テラーノベル
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※モブ視点
バラエティ番組でたまたま共演したのは、今テレビで見ない日は無いと言われるほどの売れっ子アイドルだった。美しく上品な顔立ちは勿論のこと、トークも抜群に上手く、スキルもあってか、共演する我々にも見ている視聴者にも不快感を与えない立ち回りが上手い子なんだなと遠目に見ていた。
収録が終わり、MCのお笑い芸人から背中を叩かれながらも嬉しそうな笑顔を見せ、隣に立っていたアナウンサーにも伝わるように丁寧に頭を下げた。それどころか番組をつくっていたスタッフたちにも同じように接している。
自分よりもうんと、若く美しい。そんな背中から不思議と目が離せなくなった。
楽屋へ入っていく姿を見つめながら、彼のマネージャーらしき人に声をかけて、楽屋に入れてもらえた。ノックして扉を開けると大きな瞳が自分を捉え、彼はすぐに笑顔に切り替わった。
「今日はありがとうございました。たくさんフォローして頂いて、本当に助かりました。まだバラエティは慣れないことが多いので、またよろしくお願いします」
小さく頭を下げた瞬間、首元の隙間から素肌がちらついた。その肌の白さに驚き、思わず口に出してしまった。
「え?あぁ、よく言われます。日焼け対策は嫌ってほどしてるので、それもありますね。あ、そういえば、あの映画出られてましたよね。えっと確か……」
彼は鞄の中から携帯を出して指で画面を操作し、その画面をこちらに向けた。その際にぐいっと身体を寄せられて、彼の香水の匂いがふわりと漂った。
こうやって彼は、人の懐に入っていくのが上手いのだろう。くしゃりと崩れた笑みも、大きく口を開けて笑うところも、ふとした瞬間に距離感が近くなるところも。全てが、魅力的に映った。
もっと彼のことが知りたくなって、この後の予定を聞いた。彼は少し首を傾げる仕草をしながら、携帯でスケジュールを確認した。
「今日はこれで終わりなので大丈夫ですよ。俺あんまりお店知らないんで、おすすめのところ連れてってもらえますか?」
先程より少し砕けた口調と、甘えたような言葉遣い。最初はただ綺麗なだけだと思っていた彼の印象が、どんどん変わっていく。
連絡先を交換し、彼の楽屋を後にした。楽屋の前に立っていたマネージャーにも軽く挨拶をして、帰り支度をするために自分の楽屋へと急いだ。
彼がいつも外食は焼肉が多いと言っていたので、あえて魚が美味しい店を選んだ。彼はどれを食べても大袈裟なほどに良いリアクションをしてくれるので、可愛い子だなと笑ってしまった。
九州出身だと明かした彼は、やはり酒に強かった。こちらが勧めるままに飲んでいたが、顔色は変わらなかった。それでもだんだんと声は大きくなっていき、ボディタッチも大胆になっていった。
危なっかしいなと呟くと、彼は表情を崩さず酒を煽った。
「俺たち家族みたいにずっと一緒に居たんで、たまに距離感おかしくなるんですよね。他のメンバーなんか特にそうで……」
彼は自分が所属するグループの話をしている時、一番楽しそうな顔をしていた。十年以上活動を続けてようやく花が開きそうなんだと、目を輝かせて話した。
同じ芸能界に身を置いていても、お互い畑違いの場所に立っているのだと思い知る。グループという居場所がある彼を、少し羨ましいと感じた。
彼はたくさんの話をしてくれた。グループの誕生から今までの苦労話や、メンバーの話、そして彼自身の話。酒の力もあってか、包み隠さず話してくれた。
「俺普段そんな自分の話しないんですよ?なんでかな、今日はすごい喋っちゃうなぁ」
照れ臭そうに、それでも嬉しそうに、彼は言った。
そんな彼に期待を抱いてしまい、汚い自分が顔を出す。下心なんてなかったはずだ。ただ純粋に彼のことが知りたかっただけなんだと、勝手に頭の中で言い訳をしている。
するりと、彼の小さく柔い手を握ってしまった。特別驚いた様子も無く、彼がその手を握り返した。
