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禁忌の術・牙を剥く「魔獣」
「ビッグニュース、隣町から転校生来るって!」
「イケメン男子、恋煩い覚悟の承知の助~」
「杏子! 盛大にお迎え会シヨ」
遊戯は休み時間、女子達ののろけ話の風の噂に頬杖を突いたまま聞き耳を立てていた。どんな人かな? DM知ってたら最高なんだけど。Xやインスタで賑わいを見せている……早朝のチャイムが鳴りHRが始まった、担任の先生の後に他校から来た見慣れぬ制服の美男子が登壇した。
「皆さんに新しい転入生を紹介します。今日からお世話になる「獏良了」君です」
獏良と名乗る彼は優しくて穏やかな佇まいだった、良い友達になれそうだ。遊戯は確信したー
「よろしくお願いします。趣味のDMでは誰にも引けを取りません」
湧き上がる歓声! クラスが一つになれた瞬間だった……女子は端整な顔立ちと上品な雰囲気に一目惚れ、男子はデュエリストとしての戦友の期待感で満たされている。遊戯の隣の席に座っては固い一期一会の握手を交わした。
「僕、武藤遊戯。実家はカードショップなんだ……今度遊びに来なよ」
「ヨロシクね、遊戯君」
静かで落ち着いた人なんだな。あれ? 首から下げてる物って……僕と似ている千年アイテム?? もしかしてー
「獏良君! お近づきのしるしに私の家でホームパーティしない? 遊戯のじーちゃんも誘って、DMのバトル・ファイトの催しも当然」
「うん。嬉しいよ」
僕は彼にパズルの事を言おうか迷ったが、その言葉は喉から出なかった……彼も選ばれし英雄なのかな。それともよほどゲームに精通して、偶々エジプトの民芸品の旅行先で買い占めたのかも、他意は全く無い。獏良了君。君は一体? あっという間に放課後、僕ら三人は下校して杏子の家に直行した。
「お母さん麦茶~遊戯と獏良君!」
「あら、いらっしゃい。ご飯食べてく? 男の子が二人……両手に華ね」
「もーそんなんじゃないって」
一軒家は羨ましいほど端正で整っていた、女の子の部屋って緊張するな。でも獏良君の様子は少しおかしかった、千年リングが傾いている。
「素敵なアクセサリーね……千年アイテム? 遊戯と一緒なの?」
獏良君が珍しく早口になった、理由も無く付けている訳じゃない。
「これはとても高級な品物なんだ、自分の全財産を使って海外の旅行品として父から託された大切なリングだよ。似た者同士……これからはDMで語らないかい?」
遊戯は必死に彼を気遣う。おk!
「うん良いよ。バトルしようよ! 杏子は審判ね」
「分かった! 勝者にはあとでご褒美、夕飯のハンバーグ大盛ネ♡」
僕らはハイ・テンションになった! 楽しい時間だー
「デュエル!!」
良いなあ平和なひととき。麦茶のコップを飲みながら女子の家でゲームなんて、これが醍醐味!
「僕のターン。グレムリン守備表示、魔法カードセット」
彼の腕前の披露宴だ! 今日を機にもっと仲良くなるぞ、ね!? 獏良君……
「ガーゴイル攻撃表示、バトル・ファイト開始!」
神のみぞ知る結末ー千年アイテムの遺志とリングの暴徒化、獏良の内部に潜む迷宮の輪舞曲~ロマン。
DMR(デュエル・モンスターズ・リザレクト)の追従者
獏良は勇ましかった。千年アイテム(リング)の事にはこれ以上触れなかった、彼の傷口に塩を塗る訳じゃ無い。デュエルは最高に興奮した思い出の一ページに加わる……新鮮なカード、美麗なモンスター、魅力的な魔法・罠! DMの“神”の思し召し、なのかも? 二時間後。デュエルは彼の勝利だった、もう一人の僕の出番も無く杏子には格好良い所も見せれなかった(泣)ぴえん。
「次は『武藤家の宝物』でカードの交換しようよ。じーちゃんまた新しいパック仕入れてたからさ」
三人はリラックスしてはお茶菓子を手軽に食べながらテレビのYouTubeのDM動画を見入っていた。平和な光景……ずっと続きますようにー
「話を戻すようで悪いけどっ」
獏良は遊戯のパズルを見て言った。興味津々!
「その千年アイテムの完成と共に君に第二の人格が誕生したんだったね、遊戯君」
体育座りで女子の部屋の物を視線で散策している僕に、杏子が気付いた。
「な~に~? そんなに気になるの?」
「い、いやっ免疫が無くてさ! 女の子の一人部屋何てっごめん」
杏子は優しく頷いては彼(もう一人の僕=ユーギ)を想った。
「今の所、表の人格が劣勢ね! 彼~大丈夫??」
やめてあげて! 刺激しちゃダメッ! 獏良君は静かに見守っていたー
「羨ましいな。信頼できる友達が多くて……転校ばかりで上手に続かなかった」
少し湿っぽいムードな室内のエアコンが廻って僕らを勇気づける。青春真っただ盛り!
