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テラーノベル(Teller Novel)
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「つまり、お前は自分自身を生きる屍に変え、他人の死体の中で生き続けた。おそらく最初は、生前の姿をそのまま残すことは出来なかったのだろう。もしそれが出来たなら、お前は自分の姿のままでいたはずだ。だからお前は、何度も他人の死体とうつりかわり、そうやって長いときを経て研究を完成させた。そのおぞましい研究を、な」

「おぞましいだと?」

そういうと佐々木絵美は……いや、かつて佐々木絵美だったそいつは、着ていた制服を脱ぎ捨てた。下着などは身に着けておらず、一枚脱げば全裸だった。

「見よ、この美しさを。私の研究は芸術なのだ。醜く衰え死んでいく、お前達では決して手の届かない美を、私は手にしたのだ」

「人はみな死ぬ。それは神が定めたもうた、人間の理。その理を犯すものを、我等は許さぬ」

そういうと先生は剣を抜いた。以前見た、十字架を大きくしたような剣ではない。同じように十字架をかたどっているが、はるかに大きい。以前の剣は護身用だといっていた。だとしたら、こちらは戦闘用なのだろう。

「そんなもので、私を殺せるとでも思っているのかね?」

佐々木絵美の姿をした黒魔術師があざ笑う。しかし、先生はまったく動じない。

「ああ。俺は天界の守護者。神の摂理に逆らうものを葬り去るのが、我が務め」

先生の言葉に呼応するように、先生の持つ剣も輝きを増す。

「ふむ、ではやってみるがいい」

余裕たっぷりという感じだ。しかし、先生はためらいなく間合いをつめると、剣を振り下ろした。だが、佐々木の姿をしたそいつは、その剣を片手で平然と受け止めた。ゾンビ相手のときは、もっと小さな剣で腕の半分まで切り込んでいたのに、今度は刃が表面で完全に止まっている。

「どうした? こんなものなのかね?」

そいつは笑いながら言った。

「…………」

しかし先生は無言のまま、再び剣を振るった。今度は体当たりをくらわせるように、全身の体重を乗せて突きを放ったのだ。「突き」は殺傷力が高いと聞いたことがある。しかし、先生の剣は、わずかに刃先が食い込んだだけだった。

「私の体、私の作品に傷をつけるとは!」

そう言って、そいつはムッとした表情を浮かべ、おもむろに蹴りを繰り出した。とっさに剣で体をかばった先生だったが、その体は数メートルほど吹き飛んだ。

「大丈夫ですか!?」

思わず声をかけてしまう。

「心配するな、これしきのことでは死なん」

確かに先生は、何事もなかったかのように立ち上がった。ただ、額から血が流れ落ちている。

「ほう、少しはやるようだな。その剣ごとへし折ってやるつもりだったが……」

見た目は高校2年生の少女だが、その力は尋常ではない。これが限界を知らないゾンビの力だろうか。しかし、それほどの力で蹴ったにもかかわらず、蹴った本人の足には特に異常は見られなかった。

「死体を魔力で強化しているだけではないな。折れた骨や断裂した筋肉を瞬時に回復しながら戦っているのか」

圧倒的不利に見えるが、先生は相手を冷静に分析している。

「ふふん、さすがは”炎の剣”といったところかな」

そう言いながら、そいつは再び突進してきた。そのスピードはやはり人間離れしていて、一瞬のうちに先生との間合いを詰める。そして、目にもとまらぬ速さで拳を放つ。先生はそれをかろうじてかわしたが、かすめただけで頬や首筋に裂傷を負ってしまった。さらにそいつは、回し蹴りのような動作で後ろ回し蹴りを放ってきた。

「ぐっ!!」

先生はその攻撃を剣で受けたものの、勢いを殺しきれずに吹っ飛ばされた。そのまま地面に倒れこむ。

「あははは! これが、私の作品の力だ!! ただの人間が、私に勝てると思うなよ!」

高らかに笑ったあと、そいつはゆっくりと先生に歩み寄っていった。

「言いたいことはそれだけか?」

先生は立ち上がると、再び剣を構え、そしてそれを投げつけた。だが佐々木の姿をしたそいつは、それを簡単に払ってしまう。

「やけにでもなったか……ん!?」

そいつの注意が剣に向かった一瞬の間に、先生は銃を抜いていた。ベレッタM93R、対テロリズム用マシンピストルだ。

「そんなもので、私を倒せると本気で思っているのか?」

そいつは鼻で笑うと、先生に向かって走り出した。

「……」

先生は何も言わず、引き金を引いた。乾いた音が響くと同時に、銃弾が発射される。

「何!?」

3発立て続けに発射された銃弾は、驚いたことに、そいつの体に穴をあけていた。

「ただの拳銃が、私の体を傷つけただと!?」

「アーマーピアシング弾だ。生身の人間だと、弾が貫通して通り抜けてしまい、逆に殺傷力は下がるんだがな。お前にはちょうどよかったようだ」

「おのれ……、だが、こんな小さな穴をあけたところで……!?」

自分の傷口に手を当てたそいつの、怒りの形相は一瞬にして驚きの表情に変わった。

「その銃弾は聖別されている。お前の魔力では傷口をふさぐことは出来まい。さあ、終わりにするぞ」

先生はそういうと、胸ポケットから十字架を取り出し、高らかに聖句を唱えた。

「天軍の栄えある総帥、大天使聖ミカエルよ、

かつて悪魔の大軍が全能なる天主に反きし時、御身は『たれか天主にしくものあらん』と叫び、

あまたの天使を率いてかれらを地獄の淵に追い落とし給えり。

故に我らは御身をその保護者となし、守護者と崇め奉る。

願わくは霊戦に当りてわれらを助け、悪魔を退け給え。

われらをして御身にならいて、常に天主に忠実ならしめ、その御旨を尊み、その御戒めを守るを得しめ給え。

かくてわれら相共に天国において、天主の御栄えを仰ぐに至らんことを。

御身の御取次によりて天主に願い奉る。アーメン」

「うわあああっ!!」

先生の祈りの言葉が終わると同時に、そいつは悲鳴を上げた。まるで体の内側から炎で焼かれているかのように、全身が激しく燃え上がったのだ。そいつは必死に、先ほどの銃弾の痕に指を突っ込み、自ら傷口を広げた。おそらく、銃弾を取り出そうとしているのだろう。だが、そこから激しい青白い炎が噴き出してきた。

あれはたしか、邪悪な魔力を燃やす神の炎、ウリエル。拓海のときは魔力だけを燃やし、後に体が残った。しかし今回は、佐々木の姿をしたそいつの体は黒焦げになり、ぼろ雑巾のように地面に崩れ落ちると、そいつは跡形もなく消え去った。おそらく、佐々木の体が魔力とほとんど一体化していたのだろう。

「先生!」

戦いが終わると、先生はその場に膝をついた。僕は駆け寄ると、声をかけた。

「大丈夫ですか? しっかりして下さい」

「やれやれ、骨をだいぶやられたようだ。しばらくは動けそうにないな」

先生は苦笑いを浮かべながら言った。

「先生のおかげで拓海の仇が取れました」

「そうか、だが、この数日の間に起きたことはもう忘れろ。日常の世界に帰るんだ」

「そんな、忘れろって言われたって……」

「難しいか。だがな、秋川、これを見ろ」

そういうと先生は手を広げて見せた。そこには何もない……、いや、青白い炎が揺らめいている。その炎を見ていると、なんだか頭がくらくらして……。

「二度とこの世界に関わるんじゃないぞ」

遠くで先生の声が聞こえた気がして、僕は意識が遠くなった。(次回、エピローグ)

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