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相変わらず朝は死んだ顔をしている伊織。
「お!は!よ!」
そんな伊織にタックルする気恵(キエ)。
「おぉ。おはよ」
「お?コート変わった?」
「お。わかる?」
「なんで急に?」
「いや。昨日アウトレット行って」
「マジ!?珍しい」
「ま、半分連行だけど」
「あぁ。もしかして小角決(おかけ)?」
「そ」
「いくら?」
「4万」
「おぉ!まあまあのお値段」
「ほんとは5万越えだった」
「高っ!」
「アウトレットで安くなってて」
「安くなって4万か。エグいね」
「ね」
なんて話をしながら職場へ。
「あ!おはようございます伊織先輩!」
ルビアが先に来ていて元気よく挨拶する。
「朝から元気だなぁ〜…。おはよ」
「あ、尾内先輩も。おはようございます」
「あ、うん。おはよう」
「気恵ぇ〜おはぁ〜」
明観(あみ)が個包装されたメタリックな袋を手の代わりに振る。
「おはよぉ〜」
「あ、尾内先輩もよかったら」
ルビアが箱を気恵に差し出す。その箱には先程明観が振っていたメタリックな小袋が複数入っていた。
「お。いいの?」
「はい」
「じゃいただきます」
1袋手に取る。
「ルビアくんどっか旅行にでも行ったの?」
「旅行…。どうなんですかね」
伊織を見るルビア。しかし伊織は自分のデスクに突っ伏していた。
「あ、伊織先輩。これ」
ルビアが伊織の頭の側に約1日の鉄分 飲むヨーグルトを置いた。チラッっと見る伊織。
「おぉ。サンキュ」
「え。なんで今汐田見たの?」
と気恵がルビアに聞く。
「え?あぁ。一緒に行きましたので」
「え。あぁ、もしかしてアウトレットルビアくんも一緒に行ったの?」
「あ、はい。聞きました?」
「うん。さっき聞いた」
「実はアウトレットで伊織先輩が」
「お土産買おうって言ったんです」と言おうとして昨日のことを思い出す。
〜
それはアウトレットでお土産のお会計を済ませた後のこと。ひさしぶりに誰かと出掛けて楽しいものの
ひさしぶりに出掛けたため疲れてきて、死んだ顔でお土産の袋をルビアに渡す伊織。
「これ、一応新入社員としてみんなに渡せばいいよ。自分で選びましたーとかなんとか言って」
「え。でもお会計伊織先輩が」
「あぁ。大丈夫大丈夫。累愛(るあ)から倍額徴収するから」
「悪魔かよ!でも言ってることは天使。なんだそのギャップ」
「いや、そんなギャップ出してるつもりねぇよ」
と言いつつその顔は死んでいる。
悪魔でもこんな死んだ顔の人いないけど
と思うルビア。
「ま、でもそうね。ルビアくんからって渡した方がいいかもね」
「いいんですか?」
死んだ顔で頷く伊織と笑顔で頷く累愛。
「じゃ、すいません。ありがとうございます。そうさせていただきます」
「うい」
「じゃー帰るぞー!あんたたち買い忘れない?忘れ物ないね?」
「オカンか」
クスッっと笑うルビア。
〜
そんなことを思い出し
「あ、ま、一応新入社員としてのご挨拶がまだだったので、遅ればせながらということで」
「そんな。わざわざ?ありがとうございます」
と言いながら席で包装を破り開ける。
「お。クッキーだ」
ルビアは箱の蓋を見て
「生チョコ生クッキー。だそうです」
と説明する。
「生クッキー?生チョコはわかるけど」
「超絶柔らかい」
先に食べた明観が言う。
「柔らかいんだ?」
「うん。ケーキみたい」
「マジか」
食べてみる。するとたしかにクッキーとケーキの狭間のような口当たり。
クッキーの香ばしい香りもするが、口に入れると溶けるような、滑らかな口当たりだった。
その中に生チョコが入っていて、たしかに生チョコ生クッキーという名前に違(たが)わなかった。
「美味しっ」
「ね。アイビルくんセンスあるぅ〜」
「ありがとうございます」
と言いつつも突っ伏している伊織のことを見て
ま、伊織先輩のセンスだけど。ありがとうございます、伊織先輩
と思うルビア。
「そういえばさっき汐田がとか言いかけてたけど、あれなんだったの?」
と聞く気恵。
「え?あぁ。…えぇ〜っと。あ!コート!一緒のブランドのコート買ったんです!」
と自分の座っているイスの背もたれにかけていたコートを取って見せる。
「あぁ〜。お高いコート」
「そうなん?」
