地獄の保護者面談を終えて、私の携帯のアドレス帳に男の子の名前が増えた。同中の先輩方はいいけど、ドラケン君は私の裏稼業の方を知っちゃってるどころか将来の子供を取り上げる約束までしちゃってるだけに気まずかっただろう。
赤外線で通信しながら「命の恩人で、恋のキューピッドで、将来の産婆で、さらにアイツら(場地と千冬)の家庭教師だもんな…一生どころか来世でも頭あがんねぇ」って心の声が漏れ出てたからね…他の人たちが離れた後だからよかったものの、気を付けてもらうように念を押しておいたほうがよさそうだな。あとエマちゃんとヒナちゃんにもしっかり伝えておいてもらおう。もう一人喧嘩してた金髪の子…名前も聞きそびれたけど、どっかで見た気もするんだよね。
長いと思ってた夏休みも残り少なくなってきた。宿題は医院のお手伝い中に終わった。診療時間中は近所の患者さんが数人来ればいいほうで本当に暇なのだ。場地くんからは夏休みの宿題が終わらないから助けてくれと連絡が来ていたので、「とりあえず全部埋めとけば、やる気くらいは評価してもらえるんじゃない?」って返信した。私は保護者枠に入るつもりもない。
足の怪我は普通に歩くくらいまでは回復したが、長時間立ちっぱなしや走ったりするにはもう少しかかりそうだ。しかし若い体は回復が早い。問題なく歩けるようになってからは医院の仕事も闇医者も復帰した。今日は通常なら診療日なのだが、間先生こと私の師匠は海外からオペの依頼を受けたとかで昨日から不在のため休診である。しかし休診日の方が忙しいのが間医院。医院の受付に座って、電話番をしながら医学書を読み耽る。
診療時間ギリギリに飛び込んできたのは、毎月経過報告にくる患者さんだった。休診日にも間医院のドアは空いている。前に一度うっかり施錠してしまった時には師匠からきつく注意された。いつでも患者を受け入れるオープンな医院…というわけではない。休診日に来るのは裏の診療を希望する裏の世界の方人だ。そんな人達は一般で流通している鍵なんて秒で解錠して入ってくるから無意味なのだそうだ。解錠するならまだマシで、破壊して入ってこられると迷惑だ、というのが理由である。
という訳で、極稀に休診中にも間違って入ってきちゃう表の患者もいるのである。そう彼のように。一応表には休診の札を出しているんだが、時間ギリギリだったので気づかなかったのかな。
「真一郎くん、ごめんなさい。今日は先生が不在なので休診なんです」「マジで?!時間間に合ったって思ったのに…残念」「急なお休みだったので事前に告知もできてなかったので、ご足労いただいたのにすいません」「いや、休診の札見ずに入ってきたの俺だし…でもお休みなのにキリコちゃんは働いてるの?」「片付けとか色々先生居ない間にやっちゃおうと思って」「まだ時間かかる?遅いし送ってこうか?」
真一郎くんは2年前事件に巻き込まれて師匠の手術を受けている。珍しく裏の仕事ではなく表の仕事として受けたらしい。真一郎くんの家は空手道場をしていて、怪我した子とかを真一郎くんが連れてきていて、間医院の開業当時からの知り合いなのだそうだ。真一郎君が運び込まれた病院に偶然居合わせて(その病院で裏の仕事がたまたまあったらしい)、深夜で緊急手術を担当できる医者がおらず代わりに師匠が執刀したそうだ。病院に到着した時点で心肺停止状態だったので、師匠とはいえ後遺症は残るだろうと言われていた。実際に術後は半身不随だったそうだが、過酷なリハビリを続けて杖があれば歩けるまでに回復したそうだ。
師匠にも人の心があったんだと感心したのでよく覚えている。ちなみにこの話は真一郎君本人から聞いたのだ。真一郎君には私と同じ歳くらいの弟と妹がいるそうで、私もことも妹のように可愛がってくれている。…中身は同世代なので妹扱いは正直かなり照れくさいけど。
プルルルルル…医院の電話が鳴ったので、真一郎君に会釈をして子機を取って奥に下がる。
