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ひるを少しすぎたころ、小屋のそとのひもにかけてあった布が、やっとよく乾いたみたいでした。
あさのあいだに通っていた風は、もう細くなっていて、木と木のあいだを、白い糸のようにするすると抜けていきます。ひもに並んだ布は、その風にふわりと持ち上がって、またおとなしく戻ってきます。ひかりをすこしだけ含んだ、やわらかい色をしていました。
リルは小屋の前の草のうえに立って、布のすみを指でつまみました。乾いた布は、ぱりんとはしないけれど、朝よりずっと軽くなっていて、手のなかで小さく鳴るようでした。指をすべらせると、日なたのにおいがします。水の気配はもうほとんどなくて、かわりに、風とひかりが残っていました。
リルは目を細めて、ひとまい目をはずします。両手に広げると、布のまんなかがすこしだけくぼんで、そこへ空が浅くたまるようでした。
小屋の戸がひらいて、グルゥが出てきます。大きな手には、からになった木のかごがありました。たぶん、たたんだ布を入れるつもりなのでしょう。何も言わずに、リルのすぐそばにそのかごを置いて、ひものもう片ほうへ歩いていきます。
リルはちらりと見上げて、それから布をたたみました。
端と端をあわせると、さっきまで風をふくんでいたものが、急にしずかになります。広かった布が、だんだん小さな四角になっていくのがおもしろくて、リルはもういちどだけ、そっと開きかけました。でも、向こうでグルゥが次の布を外しているのを見て、こんどはちゃんとたたみます。
たたんだ布は、かごのなかへ置きました。木の底にふれる音が、こつん、とやさしく鳴きます。
グルゥのほうは、リルよりずっと手早いのでした。大きな指が布の端をつまむと、白いものも薄い色のものも、すぐに重なって、きれいな形になります。でも、急いでいるようには見えません。ただ、そうするのが自然であるみたいに、静かに折っていくだけでした。
リルは自分のたたんだ布を見て、それからグルゥの布を見ます。すこしだけ、かたちがちがいます。リルのは端がほんのすこしずれていて、グルゥのは石を重ねたようにまっすぐでした。
リルは布をひとつ持ったまま、首をかしげます。
グルゥはそれに気づいて、手もとの布をいったん止めました。それから、リルの前にしゃがみこみます。大きなひざが草を少し押して、そこだけ青みどりが寝そべったみたいになります。
グルゥは、リルの持っていた布の端を、指先でそろえました。ほんの少しだけ引いて、角を合わせます。それから、もう半分、と短く言いました。
リルはうなずいて、その通りに折ります。
こんどは、さっきよりましでした。まだ少しだけずれているけれど、布はちゃんと四角の顔をしています。リルはしばらくそれを見て、口もとをすこしゆるめました。
グルゥは何も言いませんでしたが、その布を受けとって、かごのいちばん上へ置きました。くずさないように、やさしくのせる手つきでした。
ひもの布がぜんぶなくなるころには、空の色が少しだけやわらいでいました。日なたの白さがうすくなって、かわりに木かげの涼しい色が、地面のうえをひろがってきます。小屋の軒下には、たたまれた布の入ったかごがあり、四角いものたちが、きちんと重なっていました。けれど、よく見ると、ひとつだけ端のあわない布があります。リルがたたんだものです。
リルもそれに気づいて、かごをのぞきこみました。
「これ、へんなかたち」
小さな声でそう言うと、グルゥはかごの中を見て、その布を取りあげます。たたみなおすのかと思ったら、そのまま腕にかけて、小屋のなかへ持っていきました。
少しして、戻ってきたグルゥの肩には、その布がふんわりとかかっていました。昼の終わりの風をよけるのに、ちょうどよさそうでした。
リルはそれを見て、目をまるくしてから、すこしだけ笑いました。
グルゥは木の椅子に腰をおろして、いつものように静かに座っています。肩の布だけが、さっきまでひもで揺れていた名残みたいに、ときどき風にふくらみました。
リルは空になったかごを両手で抱えて、そのそばに立ちます。草のにおいと、乾いた布のにおいと、木の椅子のぬくもりが、夕方の手前でひとつにまざっていました。
たたまれた布は、棚へしまわれれば見えなくなります。でも、指で折った線や、端を合わせた気配は、しばらく手のひらに残ります。リルは自分の手をひらいて、また閉じました。そこにはもう布はないのに、やわらかな四角だけが、まだあるみたいでした。
柘榴とAI