興味あるのかないのかわからないテンションで聞く明観。
「まあ〜…高いかな?」
「汐田は4万って言ってた」
「ガチ?」
全然驚いた表情ではないが実は結構驚いている明観。
「ガチらしい」
「ルビアくんは?」
「僕のは48,750円です。元は65,000円でした」
「「高っ!」」
ハモる明観と気恵。
「おっはよーございまーす!」
と累愛がオフィスに入ってきた。
「お。小角決(おかけ)だ」
明観が生チョコ生クッキーを食べる。
「小角決おはよー」
「おぉ!尾内。おはー」
明観は口にクッキーが入っているのでなにも言わず、ただ累愛に向かって軽く手を挙げる。
「おぉ。はよー。景馬(ケイマ)」
手を挙げ返す累愛。
「おぉおぉ食べてるねぇ〜。オレも貰おっかなぁ〜」
と累愛が手をくるくると回す。
「どおぞ」
ルビアが笑顔で箱を差し出す。
「サンキュールビアくーん」
くるくる回していた手で小袋を1つつまみ上げる。
「小角決、ルビアくんと一緒にアウトレット行ったんじゃないの?」
「ん?お、伊織から聞いたん?」
と言いながら包装を破り開ける。
「まあ。食べてないん?」
「ん?食べてないよ?お土産は各々買ったから」
と言う累愛に
「ん」
と手を差し出す明観。
「なに?」
口の中の生チョコ生クッキーを飲み込んでからもう一度
「ん」
と手を差し出す明観。
「お手?」
と手を乗せる。
「いらん。お土産」
「え?」
「個別で買ったんでしょ?」
「あぁ〜…それはぁー…」
「なんかゲームのコラボアイテムとかないの?」
「そんなんアウトレットにねぇわ!」
騒がしいので休憩スペースに移動する伊織。ルビアに貰った約1日分の鉄分 飲むヨーグルトを持って。
「相変わらず朝弱いねぇ〜汐田」
明観が休憩スペースを見ながら言う。
「ま、貧血なら仕方ないよね」
「女子じゃん」
「まあ」
「どうにもならないもんなんですか?」
ルビアが聞く。
「んん〜。それこそ鉄分入ってる飲み物飲むとか食べ物食べるとかかな」
「あとサプリ飲むとか」
「あぁ〜」
「私野菜食べないから栄養素全部サプリだし」
「健康に悪っ」
と盛り上がっているオフィスを背に
ルビアから貰った約1日分の鉄分 飲むヨーグルトにストローを突き刺し、チューチュー飲む伊織。
そんなこんなで1日が始まる。朝礼が終わり、各々の仕事に取り掛かる。明観はチラシのポスティングに。
気恵は午前中に内見の予定があったのでお客様と内見に。
社内成績1位をキープし続けている累愛も午前中に1件、午後に2件内見が入っており
午前中の内見へと出掛けた。伊織とルビアはというと、内見の決まっているお客様の物件探し。
お客様の希望の条件を見ながら自社の物件検索ページで検索する。
「彼氏と住むのに1DKねぇ〜…。喧嘩したら終わり」
と呟きながら検索し、ページをスクロールする。
「1DKだったら喧嘩したらダイニングと部屋で分かれるんじゃないですかね」
ルビアも検索してスクロールしながら言う。
「でもダイニングで食事とかするだろうに。付き合い始めの金銭的に余裕のないカップルはなぁ〜」
「あるあるなんですか?」
「まあ…。んで契約人は女性のほう。でその後割と長く契約更新するんだよね」
「へぇ〜。でも元恋人と過ごした空間って、その後も過ごすの嫌じゃないんですかね?」
「さあ?人によるんじゃね?」
「そりゃそうですけど」
「住めば都じゃないけど、住み始めたら自分の城になるんだよ。
しかも契約人は女性だから男性に出てけって権利あるからね。
2人で過ごしたところでも上書きしちゃえばって考えなんじゃないの?知らんけど」
「へぇ〜。そんなもんなんですね」
「ま、いるけどね?契約期間内に契約解除して出たいって人」
「それはそれでですね」
「違約金発生しますよ?って話してもそれでもいいんで出たいですって」
「なんか両極端ですね」
「たしかに。…ま、でもあれ。一応みんな確認しに来るけどね。
契約期間ってあとどれくらいでしたっけ?って」
「自分でわからないんですか?」
「いや、一応契約書の控えとか諸々封筒に入れて渡してるけど
大概の人はすぐ見れるとこに保管してないからね。
でもなぜか契約した不動産会社は覚えてるから、うちに来て聞くのよ」
「なるほど?」
「で、あとどれくらい残ってますって話すと、大体落胆した顔して「実は」って彼氏と別れたこと話すのよ。