「このリングは妹の修学旅行のお土産で貰ったモノなんだ」
「そうなんだ。やっぱりエジプト?」
「ご名答」
千年アイテムの遺志……闇のゲームの言い伝え。ユーギ君は強かったなあ、あれが現代に蘇えった“神官”の末裔かーリングの先端が固く尖って見える。
「パッケージの裏面の文章は何て? アラビア語の解読なら任せて、英語の科目は一級品だから」
「また始まった~遊戯のナルシスト!」
「アハハハ」
闇、か。獏良君は一言囁き下を向く。憂いのある表情から何かを察した遊戯は本題に触れてみる……
「君にも記憶の無い瞬間が……?」
獏良は生唾を飲み込んだ後、慎重気味に口を開く。
「実は自分の家に友達を呼んだ時も、気が付けばそうなっていたんだー信じられない事ばかり」
「え?」
「僕の周りには昏睡状態が続く人達が続出するんだ……こんなモノ、捨ててしまえばトラブルには起こり得なかった。今も入院している人だって」
杏子は口を隠して驚きの表情を浮かべる。まさか……
「ゴメン。驚いたよね、でも現実‐REALだよ……二つ目の人格がある証拠」
千年リングが黒光り、耀き輝く! その時辺りは亜空間で包まれた。気を失う杏子! ユーギの人格が優先して顔色を変えるー
「ククク……お喋りなご主人様だぜ。少しばかり照れちまうが、なあ兄弟?」
ユーギはDMのカードデッキをシャッフルして答えた。
「相棒。オレに貸せ」
「デュエリスト(決闘者)の血潮が滾るマグマのビートを刻みし鬨、戰いのゴングの音色が高らかに鳴る。そうだよなユーギ」
ユーギはデッキの束からモンスターカードを一枚選び左手に翳した!
「オレの魂の戦友「ブラック・マジシャン」が勘付いた。総て本当の話」
「危険な玩具はすぐにぶっ壊れる……持ち主の生命の灯火も、ホラ」
闇で出来上がってゆく亜空間。しもべ達が実体化した! デュエルの合図ー
「決着は本番で。次も俺様の勝利かな? 貴様の魂を奪ってやる!」
「宿主の彼はそんな醜い顔などしなかったぜ、盗賊王!!」
時間が止まっている……ゲームSTART!
「俺様の先攻、魔法カード「罪と罰の懺悔~レクイエム」超動!」
「いいぜ。小手調べだ、ドローカード!「スカーレット・ミラージュ」召喚ー」
ククク。これが俺様の世界だ……存分に楽しめよ、遊戯(ユーギ)!?
「楽しいねェ。古代エジプトの神官達は雌雄を決して引導を渡し合った! 敗北=血の代償が待ってるけどな」
「オレは千年パズルに眠ったままの王(ファラオ)だった。数千年の記憶の歴史の証人と立会人を求めて現世を彷徨っていた。そして相棒と出会い、封印は再び解かれた。救世主は光の使者の従人を律し天秤を支え合う“たった一つの存在”」
「詩でも詠もうか。命の削り合いの前に」
数千年の浪漫?
風人は語り合い、傷を舐め合う……。
信じるか、信じないかは“主”次第
鉾楯が貫く命と御霊のバトンロード
カードだけが知っている奠
「決闘!!」勇者は叫ぶ
右手にプライド‐矜持 左手に愛の鍵穴を誓う
遊戯悪戯の遥かなる時空の中へ続く桃源郷~ユートピア
ネバーランドは永遠の旅人!?
答えはドラゴンを呼ぶ笛&神官の戯言
勝利の栄光を君に
賭す自分自身のLIFE×ENERGY
アラビアが標す、大航海の秒針!??
時刻は……狂った銀河。正解も不正解も存在しない仮想空間の虚無の失念ー
ユーギVSバクラの戦いが火蓋を切って落とされた! 退路なら消えた、戦わなければ生き残れない……避けては通れない道標。実体化したカードとライフ、40枚の山札のデッキが無くなる前に、決着を付けるー
「俺様は七つ星のしもべ「大邪神ゾーク」召喚!! 攻撃表示……」
「罠カード・オープン」
バクラが眉を顰める、エターナルサンクチュアリ! オレはドローを二回のチャンスに分けて行う……墓地とフィールドは【闇】一択。千年アイテムの宿主同士のバトル・ファイトの激しき攻防が世界の片隅にて熾烈を極める! 鍔迫り合いが亜空間での一騎打ちを制する勝利者の讃美歌を謳う絡繰りの歪んだ四季……他意味など1000%皆無。
「人間なんて小さな脳ミソしてる証拠。人種齟齬に意地の張り合い、繰り返す戦争の大火に分かり得ない擦れ違うばかりの悲しき性……バランス感覚が重要視される新時代さ」
ユーギは手札を確認した。可能性の扉が指し示す光へのロードは僅かな希望さえも篝火に変える運命の伴侶ー諦めない! 山札のデッキからカードをドローする、軌跡の刹那的大逆転劇が始まる……引き当てた!
