ふいに視線の先に顔を向けると、店長がどこかほっとしたようににこにこ笑いながら、こっちを見ていた。
私の顔に何かついているだろうか、というベタな発想が浮かんだが、そうではないみたい。
私が目を合わせても変わらずに微笑んでいるようすから、そう確信した。
いくらおじさんとはいえ、こんなに男性に長い間見つめられるのは慣れていない。
徐々にむず痒さが背中を駆け巡っていき、限界に達した時、私は店長を睨み付けた。
「あの…何ですか?言いたいことがあるならはっきり言ってくださいよ。」
目付きの悪い私に、店長は尚更目尻を細くして笑った。
「ん?いやー、やっぱりこっちの方の藤塚さんといると安心するなって思ってさ。」
「…はい?」
「だから、職場の人といるときよりも素の藤塚さんの方がいいなって。」
曇りのない爽やかな笑顔で言われた。
「っ…!!」
これまたベタな展開。危うく、口に含んでいた水を吐き出しそうになった。
なんとか女子としての威厳と共に飲み込み、苦しさで息を荒くする。
そんな私を、店長は心配そうに見ていた。
「だ、大丈夫かい?」
誰のせいで…という言葉を必死に抑えた。そんなことを言っても伝わらないのは目に見えていたから。
呼吸を整えると、さっきよりも鋭い目付きになり、答える。
「だ…大丈夫です。それよりも…馬鹿なこと言わないでくださいよ。」
「え?俺、何か変なこといったかい?」
「変も何も…素の私の方がいいって…どうかしてるんじゃないですか。職場の人はみんな、明るくて可愛い私が好きなのに…」
「うーん…。そうかなぁ。他の人はともかく、俺は今の藤塚さんといると落ち着くけどなぁ。」
本当に、不思議そうな顔で呟く店長。嘘を言っているようには感じなかった。
飾り気のないシンプルな言葉。店長らしいと思った。気の効いた言い回しがないのに、どうしてこんなに嬉しいんだろう。