オレは女友達かな?ってくらいに」
わかるわかるという感じで頷きながら聞く社長。
「で、契約更新時期になると契約更新のお知らせをするんだけど、まさかの契約更新っていうね。
ま、引っ越すのもめんどくさいし、正味式礼金と引越し費用ってアホほどかかるからな」
うんうん頷きながら聞く社長。
「オレも当分引っ越してないしなぁ〜。する気もないし」
という発言に対しては
不動産社員としてはいろんな物件に住んでほしいんだけどなぁ〜
と思う社長だった。そんなこんなで午前中の仕事を終え、お昼休憩の時間に。
ポスティングに行っていた明観も、内見に行っていた気恵と累愛も帰ってきて
お客様といろいろ話してお客様が帰っていってお昼休憩に。
「さてさて。ちゃちゃっとお昼食べちゃって、午後も頑張りましょー」
累愛が張り切る。すると出入り口の扉が開くベルの音が聞こえる。
「Oh…。これからお昼というときに…。
しかーし!こういうときに行く!これが業績No,1の累愛様なのであーる!」
とオフィスを出ていった累愛。
「すご」
「偉いわ」
「いや、バカだろ」
と話していると累愛がすぐに戻ってきた。その後ろにクリーム色に近い金髪の女の子を連れて。
「ルビアくーん」
「はい?」
「お客様ー」
「よ。なのだ」
「なのだ?」
明観が思わず口に出る。
「うわ。アルノ!なにしに来たん!?」
驚くルビア。
「ルビアくん…こんな可愛い彼女いたんだね…」
現実逃避する顔でかろうじて言葉が出る累愛。
「癖強い彼女だねぇ〜」
明観が肘をついてアルノを見る。語尾が「なのだ」に加え
髪色、そしてまつ毛、目の色までもがクリーム色に近い金。
さらに髪型はというと2次元でしか見たことがない左目が隠れた髪型のショートカット。
「彼女じゃないですから!」
焦って否定するルビア。
「なにしに来たって、鍵を渡しに来たのだ」
鍵をぷらーんっと出すアルノ。
「か、鍵持ってんじゃん」
もう魂が抜けてどこかへ行きそうな累愛。
「あらら。同居までしちゃって」
「あらら」
「さっき話してたやつじゃないだろうな」
と半分呆れて言う伊織。
「だから違いますって!アルノもややこしいから今鍵出すなよ」
「なんでなのだ?」
「あぁ…ま、すいません。紹介させてください」
とアルノの横に立つルビア。
「紹介させてください?彼女じゃない?…けけけ、結婚」
もう糸くらいの細さで本体と魂を繋ぎ止めている累愛。
「おぉ〜。おめでと〜」
音のしない拍手をする明観。
「お、おめでとう?」
乗っかる気恵。
「おめでとう」
乗っかる伊織。
「おめでとう」
乗っかる社長。
「おぉ!これアニメのワンシーンみたいなのだ!」
右目を輝かせる嬉しがるアルノ。
「ここはありがとう。ありがとう。ありがとう。って返すシーンなのだ」
「アホ!訂正するシーンだ!いや、あの結婚とか彼女とか全然、全然!そんなんじゃなくて」
「めっちゃ強調するじゃん」
と笑う明観。
「自分の家で同居してるアルノ・シジェン・ワセエです」
「アルノ・シジェン・ワセエと申しますなのだ。
2次元がとにかく好きなのだ。うちのルビアがお世話になってますなのだ」
とお辞儀をするアルノ。
「あぁ。ヲタクか。ならそのナリも納得だわ」
「あぁ、ご丁寧に」
「こちらこそお世話になってます」
全員頭を下げる。完全に本体に魂が戻った累愛はルビアの肩に手を回し
「なんだぁ〜!彼女じゃないのかぁ〜!早く言ってよぉ〜」
と笑顔で言う。
「言いましたよ。で?なんで鍵?」
と聞きながらアルノから鍵を受け取るルビア。
「私夜いないのだ」
「え?いるんじゃなかった?」
「急遽予定が入ったのだ」
「マジ?…てかタズは?イルファーは?」
「2人ともいないのだ」
「マジで?」
「だから来たのだ」
「ま、そっか」
「じゃ、失礼しますなのだ」
と言って頭を下げるアルノ。
「ばいなら〜」
「はいはい。ばいならぁ〜」
アルノがオフィスを出て出入り口が開くベルの音がする。
「なに?ばいならぁ〜って」
累愛が聞く。
「あぁ。アルノが去り際に言うセリフですね」
「ばいならぁ〜か。なんかreplicestのRe:NO(リ:ノー)みたいだな」
と言う明観。
「そうなの?」
気恵が明観に聞く。
「ライブ終わりとか言ってるらしいよ。
メンバーの人が珍しくゲーム実況に出てるって話題になってて、その配信アーカイブ見てたら言ってた」