「はい、間医院です」「先生!!!助けてください!!!」「落ち着いてくださ…九井くん??どうしたの??」「大変なんだ、先生にすぐ来てもらえるか!!!!」「先生は今海外なんだけど」「海外…そんな……はっ、お前も医者だよな??すぐに横浜に来てくれ!!!」「え?どういうこと?とりあえず落ち着いて!!!!深呼吸!!!!」「はー…すまん。大至急来てくれ!!!」「はぁ…わかった、すぐ向かうから状況教えて」
九井くんがこれほど慌てるなら例の彼女かその弟くんに何かあったのだろう。状況を何とか聞き出して、到着するまでの対応を指示する。処置に必要な荷物をカバンに詰め込んだところで、行き先の住所が携帯に届く。
「真一郎くん、ゴメンね。来週には先生戻ってくるから、また来てもらえるかな?」「あぁ、それはいいけど、今からどっか行くのか?」「うん、急いで横浜まで行かなきゃいけなくて。そこの大通りでタクシー拾う」「横浜?俺さっきそっち方面から来たけど、横浜方面行きは事故でめちゃくちゃ渋滞してたぞ」「え…」
電車はちょうど帰宅ラッシュの時間なので、この足で横浜まで耐えれるだろうか。でもタクシーが使えないなら耐えて行くしかないか。眉を顰めて俯いて考えていたら、腰を曲げて真一郎君が下から顔を覗き込んできた。
「それって急いで行かなきゃヤバいやつ?」「はい…患者さんが待ってるんです」「それは超特急で行かなきゃだな…じゃあ今から俺がちょっと悪いことするの見逃してくれる?」
真一郎君はニカッと笑ってバイクの鍵を指でくるっと回した。
真一郎君のバイクは渋滞の車の列を縫うように進んでいく。場地君の後ろに乗った時とは違って、急いで目的地に運ぶためにスピードも早いし、車のすぐ横を抜けていくのはぶつかりそうで怖かった。でも真一郎くんの背中にしがみついていると恐怖心はあるもののなぜか不安はなかった。大きな交差点で信号に引っかかったタイミングで声をかける。
「あとどのくらいかかりそうですか?」「20…いや15分!!」「よろしくお願いします!!」
ノーヘルの真一郎くんがニコッと笑って髪をかき上げて気合いを入れた。ポケットから携帯を取り出して、「15ふんでつく」とだけ急いで送信した。携帯をしまうと再び真一郎くんにしがみついた。
メールに書かれたホテルの前にバイクが着くと、急いでメットを脱ぎ真一郎君に渡して中に駆け出した。背後から「ロビーで終わるまで待ってるから」と声をかけられて、振り向いて大きく頷いた。エレベーターのボタンを連打して目標の部屋に向かう。入り口のベルを鳴らすと、すぐに扉が開いた。
「状況はどう?応急処理は?」「言われた通りに冷やした。呼吸は落ち着いてきたみたいだ」
先程の電話の時のような焦りはなくなった九井君に付いて部屋の奥へ進む。大きなベッドにタオルをかけられた女の子が横たわっている。全身に手術痕があるし、例の彼女で間違いないだろう。
さっそく診察を始める。電話で聞いた話からすると、全身熱傷の既往があるので、体温調節が上手く出来なくて熱暴走してしまったのだろう。応急処置として体を濡れタオルと氷で冷やすように指示したが、きちんと対応は出来ていたようだ。体温を測るとまだ高いが、九井君の言う通り呼吸は落ち着いているので大丈夫だろう。あとは軟膏を塗りながら冷やして様子を見るしかない。氷嚢用に新しい氷をもらってきた九井君が部屋に戻ってきた。
「もう大丈夫だと思うよ」「助かった…本当にありがとう」「何となく何をしていたか状況はわかるんだけど、一応確認していいかな?」「あ…激しい運動はダメだって言われてたんだけど、大丈夫かなって…赤音さんも大丈夫って言ってたから…その………」「はぁ……こんなになるまで無理させちゃダメでしょう」「俺初めてで…よくわかんなくなって……あぁぁぁ、最低だ…やっちまったぁぁぁぁ」「とりあえず凹むのは赤音さんが回復してからね」
