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あめ猫
3,650
夕方。
学校帰り。
通学リュックを揺らしながら、クールキッドが家に入る。
「ただいま」
「……おかえり」
セブンはいつもの場所。
変わらない。
でも——
前より少しだけ、声が柔らかい。
クールキッドは靴を脱ぎながら振り返る。
「お兄ちゃんは?」
「あとで来る」
「そっか」
少しだけ残念そうにして。
でもすぐ、いつもの顔に戻る。
リビングへ。
リュックを置く。
そのまま、床に座る。
「……」
少し考えている顔。
セブンがそれを見る。
「……何だ」
クールキッドは顔を上げる。
まっすぐ。
「ねえ」
「……何だ」
「お兄ちゃん、いっしょに住まないの?」
その一言で。
空気が止まる。
セブンの指がわずかに止まる。
「……何でだ」
低く聞く。
クールキッドは当たり前みたいに言う。
「だって」
少し笑う。
「たのしいから」
短い理由。
でも、十分。
「ぼくもパパも」
続ける。
「お兄ちゃんのこと、すきでしょ」
さらっと言う。
何の迷いもなく。
セブンは言葉を失う。
一瞬だけ。
ほんの一瞬。
「……」
否定はしない。
できない。
でも。
肯定も、すぐには出ない。
そのとき。
ドアが開く。
「よ」
エリオット。
タイミングがいいのか、悪いのか。
「お兄ちゃん!」
クールキッドが立ち上がる。
ぱっと明るくなる。
「おかえり」
「ただいま、じゃないだろ」
軽く笑う。
いつものやり取り。
でも——
クールキッドはそのまま言う。
「ねえ」
「ん?」
「いっしょに住まないの?」
直球。
エリオットが固まる。
「……は?」
予想外すぎる。
セブンが横で目を細める。
「……急だな」
「だって」
クールキッドは同じことを繰り返す。
「たのしいし」
「ぼくもパパも、お兄ちゃんのことすきだよ」
もう一度。
今度は二人に向けて。
エリオットは言葉を探す。
珍しく。
「……いや、俺はその……」
少しだけ視線を逸らす。
「仕事あるし」
現実的な理由。
でも。
それだけじゃない顔。
クールキッドは首を傾げる。
「だめ?」
まっすぐ。
逃げ場がない。
エリオットは困ったように笑う。
「だめっていうか……」
セブンを見る。
一瞬だけ。
視線が交わる。
何も言わない会話。
「……考えとく」
それが精一杯。
クールキッドは少し考える。
それから。
「うん」
納得はしてない。
でも、受け入れる。
そのまま、また積み木の方へ行く。
カラ、と音がする。
平和な時間。
変わらない日常。
——夜。
静まり返った部屋。
クールキッドはもう寝ている。
エリオットも帰っている。
セブンは一人。
いつもの場所。
PCの前。
画面は暗い。
しばらく動かない。
でも。
やがて。
ゆっくりと電源を入れる。
起動音。
画面が立ち上がる。
久しぶりの光。
ログイン。
特に何も操作していないのに——
一通の通知。
新着メール。
差出人名。
見た瞬間に分かる。
「……」
セブンの表情が変わる。
少しだけ。
苦く。
開く。
本文。
『久しぶりだな』
短い一文。
それだけで十分だった。
送り主。
Noli。
かつての仲間。
同じ側にいた人間。
“あの頃”の象徴。
セブンの指が止まる。
スクロールする。
続き。
『最近、妙な干渉が増えてる』
一瞬。
部屋の空気が冷える。
『綺麗すぎる。雑音がない』
『まるで——』
少し間があって。
『“遊んでる”みたいだ』
セブンの目が細くなる。
完全に気づいている。
クールキッドの“それ”に。
Noliにとって。
ハッキングは仕事でも犯罪でもない。
ショーだ。
舞台。
主役として輝くための手段。
だからこそ。
分かる。
“異質なもの”が混ざった時。
「……」
セブンは何も言わない。
ただ画面を見る。
静かに。
そのまま。
さらに下へ。
『お前じゃないなら、面白い』
『久々にゾクっとした』
『紹介しろよ』
最後の一文。
軽い。
でも。
その裏にあるものは軽くない。
興味。
執着。
そして——
“引き込む気”
セブンの手が、ゆっくりと止まる。
返信欄を開くこともなく。
ただ。
画面を見つめる。
苦い顔のまま。
背後。
静かな寝息。
クールキッド。
その存在と。
画面の向こうの“過去”。
両方が同時にそこにある。
「……」
小さく息を吐く。
迷いはない。
でも。
簡単でもない。
静かな夜。
平和の裏側で。
確実に何かが、動き始めている。
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while (show.isOngoing()) {
actors.perform();
}
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