テラーノベル
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#独占欲
#ワンナイトラブ
#溺愛
「夕飯にする?」
「……まだいいかな、後で食べる」
私たち夫婦の
いつもの光景
幾度となく繰り返されてきた
飽きる程繰り返してきた
いつもの定型化したパターン
「じゃあ私ももう少し待ってから食べるね」
「今日お鍋なの、一緒に食べよう」
でも
今日は違った
私が変えた
私は本気で未来を見据えている
純也と本気で向き合おうとしている
我が子のためだけじゃない
自分とリュカのためだけじゃない
袋小路に迷い込み
彷徨い続ける
私と純也のためでもあるから
普通に考えれば分かったはずだった
こんな関係良くない
こんな関係続くわけない
現実を直視することから逃げ
現状のぬるま湯に浸り続け
痛みを伴うことを嫌い
改善することを避け続けてきた末路が
今の私たちだ
友人のいない私には
客観的な意見をくれる人がいなかった
でも
今ならわかる
このままでは駄目
そう
自分に言い聞かせ
自分を奮い立たせ
自分自ら一歩踏み出した
「……」
「そう……じゃ今食べるよ」
私の言葉が予想外だったのか
私がいつもと違うことに驚いたのか
純也はしばし言い淀むも
純也もいつもと違う選択をした
いつ以来だろう
私は
純也と卓を囲み
向かい合い
夕食を共にする
テーブルの上に
卓上コンロを出した
使った記憶のない
買った記憶もおぼろげな
年季の入った卓上コンロ
カチッカチッ
チチチチ……ボゥ!
しばし時間を要したが
無事コンロは点火した
鍋を運び
コンロの上に置き
鍋を火に掛ける
手伝うことに慣れていない純也は
準備する私を横目で見ていた
最後に具材を投入して準備万端
鍋を火に掛け
後は
しばし待つだけ
「そろそろできるよ」
鍋がグツグツと煮立つ頃になっても
未だソファに留まる純也
私の声に反応して
ようやく重い腰を上げると
ようやくテーブルの席に着いた
***
「……」
「……」
テーブルを挟んで向かい合い
卓を囲み
鍋を囲む
状況が変わっても
いつも通りの沈黙
いつもと違い
向かい合うも
変わらず漂う気まずい空気
向かい合い
顔が見える分だけ
いつにも増して気まずい
「味どう?口に合う?」
「……うん」
定型的な会話さえもままならない
私たち夫婦の惨状
会話の糸口さえ見出せず
回復の糸口さえ見出せないまま
放置した結果の現状
「ちゃんと話そうと思って、私たちのこと」
「ずっとこんなでしょ?」
「純也はどう思ってるの?」
私は
腹を決め
向かい合うことを決意し
意を決して切り出した
「……」
純也は
黙っていた
いつもと違う私の言動に
この話題を予想していなかったわけではないだろう
言葉を選ぶというよりも
回答に迷う素振りに見えた
長い沈黙の末に
口に入った食べ物を飲み込むと
純也は
ようやくゆっくりと口を開いた
「正直よくわからん」
思っていた答えの斜め上だった
と言うよりも純也は
考えていなかったのだろう
考えていたのは私だけ
家計の支払いはほぼ私持ち
外出も交友も口を挟まない
こんな惨状たれど
純也にとっては都合の良い関係なのだろう
仮初めの夫婦とはいえ
それなりの時間連れ添った関係
その表情から
純也の内面が伺い知れる
その結果
逃げの言葉を選んだ
その先にあるのは
このまま何も変わらない未来
これまでと同様の関係
それが
純也の望み
純也の回答
「純也は今の私たちは正常だと思うの?」
「このままの関係で良いと思う?」
業を煮やした私の言葉に
またも沈黙する純也
「私は辛いの」
「純也を責めてるんじゃないよ」
「二人で居ても会話もない」
「互いの思いやりや疎通もない」
「これから私たちの関係性が良くなるとも思えないの」
続ける私に
ようやく純也が顔を上げる
「他に好きな男でも出来たんじゃないのか?」
「そんな人いないよ、前にも言ったでしょ」
「私は私たちの話をしてるの」
「怪しいけどな」
「何でそんなこと言うの?」
「男といるとこ見たって聞いたぞ」
そう言うと
これまで伏せがちだった純也の視線が
私の目を直視する
これまで一方的に話す側だった私
純也の目力に気圧され
一瞬たじろぐ
それでも
やっとのことで漕ぎ着けた
離婚を切り出す協議の場
ここで逃げ出すわけにはいかない
私は
平然を装い
会話を続け
そして
会話を推進させる
「それって鈴木さんから聞いたの?」
コメント
1件
第84話、読み終えました。鍋を囲む沈黙と、対面するからこそ際立つ気まずさ――そこに夫婦の積年の距離感が滲んでいて、胸が締め付けられました。特に純也が「他に好きな男でもできたんじゃないのか」と疑いの目を向ける場面、それまで無関心だった人が突然こちらを直視するあの一瞬の温度差に、彼らの関係の歪みが凝縮されているように感じました。この先、この夜がどう動くのか、息を止めて見守りたくなります。素敵な物語をありがとうございます。