「なんですか?手ぇ早いですよ」
ほんのり赤くなった顔は、いたずらっ子のような笑みが浮かんでいる。思わず、唾を飲み込んだ。
その大きな瞳に引き込まれていく。
「俺と、何したいんですか?」
カリカリと爪を立てられ、つい本音を口にする。彼は変わらず笑いながら了承した。
「でももうちょっとだけ飲みましょ?もっと酔ってから、したい」
店から比較的近い場所に家があったおかげで、飲み過ぎて千鳥足になった彼を担いで、すぐ避難することができた。ソファにごろんと寝かせると、くあっと大きく欠伸をして、目を擦った。
自分から誘ったはいいものの、こんな酔っ払いを相手にするほど昂っていたわけでもない。寧ろ酔いが覚めて冷静な自分が帰ってきてしまって、介抱してやらないと、と思う気持ちの方が大きくなってしまったのだ。
冷蔵庫から出した水を彼の前に置いて、首の詰まったシャツのボタンを一つ二つと外してやった。途端に大きく息をした彼が、とろんとした瞳をこちらに向けた。
「シャワー、浴びますかぁ……?」
彼の瞳は熱を持ったまま、見上げている。ソファの背凭れに体重を預けながら、強引に身体を起こし、はぁっと熱っぽく息を吐いた。
どくんと大きく脈打つ心臓。彼はふにゃりと力無く笑っていた。
「先どーぞ。水飲んで待ってます」
やっぱり、自分が思っている以上に酔っているようだ。大した判断力も無いまま、促されるままに脱衣所へ駆け込んだ。
全て脱ぎ捨てて、いつもよりぬるめの湯を頭から浴びる。彼の顔を思い浮かべるたびに手が止まって、必死に頭を振る。頭の中が彼でいっぱいになって、どうしようもなかった。パパッと頭と身体を洗って、バスローブに着替える。
タオルで頭を拭きながら、彼が居るリビングの方から声が聞こえ、耳を澄ませた。
「あーごめん、仕事だったぁ?いや、そうじゃなくて……うん、そう。えー?ふふ、もう遅いって。うん……うん、わかってる……だから電話したんじゃん」
誰かと電話しているようで、その声は先程よりも芯がある。酔いが覚め始めたのかと安堵する気持ちと、誰と電話しているのか知りたい気持ちが混ざり合う。
「いいでしょ?……はぁい、いつもみたいにね。だぁいじょーぶ。もぉ、ほんと心配性だよなぁ」
甘ったるく、媚びるような声に聞こえた。
脱衣所を出てリビングへと足が向く。
「じゃあね……はやと」
自分の存在に気付いていたのか、そうでないのか。彼はすぐに携帯を伏せ、一口水を飲んだ。
そしてパッと俺と目が合って、にっこりと口元に笑みをつくった。
「俺もシャワー浴びていいですか?準備してきますね」
家に着くまであんなに千鳥足だったのに、彼は軽やかな足取りで浴室へと姿を消した。
そして、その夜。彼に溺れていった。
「失礼します。ご挨拶させて頂いてよろしいですか?」
出演ドラマの番宣のためのバラエティ番組の収録。その控え室の扉をゆっくりと開ける。
そこに立っていたのは、俳優としてもアイドルとしても活躍している、誰もが知る男の姿だった。
中へと促すと礼儀正しくお辞儀して入ってくる。かなり高身長で体格も良いため、若干圧倒されてしまう。
「お忙しい時にすいません。別の収録で近くに居たんで、ご挨拶だけでもと思って。前うちのリーダーがお世話になったみたいで、ありがとうございました」
名前を出され、彼が同じグループでアイドル活動をしていることを、そこで初めて知った。驚いた顔をしてしまっていたようで、己の無知を恥じた。素直に謝罪すると彼は笑って首を振った。
「いえ、自分たちの力不足なんで。もっと知って頂けるように頑張っていきたいですね」
いかにも好青年という感じの印象だ。テレビで見ない日は無いと言っていいほど活躍していて、充分売れているだろうに。本人たちにとってはまだまだこれからなのだろう。
青くて若い、良い子たちだ。共に励んでいこうと、固く握手を交わした。
その手を、痛いほど強く握られた。
「どうでした?うちのリーダーは」
