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ピアーニャ達は、早々に転移のテストを終えて、打ち上げをしていた。テストと言っても、転移を日常の行為とするイディアゼッターがいるので、万が一も起こらない。何事も無く動作を確認し、仕事を終えたのだった。
打ち上げには大量の食事が出るという事で、キュロゼーラ達が大いに張り切った。今も追加の料理を用意する為に、まな板への行列を作っている。
「アンタはどう料理されたいんだい?」
「串焼キが良いデす! 芯があるので、下かラその串をズボッっと──」
グサッ
「オぉふっ! あぁ、アりがとうごザいますあり…がと…ウ……」
「幸せそうにイっちゃったねぇ、くふふ……」
調理されるキュロゼーラは勿論だが、料理担当のシーカーが数名、恍惚とした表情になっている。他のシーカー達はその異様な光景から目を背け、近くの者と語り合いながら料理を食べていた。
「すっかりキュロゼーラ達にも慣れたようですねぇ」
「……いやアレ、こわれてないか?」
日中の謝罪ネタをいじられて不貞腐れていたピアーニャだが、それ以上に精神面に異常をきたしているとしか思えない姿を見て、何とも言えない気持ちで持ち直していた。
なにしろ、今食べている食事は、料理を続けていたせいで人格がちょっと変わってしまったシーカー達が作った物である。料理までおかしな事になっていないか心配になってしまうのだ。
イディアゼッターは気にする事無く、調理されたキュロゼーラの肉巻きを頬張っている。
「美味しいですねぇ」
「まぁうまいけど……やはりあるイミたべにくいな」
「あまり気にしない事です。まぁ情を持つヒトには難しいかもしれませんが」
「ゼッちゃんはカミだから、そのへんのカチカンが、ちがうんだろうな」
何となく諦め、焼きキュロゼーラを頬張るピアーニャ。なんだかんだ言いつつも、じっくり味わうあたり、味はかなり良いのだろう。
イディアゼッターと語り合いながら、モキュモキュと食べ続けるのだった。
「ふぅ……」
とあるリージョンからやってきた吸血人種のシーカー。その名はツェッペルジュ。
打ち上げでお腹を満たした彼は、打ち上げ会場から少し離れ、体を冷ましていた。しかし、胸に秘めた熱いモノだけは、一向に冷める様子が無かった。
「うぷっ……食べ過ぎた……」
いやいや、胃に詰めた熱いモノではなく……。
「げふっ……はぁ、パフィちゃんの鼻血……どうにかして、貰えないだろうか」
ツェッペルジュは、美女の鼻血が大好物な変態である。ドルナと共闘した時のパフィの鼻血が、頭に焼き付いて離れないのだ。
「あの悦びに満ちた麗しき鼻血。間違いなくこれまでで一番美味であろう。いっそ鼻に直接突っ──」
ゴスッ
「何真面目な顔で、気色悪い事呟いてんだ……」
ツェッペルジュを後ろから殴り倒したのは、同じく気分転換に来たバルドル。なんとなく来てみたら、変態がブツブツ呟いていたので、思わず手が出たのである。
殴られたツェッペルジュは何食わぬ顔で立ち上がり、髪をかき上げ、真っ直ぐな目でバルドルに言った。
「それが私の生きる道ですから」
「人生踏み外してんぞ、それ」
間髪入れずツッコミを食らうが、それで揺らぐようなメンタルは持っていない。そもそも人目をはばからず、女性に鼻血を求めては、汚物のように見られる事に、完全に慣れてしまっているのだ。
「組合長も、一度味わってみれば分かりますよ」
「分かってたまるか! 哀れみの目でこっち見んなド変態!」
バルドルはファナリア人なので、血を摂取する人種ではない。同意を求められても困るだけである。
内心引きつつも、意味の無い説得をし、しばらく時間を潰していると、ツェッペルジュが唐突に上を見上げた。
「ん? どうした? ボーっとして」
鼻血トークをしていた真面目そうな顔ではなく、不思議そうな顔でかなり遠くを見ていた。赤い瞳は銀色に輝き、その周りは真っ赤に充血している。これがツェッペルジュの能力の一端で、自らの血液を使った身体強化。血を固めた爪と併用する事で、超人的な格闘術を可能としているのだ。
その強化された眼が、遥か上空にある何かをハッキリと捉えた。
「あれは……っ」
「おや?」
イディアゼッターが何かに気づき、上を見上げた。
隣にいたピアーニャが、何事かと聞こうとしたとき、離れた場所からピアーニャを呼ぶ野太い声が聞こえた。
「そうちょーう! そうちょーう!」
「バルドル?」
慌てて走ってきたのは、バルドルとツェッペルジュ。しかし、上を見ながら走っていたツェッペルジュの方は、少し離れた所で転んで止まってしまった。
「どうし──」
「総長! 空から女の子が!」
「えぇ……」
「なんとなく危険な感じがしますね」
「む、ならセントウジュンビか?」
「いえいえ、そういう意味ではなくてですね。セリフ的に……」
「?」
「まぁそれよりも、上から来ますよ」
