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なんだか頭が痛い。
目を開けるとそこは見慣れぬ天井だった。
高級ホテルのアフタヌーンティーのようなケーキを頂いて、適当に煽てながら話をしていた。
しかし、おかわりの紅茶を頂いたあたりで記憶が途切れている。
「もう、朝なのでお着替えください。社長が、新しいお洋服をプレゼントしてくれましたよ。運転手が会社までお送りします」
メイド服を着た女性に掛けられ私は慌てて体を起こした。。
(え、裸? 服着てない、なにこれ⋯⋯)
「社長からお言葉を頂いております。昨晩は楽しかったよとのことでした」
「待ってください。私、何か盛られたと思うんですが、これって犯罪ですよね」
私は自分の置かれた状況を整理した。
おそらく睡眠薬か何かを盛られ、昨晩、私は御影社長に犯された。
(女癖が悪いとかのレベルじゃない! こんなの許せない!)
「ご自分で喜んでついてきたのではないですか? モデルでも女優でもない貴方様が社長にお相手して貰うなんてありがたいことなんですよ」
先ほどまでのにこやかな顔から急に冷たい目でメイドが私を見下すように言い放つ。
私は自分の立場で御影社長を訴えることが難しいことに気がついた。
しかも、この手慣れ加減を考えると彼は常習的にこのようなことをしていて、その罪は闇に葬られている。
私は怒りと恐怖で震える手で、用意された服を着た。
「末永様、お送りします」
運転手が車の扉を開けて待っていたが、私はその横を素通りした。
「会社までは電車で行くので結構です」
何事もなかったように出社し、昨日のアトリエ見学の感想を田中室長から聞かれる。
今朝の出来事を思い出すだけで怒りと恐怖でおかしくなりそうだ。
「私、御影社長とは相性が悪いようなんです。できればこれからは担当を外させてもらえませんか?」
声が震えないよう懇願するも私の要求は通らなかった。
「人の好き嫌いばかり言っていてはダメだよ。教育係の桜井くんとも、もっと仲良くやってくれなきゃ」
田中室長にも私が博貴に対して冷ややかな態度をとっているのが気がついていたのだろう。
「末永さん、気分が悪そうだけど大丈夫?」
博貴が紙コップに冷たいお茶を入れて私に持ってきた。
私は彼から貰う飲み物が怖い。
(これも、毒が入っているかもしれない⋯⋯)
「末永さん、先輩がこんなに気を遣ってくれているんだからお礼くらい言わなきゃ」
お茶を一向に受け取ろうとしない私を田中室長が注意してくる。
「お、お気遣いありがとうございます!」
私は博貴から紙コップを受け取るとお茶に口をつけた。
「はあ、生きてる」
私がつぶやいた言葉に博貴が笑っている。
「もしかして、そんなに喉が乾いてた? 」
「そういう訳じゃないんですけど、ありがとうございます」
私は心の中で今回は博貴が私を殺さないでいてくれたことに感謝した。
「俺は気にしてないから、最初からそんなに打ち解けられると思っていないし」
博貴が紙コップを持つ手を撫でてきて、その感触にゾッとして紙コップを落としてしまった。
床に残っていたお茶が広がっていく。
私は地図のように広がっていく、お茶をぼんやりと眺めていた。
「末永さん、大丈夫ですか? 今、雑巾を持ってきますね」
鈴木さんが、すぐに席から立ち上がり給湯室に雑巾を取りに行ってくれる。
「鈴木さんって気が利いて、女性らしくてステキな方ですよね」
私はそれとなく博貴に鈴木さんのことをアピールした。
どうせ2人はくっつく運命なのだから、最初からくっついて私から離れて欲しい。
「俺は末永さんみたいな自立した女性が好きだな。派遣で事務やるなんて明らかに腰掛けじゃん」
私は耳元で囁いてくる博貴の言葉に彼がなぜ本来の好みである鈴木さんより、最初に私にアプローチしたのかが分かった。
彼は起業をしたいとお付き合いしていた頃から話していた。
実際に彼は私と結婚した後、すぐに商社を辞めて起業した。
そして、私には仕事を継続するようにと薦めてきた。
彼は起業という不安定なものへ自分が挑戦する際の安定収入を私で確保したかったのだ。
最終的に一生分の安定したお金は私の宝くじ当選により確保できた。
だから、本命の鈴木さんの元へいって当選金を総取りする為に私を殺害したのだろう。
「桜井さんは三ツ川商事しか知りませんよね。ここを出た自分が上手くやれるか想像できますか? 鈴木さんは確かな能力の保証があって、他社でも認められ弊社に来た方です。同じ職場の仲間として、しっかりと尊重してください」
私の発言が意外だったのか、博貴は押し黙った。
でも、実際に三ツ川商事の看板がなくなった博貴は事業もうまく行かなかった。
私が再就職をすすめた時も「条件が悪い」など文句をつけて就職活動をまともにしなかった。
彼はプライドばかりが高く、殺人までするほど異常に自己中心的な男だ。
鈴木さんが雑巾を持ってきてくれた。
彼女が床を拭いてくれようとしたので、私は慌てて雑巾を掻っ攫った。
「ありがとうございます。流石に自分で拭きます」
「あのさっきの嬉しかったです。こちらこそありがとうございます」
鈴木さんが隣にいる博貴を冷ややかに一瞥した後、私に笑顔でお礼を言ってきた。
先ほどの私と博貴の会話は彼女に聞かれていたようだ。
どうやら私は2人の恋のフラグを折ってしまったらしい。
それから、3ヶ月は私は博貴や御影社長とは最低限の接触で過ごした。
鈴木さんとは毎日のようにランチする仲になっている。
「ここのウニパスタが美味しいらしいんです。いつも、末永さんにお店を紹介して頂いてばかりなんで私も調べてみました」
鈴木さんが会社近くにできたばかりのイタリアンに連れて来てくれた。
回帰前、私がこの店を知った時はウニパスタの提供は終わっていた。
おそらく高級食材で採算が取れなかったのだろう。
「ありがとうございます。私、ウニ大好きなんです」
私はウニが大好きなはずだった。
しかし、料理が運ばれてきた途端そのコッテリした匂いに吐き気がする。
食欲が全く湧かず、口を開くと吐いてしまいそうだ。
「すみません、ちょっとお手洗いに行ってきます」
私はトイレに入るなり、耐えきれず思いっきり嘔吐した。
「なにこれ、吐き気が止まらない」
席に戻ると鈴木さんが私を心配そうに見ている。
「先、食べててください。なんだか気分が悪くて回復したら私も食べますので」
私の言葉に鈴木さんが言いずらそうに尋ねてきた。
「末永さん、もしかして妊娠してませんか?」