縮まった距離で、彼の顔を見上げる。先程と同じく笑顔は崩さず、ただ目は笑っていない。
「ちゃんとナカで気持ちよくさせられました?」
この男は、あの夜のことを知っている。
思わず手を振り解いて距離を置いた。なんで、と呟いたこちらの言葉を聞いて、肩を落とした。
もう彼の顔に笑顔なんてなかった。
「あいつね、すーぐ男食っちゃうんですよ。見境無いっつーか、まぁ自分を満たせれば誰でもいいんでしょうね。危なっかしいんですよ。ずっと、ずーっとね」
“危なっかしい”。あの店で、彼に言った自分の言葉を反芻する。これも彼の、男を誘う時の技法だったのだろうかと、過去の自分の行いを悔いたところでもう遅い。
彼は近くにあったパイプ椅子に座り、溜め息を吐きながら白状していく。
「だからね、その回数がもう両手で数えられなくなった時、俺言ったんですよ。俺と通話繋いでヤるんだったらいいよ、って。初めの何回か結構危ない奴に捕まって、あいつ痛い目見てるんすよ。それでもやめないし、事務所やメンバーにも言える話じゃないから最年長の俺が仕方無く?って感じで」
やれやれ、なんて肩を竦めながら言っても説得力が無い。彼はずっと目をギラつかせている。
居心地の悪さを感じて視線を地面に向けると、彼は大袈裟に手を振って笑ってみせる。
「あー、あんたを責めたいわけじゃねえっすよ。全面的に仁人に非があると思ってるんで。なんで今日はお詫びも兼ねて、忠告しに来たってわけです。今後あいつとヤるのは自由にしてもらったらいいっすよ。ただ今回と同じように通話は繋ぐってだけなんで、そこだけ理解してもらえれば。逆に次からいちいち許可取りせず始められると思うんで、手間がひとつ省けますね」
他人の性事情を覗いている分際で、何故そんなあっけらかんとしていられるのか。この男の倫理観が分からず、苦い顔しかできない。
何故そんな当たり前の顔ができるんだ。自分が言えた義理じゃないが、どういう考えを持って接しているのかと、不思議に思って聞いてしまった。
「俺すか?俺は仁人でしか勃たねえんで、抱くのは仁人だけっすよ」
彼は、きょとんとした顔のまま言った。
理解が追いつかず、今度は自分がきょとんとしてしまった。
「俺たちが付き合ってるかどうかってことですか?んー、なんつーか……俺と仁人の関係性って、そんな言葉じゃ表せないんすよ。もっと深いところで繋がってて、でもすげえ汚い。絶対に綺麗な関係に戻れないから、言い表せないんすよ」
ふっと逸らした彼の顔が憂いを帯びていた。俳優としての彼ではない、もっと素に近い彼の表情を垣間見た、気がした。
「あいつのあんな性に奔放なところも、理解してやれるのは俺だけでしょ。それに悪いことばっかじゃないんですよねー。仁人ってね、誰かとヤった次の日絶対俺とヤりたがるんすよ。毎回毎回、ごめん勇斗もうしないからぁ、って無様に泣き縋るまでがセット。結局仁人の中で俺が一番なんだろうなって実感できるから、別に誰とヤろうが、俺にとってスパイスにしかならねえんですよ」
汚いものを蔑むようで、愛おしい誰かを想って慈しむような。相反する感情が複雑に混じり合う表情に、彼の真意が分からなくなる。
目の前に対峙している男だけじゃなく、“彼ら”に騙され、自分は手のひらの上で踊らされていたのだろう。
「あんたとヤったのが四日前。で、俺が直近で仁人とヤったのが……三日前。そうやってずっと、俺とできなくて寂しくなって他でヤって、それでも満たされないから俺のところに戻ってくるんだよ。可愛いでしょ。だって俺以外誰も、あいつをナカでイカせられねえんだもん。そらそうか、俺の形になっちゃってんだもんな。なんで仁人も気付かねえかなぁ」
美しい顔のまま、下半身をするりと撫で、片方の口角を上げる。その笑い方が嫌に下品で、でもサマになってしまっている。歪んだ感情と現実を抱えてそれを受け入れた男の表現というのは、こういった奥深さも出してしまうのだろう。
そして男は、こちらを見つめる。