言われてピアーニャが上を見上げると、葉の隙間のかなり上方から何かが光りながら落ちてくるのが見えた。
目を細めて、なんとか光っているのが見える距離である。
「え、あれオンナのコ?」
なんでバルドルが分かったんだという疑問はあったが、まずは迫ってくる『女の子』をどうにかするのが先である。
ピアーニャはやんわりと受け止めるべく、『雲塊』を構えた。しかし、そこに待ったがかかる。
「まずは儂にお任せあれ」
「ゼッちゃん?」
イディアゼッターが前に出た。
「どうするつもりだ?」
「受け止めやすいように、落下地点を固定化します」
「そんなチカラがあるのか……」
空間の歪みなどを閉じたり、離れた空間を繋げる神だが、他にも能力があっても不思議ではないと考え、ピアーニャ達はイディアゼッターに任せる事にした。転移の塔の設計者だけあって、任せても問題ないだろうと判断したのだ。
そんな事を考えているうちに、見えた光が近づいてきた。
「…………うわぁ」
それは背中に光る羽を生やした少女だった。しかも錐揉み回転しながら落下してくる。
受け止めたところで突き抜けてしまいそうだなと思いながら、ピアーニャはイディアゼッターを見る。
(たのむぞ、ゼッちゃん)
心配こそしていないが、落下地点を固定化するという行為が分からない為、いつでも動けるようにしておかなければいけない。『雲塊』を広げ、なりゆきを見守る。
落ちてくる少女が迫り、ようやく落下する場所が分かってきた。今いる場所ではなく、少し離れた足場の無い場所に向かっている。
「ほっ」
イディアゼッターが4つの手を掲げると、その落下先に空間の穴が発生した。少女がその穴に吸い込まれていく。
『え……』
「そして上です」
『は?』
上を見ると、別の空間の穴があり、そこから少女が再び錐揉み回転しながら落ちてきた。今度はピアーニャ達のいる場所に、真っ直ぐに近づいてくる。
「お、おい?」
「大丈夫ですよ。少しだけ離れてください」
再び4つの手を掲げ、目の前に空間の穴を広げる。その穴に少女がスポッと収まり、再び上から落ちてくる。そのまま真下に用意された穴に入り、再び上から落ちてくる。
「よし、成功です」
「いやいやいやいや! セイコウです…じゃないだろ!?」
目の前で何度も落下し続ける少女。これは酷いとピアーニャが焦り出す。
確かに落下地点は固定化したし、何かに衝突する事はなくなった。が、止める障害まで完全に無くなってしまった。上から下に向かって、永遠に落ち続ける無限ループである。
「とりあえず、デグチをウエにむけてくれるか? わちがひろうから……」
「かしこまりました」
ピアーニャの提案に乗り、イディアゼッターはもう1つ別の穴を開いた。
再度少女が穴に落ちると、開いた穴から上に向かってポーンと勢いよく吐き出される。その勢いは、上に向かいながらすぐに納まり、同時に錐揉み回転も徐々に緩んでいく。
そこへ雲に乗ったピアーニャが接近し、上昇から降下に切り替わったばかりの安全なタイミングで、受け止める事に成功した。
「う……」
「よしっ……いきてはいるな……」
少女を見ると、動きやすい水着のような服で、やはり光る翼のようなものが背中側についている。顔色が悪いのを見て、急いで下に戻る事にした。
下では、何事かとシーカー達が食事をしながら集まっていた。その半分以上が食べ過ぎなのか、苦しそうにお腹をさすっている。
太腿を露わにした少女の姿に、数名の男女がいやらしい眼差しを向けているが、ピアーニャとイディアゼッターは無視する事にした。
「ふむ、あの世界の方ですか……」
「知っているのかゼッちゃん……?」
「ええ、まだ名の無い世界…リージョンですが、それなりに文化は発展しています。今はそれよりも……」
「ああそうだな」
顔色が悪いというのに、放置して話をするわけにはいかない。まずは介抱する為に雲から降ろそうとした。
しかし、少女の体がビクリと動いた。
「うっ…ぐ……」
「む、どうした?」
少女が目を閉じたまま、苦しそうに顔を歪めた。
心配そうに近づくピアーニャ。すると突然、少女の口からナニカが勢いよく噴射した。
「オボロロロロロ……」
「ぎゃああああああああああああ!?」
「あ……まぁずっと回ってたのが止まりましたからねぇ……」
「わちのクモがああああ! アシがああああああ!!」
逆さ、回転、落下。それらが全て一度に止まった事で、体に異常をきたしたのだろう。気絶したままだというのに、色々な物を吐き出していた。ピアーニャに向けて。
それを見ていたシーカー達はというと……
「うっ……オレももう……んげボっ」
「おろろろろ」
「うわーっ! こいつら貰いゲロしやがったあああああ!!」
「ちょっときたなああああああ!」
食べ過ぎて限界だったせいか、ツェッペルジュを含む数名が少女に釣られて同じ状態になり、辺りは阿鼻叫喚となったのだった。
余りの酷い光景に、イディアゼッターとバルドルは、お互いを見てからため息を吐くしか出来なかった。