎっしり詰まってて、いい話だった!
くろぬか
3,144
柘榴とAI

441
柘榴とAI

391
#マックス・マカリスター