テラーノベル
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パン、と乾いた音がしたかと思うと、誰かがパチパチパチパチ……と拍手を始めた。
それに合わせて拍手が増え、あっという間に割れんばかりの大拍手となる。
加えて、中継魔術の映像の向こうから、世界各国の歓声が聞こえてきた。
《いいぞー!》という声に混じって聞こえたのは、《フェリシテ姫様ー!》と私の名を呼ぶ声だ。
はっと顔を上げると、魔術で投影された映像にシャレット聖王国の城下町の人々が映っていた。
ジョゼはこのために急遽シャレット聖王国に戻り、城下町の人たちに私への応援をお願いした。
その際、彼女にご執心の竜騎士が、アルフォンス様から借りた最速の飛竜を使って彼女を送ってくれたらしい。
そしてタイミングを見計らい、アルフォンス様が投影魔術を聖王国と繋げたのだ。
《俺たちはいつもフェリシテ姫様に助けられていた!》
《そうだ! 姫さんはとても優しくて民に寄り添ってくれる、本当にいい人だ!》
笑顔で叫んでいるのは、工事現場の男性たちや、鍛冶場のおじさんだ。
《火事になった時、助けてくれてありがとう! 姫様は命の恩人だよ!》
《姫様ぁー! 幸せになってねぇ!》
声援を送っている人の中には、孤児院の子供たちもいる。
《また〝超高い高い〟してね~!》
ブンブンと手を振る子供が映ったあと、ありとあらゆる画面に城下町の人々の笑顔が映る。
《姫様》
《フェリシテ姫様》
《あんたはいい姫様だよ》
《帝国でも元気にやりなよ》
《姫様! 大好き!》
城下町の人々の声を聞き、私は両手で口元を覆って涙を零していた。
そのようにして、割れんばかりの拍手が起こるなか、私が正式に帝国の皇妃となる事が認められた。
**
私とアルフォンス様の結婚は認められた訳だけれど、先日はレティシアとして挙式したので、教会からやり直しをするようにと要請があった。
二度目の結婚式に反対する者はおらず、私は再度ウエディングドレスに身を包んでヴァージンロードを歩んだ。
今度は聖女としてではなく、フェリシテ王女として皇帝陛下に嫁ぐので、父がエスコートする事となる。
私は祭壇の前で待っていたアルフォンス様と微笑み合い、再びミカティア神に誓いの歌を歌い上げ、聖水でのお清めを受けて指輪の交換をし、誓いのキスをする。
帝国に身を捧げる宣言をして宝冠を授けられたあと、今度こそ私はフェリシテとして帝国の民に手を振る事ができた。
五歳の時に初恋の人に出遭ってから十四年。
〝ハズレ姫〟〝じゃないほう〟〝青いほう〟などさんざん言われた私は、帝国の皇妃となった。
だけど今は、長年帝国を支配していた魔石を破壊して蒼天をもたらした〝晴れの皇妃〟というありがたい呼び名をもらうようになった。
そして夜。
私は今度こそ本当の初夜を迎えるために、また丁寧に身を清めてアルフォンス様のおとないを待った。
今はフェリシテとして皇帝陛下に嫁ぐ事ができたので、室内にはジョゼが控えてくれている。
皇妃となった以上、貴族の女性が女官として複数人つく事になるけれど、どうやらジョゼもその仲間入りができるみたいだ。
彼女は例の竜騎士に求婚されているけれど、その人は聖王国の侯爵家の三男らしい。
侯爵家の跡継ぎにはなれないけれど、アルフォンス様に今回の働きを認められ、聖王国側に打診があって、伯爵位を授けられたようだ。
彼の求婚を呑めばジョゼは伯爵夫人となり、貴族の女性となれる。
加えてジョゼが固い意思で私に仕えるなら、彼も聖王国を離れる覚悟はあるそうだ。
アルフォンス様にその話をすると、ジョゼは私になくてはならない存在だと認めてくれた。
その上でジョゼと竜騎士の彼が結婚するなら、夫を帝国の軍に迎え入れて皇妃づきの護衛騎士にすると言ってくれた。
ジョゼは今まで竜騎士に求婚されても、私の恋が叶えばシャレット聖王国を離れなければならないので、想いに応えられないと言っていたらしい。
けれどこの提案を受けて結婚する意思を固め、伯爵夫人となった上で、女官として私に仕え続けてくれる事となった。
勿論、他にも帝国の貴族女性が複数人女官になるけれど、アルフォンス様はジョゼと上手くやっていける女性を探すと約束してくれた。
「まだ夢の中にいるみたい」
寝室のソファに座った私が呟くと、控えているジョゼが微笑む。
「姫様……、いいえ、妃殿下は今まで努力を絶やしませんでした。神様はすべて見ておいでです。頑張りが認められたのだと思いましょう」
「……そうね。そう思うようにするわ」
「長年、妃殿下は周囲から虐げられてきました。自己肯定感の低さが、皇妃として認められたからといって、すぐに治る訳ではありません。少女時代から培われた価値観は、今後も為人を形成していくでしょう。……ですが、あなた様は今はもう大陸随一の大国の妃殿下となられました。臣下や民に優しく振る舞うのは良いとしても、今までのように人から一歩下がったところで満足するようではいけません」
「あなたの言う通りだわ。意識的に気をつけなきゃ」
返事をすると、ジョゼはクスッと笑う。
「私こそ夢のようです。長年仕え続けてきた姫様……、妃殿下が、こんなにご立派になられるなんて。それだけでなく、私が女官としてお側でお仕えできる事にも幸せを感じております」
会話をしていた時、伝言侍従が「皇帝陛下がお越しです」と彼のおとないを伝えた。
するとジョゼはスッとまじめな顔になり、背筋を伸ばす。
そしてアルフォンス様が寝室内に入ってくると、彼女は一礼をして退室していった。
「二度目の初夜だな」
彼は私を見てクシャッと笑う。
#虐げられヒロイン
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