TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する




「――せーのっ、来たぞって、どーした?」

「……うっさい、黙れ」




チャイムの音は一度だけ響いた。誰かを確認する余裕なんてなくて、俺は、扉を開けて、扉の前にいるであろう人物に抱き付く。扉の前にいる人物が、朔蒔じゃないっていう考えはなかった。直感的に、そいつがそこにいるって思った、気づいた、感じた。

運命だからって、今も彼奴のことばかりて言う。

いきなり抱きついてきた俺を、どうすれば良いのか分からないというように、朔蒔は、手で宙を切っては、指を曲げ、俺の頭に手を乗せた。子供扱いされているんじゃないかって思ったが、今回ばかりは許す。凄く、安心できたから。




「星埜、大丈夫そ?」

「……家、入れ」

「今日は、我儘だなァ。まっ、甘えん坊の星埜も嫌いじゃないけど」




と、減らず口で言いながら靴を脱いで、部屋に入る朔蒔の後を追う。朔蒔の後ろ姿に、少しだけ違和感を覚えたが、今はそれよりも、一人になりたくなくて、朔蒔の服の裾を掴んだ。


リビングに着けば、ソファに座るよう促されて、俺は大人しく従う。俺の家だけど、すっかり、彼奴は馴染んでしまって、ここにいるのが当たり前みたいになっている。第二の我が家みたいなものかも知れない。まあ、そんなことどうだって良くて。




「星埜」

「……」

「せーのっ」

「……っ」




名前を呼ばれ、朔蒔がそこにいると安心してしまったせいか、俺の目から涙がボロボロと零れた。最悪だ、泣かないって……それは決めていたのに。

決壊したものは、もう元に戻すことは出来ないし、止めようと努力するだけ無駄だ。

俺の目の前にいる朔蒔の胸の中に飛び込んで、そのまま泣きじゃくる。こんなの恥ずかしいとか、みっともないとか、そういう感情よりも、ただ朔蒔が恋しかった。




「朔蒔……」

「おーおー、辛かったんだよなァ。分かる、分かるぞ、星埜。俺も、おんなじ」




朔蒔の声も、何処か悲しげで同じ気持ちなんだ、と何処か安心できた。こんなことで、安堵感を覚えて良いものかと思ったが、俺は、今、俺の言葉を真正面から受け止めてくれる人が欲しかった。

そういうと、何だか、朔蒔を利用しているようで悪い気がしたが。




(……朔蒔も、辛いよな)




俺だけじゃないって、朔蒔まで地獄に落とそうとしている自分がいるのでは無いかとハッとして、俺は、自分が情けなくなった。

朔蒔も、楓音と、はじめこそ仲が悪かったが、だんだん仲が良くなっていったわけだし、朔蒔も朔蒔で楓音に対して思うことの一つや二つあったんじゃないかと思う。それでも、朔蒔は、俺を慰めて、分かっているから「楓音」と名前を出さない。此奴に、気を遣うっていう心があったのかと、ほんと、失礼なことも思ったが。




「星埜、泣きやみそ?」

「もう少し、こうしてろ」

「ほんと、我儘だなァ。優等生の星埜くんは、俺みたいな悪い奴頼ってもいいの?」

「お前は……」




自笑、なんだろうか。

朔蒔は、自分が悪だという。それは、出会った時から変わらなかった。初っぱなから、俺がヒーローで、自分はヴィランでとかいった男だ。その認識を改める気は無いと、その言葉から分かった。何で自分を悪者だって言うのか分からない。そりゃ、暴力的なところ、理性より本能に従うところ、そういう面を見てきたら、ヤベえ奴だなっていうのは分かる。でも、それが全て悪いって訳じゃないって、俺は思っているんだが。




(俺、朔蒔のこと矢っ張り、まだ何も知らねえかも)




朔蒔が好き。でも、俺は、朔蒔のこと、何も知らないんじゃないかと。その事実は変わらないし、俺は、朔蒔に踏み込めていない。彼が前にいった『一緒に堕ちてくれる?』、『受け入れてくれる?』の言葉に対して、答えを出せていない。応えてあげられていない。もし、このラインを越えることが出来たら、その時やっと、思いが通じ合うんじゃないかと。


だから、知りたい。

でも、知りたくないという思いも、少なからずあった。今、表面だけ見ていたいって。そう、思ってしまった。




「……お前は、何で、そんな自分の事悪だって言うんだ?」

「ん? 何でって、そりゃ、俺は悪いコだから」

「わかんねぇし」

「カエルの子はカエルだろ? それと一緒。だから、俺は悪いコ」




と、朔蒔は、俺の匂いを吸い込むようにして、俺の頭をスンスンと匂っていた。犬みたいだな、と思いながら、俺はされるがままになる。




(カエルの子はカエル……か)




医者の子供は医者になるみたいな、同じ例えだが、そういうことを言いたいのだろうか。じゃあ、朔蒔の父親も? と考えてしまう。紗央さんがそんな感じではないし、となると、朔蒔の父親が。




(いや、そんな……)




少しだけ、嫌な想像が頭をよぎった。それを、塗りつぶすために、俺は、よりいっそ朔蒔に抱きついた。そんなことないって言い聞かせたかった。


じゃあ、俺も――




(医者の子供が医者になるなら、俺も父さんみたいになるのか?)




正義を追いかけ、いつかその正義を脱ぎ捨てて、復讐の鬼と化す。

そんなの、俺の望む未来じゃない。


朔蒔を見て、少し落ち着いた俺は、楓音のことを弔いながら、朔蒔の体温に身を任せた。

loading

この作品はいかがでしたか?

41

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