「オシリスの天空竜」
バクラが言葉を失う。幻の究極のスーパーレアカード……一体何処で手に入れた!? 攻撃力・守備力XXXX、無限の未来が彼を手招きさせるショータイムと成り敵を駆逐する、神の鉄槌。
「サンダーフォース、ゾーク撃破!」
「……」
カード一枚にも魂が籠る理想郷と理念追従の為のアルカディア(ネバーランド)の行方は遥かなる時空の中へ消えゆく勝利の咆哮! 流れは完全に逆転した、魔法・罠も一ターンしか効果の無い相棒との決意表明の確証……決まり!
「互いのライフポイントは1000、どちらかの生命が果てるまで続く。途中下車など無意味」
バクラが不敵に笑う。手札の切り札達をくしゃくしゃにして丸めた、白色の前髪を掻きあげ額に眼球のマークを浮かび上がらせる……盗賊王の記憶は数千年前の墓守り谷の血族の紋章の掟のルールに於いて交わされし契約ー開花した才能の華が黒薔薇を焼き焦がす。
「貴様も分かっていない。ファラオ(王)のしもべは罪と罰に名を爆ぜるルーツと密約のソナタを奏で合う」
「ブラック・ジョークなら聞き飽きたぜ」
「たとえこの身が滅んでも残留思念が俺様達を惹き合う……永遠の苦しみ」
「一方通行(アクセラレーター)の感情。単純な思考回路、幸せに成れるはずも無い天命」
執念深さが傷の聖痕を掻き毟る、絶望の輪舞曲ー戸惑い無き終焉!! 盗賊と王は現代において火花を散らす。
「獏良君の意識を元に戻せ。さもなくば」
「擦れ違う想いが焦り、苛立ちを産み罵り合う定めの鬨。このデュエルに勝ってみな!」
モンスターカード「死を喰う者」特殊召喚! 墓地に眠るしもべの数×700の攻撃力アップ!! 力づくで倒してみな……俺様を飼い慣らしたかったら。
「攻撃!! カーストフレイムー」
「オシリスの天空竜の潜在能力が発眼した、手札の数×1000=攻撃力の増加! 召雷弾!!」
バクラの墓地送りになった札が悲鳴を上げて苦しみ悶える、根暗な集団! これだから咎人は……ジャンヌ・ダルクの様に火炙りの刑に処すー最後の警告だぜ。
「俺様の敗北か。魂売りが哭いている、向こう側の世界へと還るぞ」
バクラ!! 罰ゲームー自分の手で血を染めろ! 血族の誇りと大義名分を汚した極刑!!
「ククク。執念深い性格が功と為した……この身体も限界寸前間近! パーティはお開きだ」
視界が歪み意識の奥底で沈殿していた器の記録がページを遡らせる、勝利! 杏子の部屋に帰ってゆく一つの邪悪な思念が怨霊の如く叫びを上げた……気が付けばユーギ→遊戯の元の顔に戻りゆく。そして。
「遊戯……勝ったの?」
杏子は意識を覚まし周りを確認する。獏良は千年リングの繋糸が解かれ、地面の床に派手な音を立てて落とした……!
「……」
「獏良君、大丈夫!? しっかりっ」
「……」
「千年アイテムの邪悪な意志の前で生命に危機を脅かしている。もう一人の僕ならっ」
光り耀く三千世界が彼の源のオーラの起源に問いかけるー反応アリ。
「ユーギ君? いや……」
良かった。目を覚ました彼はいつもの純粋無垢な幼き無邪気な童顔に戻っていた。邪悪なリングの決意……僕は薄れゆく記憶の中でその醜態を深く胸に刻み付けたー二度と過ちを犯さぬように。
憶えておけ。ユーギ! 戦いはこれからますます激化するぜ……? 覚悟しなッッ!!
最後の断末魔が古代エジプトの神官達の意識の源に深く行き届いた、記憶の世界への旅立ちー千年アイテムの秘宝を巡るバトル・ファイトが幕を切って下ろされる。その過酷な運命を彼はまだ知る由も無い……
絶望の果ての臨みを信ず決闘者の揺蕩う夢……!?