予想通りではあったが…医師として確認しなきゃいけないから聞いただけなので…面倒くさいから、あとは2人で解決してくれ。九井君のメンタルの治療は彼女さんにお任せします。治療に失敗した時はそういう補助的なお薬もあるけど、ウチじゃなくて専門の病院に行ってね。
「じゃあ後は体温が平熱になるまで、氷とタオル交換して。もし痛いとこあったらこの軟膏塗ってあげて」「すまん、本当に助かった。治療費とかは後日でいいか?」「うん、下に人待たせてるし、状況だけは逐次連絡ちょうだい」
携帯連絡先を渡して部屋を出る。ロビーに座ってる真一郎くんに駆け寄って、「お待たせしました」と伝える。
「大丈夫だった?」「はい、真一郎さんが送ってくれたおかげで」「それなら良かった〜。キリコちゃん珍しく焦ってたし、お役に立ててなによりです♪」
「せっかく横浜まで来たしラーメンでも食べて帰ろっか」と真一郎くんは家系ラーメン店に向けてバイクを走らせた。「お礼にご馳走させてください」と券売機前で財布をスタンバイしたのに、「年下の女の子にご馳走になるわけにはいかないわ」と笑って、逆にご馳走になってしまった。
「なんでただの医院お手伝いの私が患者のところに急いで訪問しないといけなかったのか?」
当然の疑問のはずなのに真一郎君は何も聞いてこなかった。もし聞かれたら、「先生から事前に預かってた薬を届けにいっただけ」と嘘まで用意していたのに、そんなことには一切触れずに今日はどんなバイクを直したとか妹が料理上手で弟とおかずを取り合うだとか、そんな日常の話ばかりしてくれた。
帰りは安全運転だったので流れていく夜景を見る余裕もあった。大人の男性のスマートな対応と工場地帯の煌めくような夜景に26歳の私がときめいている。恋愛感情とまではいかない微かな好意が胸の中に芽吹く。
しかし今の私は14歳。彼の対応も妹に対する優しさであって、同世代の女性への対応ではない。私が同級生の男の子に対してもつ気持ちと同じなのだ。もし彼に本当は26歳だとか全部告白して、お互いの気持ちが繋がったとしても、私の外見が彼よりも一回りも下なことは変わらない。周りはそういう視線をむけてくるだろう。その矛先は幼い外見の私ではなく、全て彼の方へ向いてしまう。何も知らない14歳ならば自分の気持ちだけで突っ走ることができるかもしれないが、あいにく大人社会の汚さや世間体という悪意のない刃を嫌と言うほど知ってしまっている私は走り出すどころか一歩すら踏み出せない。
九井君の色ボケが移ってしまったのかな、それとも真一郎君がガチ恋製造機なのかな、それとも夏の暑さに絆されたのかな。無理矢理に理由を並べて、まだ形すらわからない朧げな気持ちに蓋をして鍵をかけた。間医院に来る裏の人でも破れないような銀行の金庫よりも厳重な鍵だ。
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二学期が始まった。夏休みボケの抜け切らない同級生たちはダルそうに授業を聞いたり寝ていたりしている。私も特に授業から学ぶことなんてないので、いつも通り机に突っ伏して睡眠をとる。一学期の途中から突然変わった私の授業態度に最初こそ先生も注意したりしてきたが、当てられた問いには寝起きでも完璧な回答をするし、テストの成績も一気にあがったので何も言わなくなった。むしろ起きて授業を聞いていると、中学生レベルではないような質問をしたりするので、先生たちの間では眠れる獅子起こすべからずという不文律ができたそうだ。
「キリちゃん、もうお昼だよ。起きて」「んんぅ…おはよう。給食の時間?やった!」