「へぇ〜。今度ライブ見てみよ」
「で?さっき言ってたー…なんだっけ?タズ?さんとーもう1人は?」
累愛が興味津々で聞く。
「あぁ。タズとイルファーも同居人で」
「へぇ〜?女の子?」
「イルファーは女です」
「付き合ってんの?」
「まさか!うるさいだけですよ」
「へぇ〜?」
「ていうかシェアハウスで付き合ったらもう終わりだろ」
と言う伊織。
「たしかに」
「それな」
「ま、そうだよね」
「あぁ〜ビックリした。ま、じゃ、お昼行こうぜ!ルビアくん!伊織!」
ということでお昼ご飯へ行くことに。伊織、累愛、ルビアはいつも通りの中華ファミレスへ。
「んん〜…。どーしよっかなぁ〜」
とメニュー表を捲る累愛。
「あぁ〜…オレ五目で。ちょ、頼んどいて。トイレ行ってくるわ」
「あいよ」
累愛がトイレに立つ。
「あ、伊織先輩」
「んー?」
伊織は累愛から受け取ったメニュー表を眺めながら返事をする。
「さっき自分の同居人来たじゃないですか」
「あぁ。キャラ濃いめの」
「あいつが昨日話した天使なんですよ」
「あぁ…天使ね…」
メニューを眺める視線がピタッっと止まり、メニュー表をパタンと落とす伊織。
「は?」
ルビアを見る伊織。
「えぇ〜っとぉ〜…累愛先輩が五目麺。オレはぁ〜豚骨。いや、でももし午後接客あったらヤバいか」
ルビアはメニューを眺め悩んでいた。
「いやいやいやいや。メニューで悩んでないで。え?天使っつった?」
ルビアはメニューから視線を伊織に移し
「はい。天使です」
とあっさり言った。
「あ!あっさり醤油ラーメンもいいな」
思い出したように言うルビア。
「いや、飲み込めん飲み込めん」
「同居人のタズも天使で、イルファーは自分と同じ悪魔です。あ、種族は違いますけどね」
「ん?ん?ん?待って待って待って?飲み込めない。全然飲み込めない」
「はい?」
「え。さっき店に来たのが天使?」
「はい」
「天使ってあの頭に輪っか乗ってるあの?いや、実際の天使は輪っかないかもしんないけど」
「輪っかも出ますし羽も生えます」
「Oh…。また飲み込めない情報が」
「タズってやつは水の天使なんですけど、おもしろいっすよ。
天使の輪っかも水なんですよ。チャプチャプーって」
と笑顔で話すルビア。
「うん。もう一段階勝手に上がらないで。こっちまだ初段で躓いてるから」
「じゃ、ちゃんと紹介しますんで…つってもあいつ今日夜いないのか。
じゃ、明日ちゃんと紹介しますので、明日家来てくれます?てか迎えに行きます」
「…はあ…。あぁ。わかった」
全然飲み込めていないが一旦頭の片隅に置いておくことにした伊織。
片隅に置いたのに存在感がありすぎて気になる伊織。
「…めっちゃ気になる」
「なにが気になるって?」
累愛がトイレから帰ってきた。
「うわっ。ビックリした」
「なになに?伊織が気になるって、さっきのルビアくんの友達?」
図星である。
「お。図星?可愛かったもんなぁ〜」
と思い出し
「…ま、キャラ濃かったけど」
と少し可愛いという発言に直しを入れた。
「海外出身だったりする?」
とルビアに聞く累愛。
「海外…」
伊織に助けを求めようと伊織のほうに視線を移すルビアだったが
伊織は今頭の片隅に置いた存在感の塊をさらに奥に追いやって
存在感を消すためにタオルをかけてみたりしていた。
「まあ、海外っすかね」
「だよねぇ〜。まつ毛まで綺麗な金髪だったし。金髪ってか白?
てかルビアくんの周りは容姿端麗組が集まってたりするの?オレも然りだけど」
「んん〜…」
チラッっと伊織を見るルビアだが、まだ頭の中の存在感を消すのに必死だった。
「ま、たしかに比較的美形かもですね」
「ルビアくんもイケメンだもんねぇ〜」
「ありがとうございます」
伊織はずっと存在感を消すのに必死だった。そんな感じでお昼ご飯を食べ終え、午後の仕事も終わり
家に帰った伊織だったが、着替えるときも夜ご飯を食べているときも
タバコを吸っているときもシャワーを浴びているときも、ベッドで布団を被っているときも
「あいつが昨日話した天使なんですよ」
「輪っかも出ますし羽も生えます」
「タズってやつは水の天使なんですけど、おもしろいっすよ。
天使の輪っかも水なんですよ。チャプチャプーって」
というルビアの言葉が頭から離れなかった。