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#ファンタジー
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降りしきる雨は、村を叩きつける泥水へと変えていた。
江戸の片隅、地図にも載らぬ隠れ里。
そこでは今、一人の少女が、実の家族の手によって「化け物」へと差し出されようとしていた。
「……小春、恨むんじゃないよ。お前のその髪が、この村に災いを呼んだんだ」
継母の冷ややかな声が、雨音に混じる。
私、小春は、泥に汚れた白無垢の裾を握りしめた。
生まれつき、桃の花を煮出したような鮮やかなピンク色の髪。
「厄災の子」
「不吉の象徴」
そう呼ばれ、物置同然の部屋で育てられた私に、拒否権などなかった。
村に続く干ばつと疫病。
それを鎮める方法はただ一つ。
禁域の山に棲むという、かつて村を焼き尽くした恐るべき龍神への「生贄」を捧げること。
「さあ、行きなさい。二度と、敷居を跨ぐんじゃないよ」
背中を強く押され、小春は禁忌の結界を越えた。
背後で、村の境界を示す重い門が「ガタン」と音を立てて閉ざされる。
そこから先は、光さえ届かぬ深い森だった。
一歩、また一歩。
裸足の足に刺さる小石や枝の痛みさえ、死への恐怖で麻痺していく。
やがて、霧の向こうに
古びた、けれど圧倒的な威圧感を放つ巨大な社が見えてきた。
「……誰だ」
低く、地響きのような声が頭上から降ってきた。
顔を上げると、そこには人間離れした美貌を持つ緑髪の青年が立っていた。
鋭い双眸は、冷徹な宝石のように輝いている。
(この人が……村を焼いたという、龍神様……?)
私は震える膝を突き、深々と頭を下げた。
「村から参りました、生贄の小春と申します…」
死を覚悟し、ぎゅっと目を閉じる。
だが、待てど暮らせど、鋭い牙が喉元を貫く感触はやってこない。
代わりに聞こえてきたのは、心底退屈そうに吐き出されたため息だった。
「……ふん。また、ゴミを捨てに来たか」
「えっ……?」
恐る恐る顔を上げると、青年は、私のピンク色の髪を一瞥し、鼻で笑った。
「汚らわしい。人間など、喰う価値もない。……おい、小娘」
彼が懐から取り出したのは、古びているが不思議な温もりを感じる一柱の**「御守り」だった。
彼はそれを、私震える手に乱暴に押し付ける。
「これを持って、さっさと山を降りろ。……俺の視界から、消え失せろ」
突き放すような言葉。
けれど、その手はわずかに温かかった。
「……お、降りられません!」
私は、手の中の御守りをぎゅっと握りしめながら言った。
「私には、もう帰る場所なんて……どこにもないんです…っ」
「帰る場所がないだと?」
彼が怪訝そうに眉を寄せた。
その双眸が、雨に濡れて透けるほどに鮮やかな私のピンク色の髪を
忌々しげに、けれどどこか値踏みするように射抜く。
「……村では、この髪のせいで『厄災の子』と呼ばれていました。私が生きているだけで不吉だと、物置に閉じ込められて……」
「ほう?」
「今日、ここに来たのも、私が死ぬことで村が救われるからだと、そう言われました」