給食に喜ぶ私に起こしてくれた友達は「えー給食美味しくないのに」「もっとファミレスみたいなメニューの方がいいよね」とか給食の不満を口々に述べる。彼女達は家に帰れば親が作ってくれたご飯が待っているから文句が言えるのだ。給食のない夏休みは自分で昼ごはんを作らないといけなかった私は人が作ってくれた料理というだけで嬉しい。どうも事故に遭う前の私は父が家を出た後は家事全般を担っていたらしい。中2なのに偉いなぁと感心した。今の私も一応料理はできなくはないのだが、正直やりたくない。下手だからという訳ではなく…食事にあまり興味がないのだ。栄養が摂取できていればOKという感覚だ。そりゃ同じ栄養補給するなら不味いより美味しい方がいいけどというレベルなので、わざわざ自分で作ろうとは思わない。母親は夜職なので朝と昼は家にいる。朝ごはんは帰ってきた母と一緒に食べているので、私が準備するが基本的にパンを焼くだけとかその程度である。夜は1人なので作らない。最近は仕事の合間に食べるので、前世でもお世話になっていた栄養補助食品が主食だ。給食は栄養士が考えたバランスの取れたメニューなので、夜は適当でも問題ないだろうと思っている。しかし夏休み中は昼ごはんも母と一緒なので、栄養バランスを考えながら私が作っていた。母が作ってくれても良かったんだが、以前の私が感心するほど良い子だったせいで、今の私が作る羽目になったのだ。感心したの取り消したい。
給食でしっかりと必要な栄養を摂取した後は、体育の授業なので食べ終わった人から更衣室に向かい始めた。社会人になると運動をする機会は減ってしまい、わざわざお金を払ってジムに通ったりしてる人もいるくらいなのに、学生だと授業として運動する時間まで設けてくれているのだ。私も社会人を経験してからの2回目の学生生活だからわかることだけど、学校って色々ちゃんと考えてくれてるんだな。前世で毎年がっつり納めさせられていた税金が、こういう風に自分に還元されてるならいいかなと思った。まぁ別の世界線なので直接還元されないし、払った額には到底見合わないけど…今の世界線では税金払ってないから何も言えない。
税金で学べる授業も終わったので、今日は夕飯のストックを買い出してから医院に向かおうと思った。休診日だし少し遅くても問題はないだろう。学校帰りにそのままスーパーに寄った。
野菜売り場や精肉売り場を素通りして、目的の棚の前に立ってカゴに適当に放り込む。あとついでにアイスも買っていこうとアイスの売り場に向かおうとすると、小さな女の子が私の足に突っ込んできた。ぶつかった反動で尻餅をついてしまっている。慌ててしゃがみ込んで怪我がないか確認すると、駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「すいません!マナ、走っちゃダメって言ってるだろ」
女の子は走って声の主に向かっていく。うん、怪我はなさそうで良かった。それから聞き覚えのある声の方を見ながら私も立ち上がった。
「三ツ谷先輩の妹さんですか?」「あぁ、手塚さんだったんだ、ごめんね。ほらマナもごめんなさいは?」
マナちゃんと呼ばれた子は小さな頭をさげて「ごめんなさい」をしてくれた。もう1人マナちゃんよりも少し大きい女の子も一緒だった。
「こんにちは。手塚桐子です。お兄さんにはいつもお世話になってます」
視線を2人に合わせるようにしゃがんだにもかかわらず、つい癖でお世話になってるだなんて大人な挨拶をしてしまった。
「ルナです。こちらこそお兄ちゃんがおせわになってます」「マナです…」
さすが三ツ谷先輩の妹さん!しっかりしすぎていたルナちゃんのご挨拶に三ツ谷先輩も苦笑いを浮かべている。女の子はおませさんだなぁって思っていると、2人は私にギュッとしがみついてきたので、あまりの可愛さに反射的に抱きしめ返した。あー幼女可愛い!!癒される〜!!と幼女セラピーを堪能していると、「美人好きー」と可愛いお世辞まで言ってくれるので、つい「何が欲しい?お菓子?マンション?」なんて口に出そうになった。
「手塚さんも買い物?」「はい、夕食を買いに」
不審者だと通報されるかと思ったが、口には出さなかったので保護者にはバレていないようだ。セーフ…
…だと思ったんだけど、あれ?三ツ谷先輩の顔が怖いぞ?まさか通報じゃなくて変態は自分で退治しちゃう感じですか…?
