テラーノベル
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その日は、空が驚くほど高く、澄み渡っていた。
元カレ・宏太による一連の事件の公判が、すべて終了したのだ。
「……終わったのね、本当に」
裁判所のロビー。弁護士からの報告を電話で受けた私は
スマートフォンの画面を消し、深く息を吐き出した。
彼に下された判決は、妥当、あるいはそれ以上に厳しいものだった。
もう彼が私の日常を脅かすことはない。
物理的にも、そして法学的にも。
「───凛さん」
背後から聞き慣れた声がして、振り返るとそこには瞬くんが立っていた。
少し呼吸を乱しながら、私の元へ歩み寄ってくる。
「……瞬くん」
「お疲れ様でした。……もう、これで大丈夫ですね。あいつは二度と、凛さんの前に現れない」
彼は私の震える肩を抱き寄せた。
その大きな手のひらから伝わる熱が、私の胸に溜まっていた最後の「毒」を溶かしていく。
かつて宏太に支配されていた頃の私は、暗闇の中で息を潜めることしかできなかった。
でも、今の私の隣には、私のために戦い、私のためにすべてを賭けてくれる人がいる。
「……ねえ、瞬くん。私、ずっと怖かったの……過去を精算しても、私の中に刻まれた傷は消えないんじゃないかって。でも、今は違うわ」
私は彼のシャツをぎゅっと握りしめ、顔を上げた。
「高瀬くんがいてくれたから、今の私がいる。……あなたが毎日、私の体と心に上書きしてくれたから、あの人の記憶はもう、ただの枯れた風景になったの」
「凛さん……」
瞬くんは愛おしさに耐えかねたように、私の額に自分の額を押し当てた。
「上書きなんて、まだ全然足りませんよ。……一生かけて、あんたの記憶を俺の色だけで塗り潰してあげますから……いいですよね?」
「ええ。……お願い、瞬くん」
裁判所を去る私たちの足取りは、かつてないほど軽かった。
過去の残骸を葬り、私たちは本当の意味で「これから」を歩み始める。
その夜、自宅に戻った瞬くんは、いつも以上に激しく、そして壊れ物を扱うように優しく私を求めた。
それは、私を苦しめた過去への勝利宣言であり、私を一生離さないという、彼なりの執着の証明だった。
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おまる