「不思議なもんで、仁人をリピートする奴って今まで一人もいないんですよ。懇切丁寧に毎回俺がこうやって説明して、好きにしたらいいまで言ってるのに」
パイプ椅子から立ち上がり、一歩一歩と近付く。
「で、あんたはどう?まだ仁人とヤる気あんの?」
これは、忠告なんて優しいものじゃない。正真正銘の、宣戦布告だ。自分のものを汚された相手に対する、威圧だった。
完全に圧倒され、彼らに入り込む隙間も無いと理解した自分は、緩く首を振った。自分から向かっていったくせに、本音は、もう巻き込まれたくない。
彼が、いや彼らが、恐ろしいと感じてしまった。
「そっすか。じゃあこの話は終わりってことで。また共演の機会があればよろしくお願いしますね。それでは」
好青年の笑顔を貼り付けた彼は、静かにこの部屋を去った。
こうして一夜限りの夢が、覚めていった。
寝室。湿度の高い熱気が部屋を埋める。枕元に置かれた携帯から、男の声が繰り返し流れ続けている。
ベッドの中心に寝転がる男は、生まれたままの姿で、淫らに男を咥え込んでいた。あまく泥濘んだ後孔をきゅうっと切なく締め付けて、とろけた瞳を向ける。
「あぁっ……きもちぃ、もっと……っ♡」
弱い所を突かれ、奥まで押し込まれてしまえば、男―――仁人の目の前は真っ白な世界に変わる。
仁人の身体を揺さぶる男―――勇斗は、懐っこい笑みを浮かべながらそっと仁人にキスをする。その最中でも腰の動きは止めず、仁人はまた絶頂の波に飲み込まれていった。
「はっ……かわいい。ナカイキしすぎて、仁人のちんちん勃たなくなっちゃったね」
男性の象徴であるそれはくったりと倒れたまま、気まぐれに少量の白濁を溢すだけで何の役にも立たない。
勇斗は、笑みを深くする。自分がいつ絶頂したのかさえ分からなくなった仁人が、困ったように首を傾げる。
「はやと、以外とだと……んっ、ここでしか、イケないっからぁ……」
「そうだね。一生懸命しこしこしてる仁人の声、めちゃくちゃ可愛いよ。俺じゃないとだめなくせに、俺以外に抱かれちゃうんだもん。しょうがないよなぁ」
勇斗は四日前に携帯越しに聞いた、仁人の切ない喘ぎ声を思い出していた。自分の帰りが遅い夜に、そんなおイタをしてしまうこの男が、何故か可愛く見えてしまう。何度だめだと言い聞かせたところで、仁人は何も変わらない。結局次の日になって泣きべそをかきながら、勇斗に抱いてとせがむ。
寂しさを埋める穴に、代わりが務まるわけがない。仁人もそれを分かっていて、でもやめることもできない。
勇斗が鬱陶しそうに携帯を持ち上げ、画面を見てふっと笑う。
「仁人、今日の俺の声ずっと聞いてたの?」
問われた仁人は、こくりと頷いた。
それは勇斗が、この前一夜を過ごした仁人の相手との会話を録音したもの。勇斗が相手に対して淡々と説明しながらも、たまに毒を吐き、仁人への気持ちを漏らしてしまう。その勇斗の声と言葉が心地良く、ずっと繰り返し聞いていたのだ。
「これで満足できたの?仁ちゃん」
「んぅ、はやとぉ……」
「はいはい、なあに」
「もっと……嫉妬して」
仁人が欲しいものは、ずっと同じ。
ただ勇斗の心だけだった。
「もっと俺に、狂ってよ……♡」
たくさんの男に抱かれ、その声を聞かせるたびに、仁人の心は密かに満たされてしまう。勇斗をもっと夢中にさせたい、勇斗の心を揺さぶっていたい。
そんな歪んだ気持ちをぶつけても尚、勇斗は満足そうに笑う。寂しがり屋な仁人を、許し続けている。
「いいよ……でも絶対俺のところに帰ってきて。俺が一番って言ってね」
互いの執着と依存で成り立つ、歪な関係。
それが、誰も踏み込めない、ふたりだけの秘密。
コメント
8件
誰にも思い付かないようなお話…めちゃくちゃ好きです。いつも私の癖に刺さるお話をありがとうございます😭🙏 また更新楽しみにしております(深々)
めおさんの作品全てどタイプすぎて😭😭 更新楽しみにしてます!
共依存たまりません…!またの更新を楽しみにしています!