「…夕食の買い出しって言った?」
「…はひ」
笑顔でこっちを向いてるけど、目が笑ってない…怖くてまともに返事すら出来ないよ。2人を抱きしめた腕に力が入っちゃうけど、これは変態ムーブじゃなくて恐怖心だから許してください…。
「いつもこんなのばっか食べてんの?……そんなだからマイキーにも場地にもヒョイヒョイ抱っこされちゃうんだよ、はぁ…」「…い、いつもじゃない…です」
たまに仕事先でお土産にお寿司もらったり、焼肉連れてってくれたり、この前もラーメン食べて帰ってきたりすることもある。否定することに必死で、なんでマイキー君とか場地君の名前が出てきたかはわからないけど、これだけは言える!
私が肥満だったとしても、あの2人なら軽々と持ち上げるから!!!!
先輩にため息までつかせてしまって、申し訳ないと凹むことしかできない私とは違って、おませなルナちゃんは兄の言葉にピンときたらしい。
「じゃあキリコちゃんも今日は一緒にお兄ちゃんのご飯食べよ!」
「「え?」」
三ツ谷先輩と仲良くハモってしまった。
急な妹の援護射撃に兄も攻撃に転じた。
「手塚さんが良ければ一緒にどう?今日は医院も休診でしょ?」
「え?いや、そんなご迷惑になるし…」「大したもん作れないけど、これよりはマシなもんは作れるから」
うちは休診日の方が稼ぎ時なんです…なんて言えるはずもない。それよりなんで休診日把握してるんですか?
「お兄ちゃんのご飯美味しいよ〜今日はオムライスだよ」「…お姉ちゃんも一緒にご飯食べるの?」
ルナちゃんだけでなくマナちゃんまで嬉しそうにこっちを見上げて言ってくれるもんだから…そんなの秒で陥落しちゃうよ!!
「お、お邪魔させていただきます」
「んっ。じゃあこんなのは戻しにいこうか」
私のカゴの中でさっきから酷い言われようの栄養補助食品達が陳列棚に戻されていく。可愛いお手手で私の両手は拘束されているので、何も抵抗することも出来ずにその様子を見守るしかない。「また買いにくるからね…」とこっそり心の中で呟いた。
可愛さと恐怖の前に全面降伏した捕虜は、敵の本陣である三ツ谷家に収監された。
三ツ谷先輩のところも母子家庭で親は夜中まで帰ってこないらしく、家事全般は三ツ谷先輩が担当しているそうだ。「凄いですね!」と心から感心したのに、「手塚さんも一緒でしょ…あっでも料理はサボってるか」ってチクリと刺された。「夕飯のお手伝いします」と言ったのに、「向こうで2人と遊んでてくれればいいよ」と台所から追い出された。三ツ谷先輩の中で私は料理できない子認定されてしまったようだ…別にできなくはないんだよ。刃物の扱いとか細かい作業は得意分野だし…。
大人しく居間に移動して2人のそばに座った。するとルナちゃんが「これお兄ちゃんが作ってくれたんだよ」といってぬいぐるみや洋服を次々と見せてくれる。手芸部の部長だということは知っていたが作ったものを見るのは初めてだった。中学生の男子が作ったとは思えない出来映えに「凄いね」しか言葉が出てこなかった。「これもだよー」とマナちゃんが持ってきたのは黒の特攻服だった。特攻服とか手作りできちゃうんだ。金糸で刺繍まで入っているし、ところどころには破れて補修された跡もある。本当に暴走族やってるんだなーと思っていると、台所からお皿を抱えた三ツ谷先輩がやって来る。
「2人ともご飯出来たから片付けてー!」
「はーい」と元気に返事をして片付け始める2人に倣って、私も手にしていた特攻服を近くのハンガーに掛けた。畳もうかと思ったけど、皺とか付けちゃダメなやつだと思った。
小さめのオムライスはルナちゃんとマナちゃんの前に、綺麗なオムライスは私の前に、卵の端が少し破れてたオムライスを自分の前に置いた三ツ谷先輩はパンッと手を合わせる。みんなで手を合わせると声を合わせて「「「「いただきます」」」」
「お兄ちゃん、ルナのオムライスに星書いてー」「マナもー」
三ツ谷先輩はケチャップを手に持つと、差し出されたオムライスに赤い星を書いていく。
「お姉ちゃんのオムライスはハート描いてー」「ハートー」
さっきのルナちゃんマナちゃんの真似をして、「お願いします」とオムライスを三ツ谷先輩の方に差し出す。
ハートは苦手だったのか少し形が歪んでいた。星の方が描くの難しいと思うのにな。
「えーお兄ちゃん、下手くそー。キリコちゃんも描いてー」「ん?どこに描けばいい?」
ルナちゃんに尋ねるとここと三ツ谷先輩のオムライスを指さした。先輩はお皿を差し出してくれなかったので、隣まで移動してケチャップを両手で構える。よし、綺麗なハートが出来た!
人のオムライスにケチャップで絵を描くとかメイド喫茶みたいだな…これはサービスで萌え萌えキュンもやっといた方がいいのか?今の私は14歳だから出来ちゃうぞ!毎日セーラー服着てるんだから、最初の時はコスプレだって動揺したけど、もう慣れたものなんだから!!
あれ?三ツ谷先輩ドン引きしてる?…え、まだ萌え萌えキュンはやってないよ…他に何かやらかした??固まってしまう程に衝撃的なことなんて何もやってないよね?困惑したままルナちゃんに視線を移すとオムライスを頬張ってた。可愛い。マナちゃんもモグモグしてる。可愛い。あっ、三ツ谷先輩もこの可愛さ×2にやられちゃったのか〜確かにこれは可愛さの暴力ですね。
と納得したので、私もオムライスをいただくことにする。
「美味しい!」
手料理の感想はしっかり口に出して伝える!これが大事!作った人は本当にこの一言あると嬉しいから!でも本当にお世辞抜きにして、美味しかった。シンプルな家庭料理ではあるんだけど、味の濃さとかも私の好みだし、手が込んでる感じがする。コンソメスープの野菜とかも子供が食べやすいように小さく刻んであるし、もう愛情たっぷりなのが伝わってくる。
「口にあったなら良かった」
石化が解除された三ツ谷先輩が嬉しそうに笑って、やっと食べ始めるようだ。自分も食べながらもルナちゃんが溢したものを拾ったり、マナちゃんの頬についたケチャップを拭ったりと忙しそうだ。
「三ツ谷先輩、本当に良い嫁だな…」
「へ?」
オムライスを入れようと開いた私の口から勝手に漏れてしまったぁぁぁ!!!しかもバッチリ聞かれてしまってる!!!早急に訂正を!!!謝罪を!!!切腹を!!!!
「あっ、いやっっ…先輩…すごくて、何でもできて…絶対良い嫁になるなって!…あっ、でも先輩は…みんなの母だし!ドラケン君の嫁だから…じゃなくて、いや、その…だから…あの……」
「ちょ、え?待って待って待って、手塚さん落ち着いて!」
「お兄ちゃん、ドラケンの嫁って…どういうこと??キリコちゃんがお嫁さんじゃなくて、お兄ちゃんがお嫁に行くの??」
「マナ!?!?お嫁さんには行かないから、お兄ちゃんはお嫁さんもらうから」
「キリコちゃんを?」
「え??キリ…えっ…いや、そうじゃ…なく……もないというか……それは……まだ…いや…」
「えーわかんないよー。じゃあドラケンがお嫁さんなのーーー?」
「誠に申し訳ありません、私もなんであんなこと言っちゃったのか…普段なら思ってても絶対口にしないのに、なんでか今日に限って…本当に申し訳ありませんーーーー」
「ドラケンは嫁じゃなくて…俺は…その…」
「ごちそうさまでした!」
混乱した3人が生み出したカオスはマナちゃんの一言で鎮静化した。
1分にも満たない時間だったが、何を言っていたのか私は全く記憶にないほど精神錯乱状態だった。気まずい雰囲気も幼女の浄化パワーで綺麗に吹き飛んで、後片付けを手伝ってからお暇した。
「なんかやらかしたけど、マナちゃんルナちゃん可愛かったし、オムライス美味しかったから…まぁいっか♪」
なんて帰路で呑気に考えていた私は、三ツ谷家ではルナちゃん主導の緊急作戦会議が始まっていたことなんて知らない。
主です‼︎
今日もストックを何話か出していきたいと思ってます
next❤️300
コメント
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さっき帰ってきました〜。 これから7、8話も見させていただきます!! あと名前とアイコン変わってて一瞬誰かわかりませんでした笑 物語に関係無さすぎる話ですみません笑