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パクリなし
ご本人様には関係ありません
病気表現あり
バッドエンドです
ちょっと書き方変えました。
朝。
目が覚めたとき、最初に思ったのは
「……今日、何曜日だっけ」
だった。
枕元のスマホを見て、時間と曜日を確認する。
平日。
学校がある日だ。
「……よし」
布団から起き上がる。
少しだけ眠気は残ってるけど、
起きれないほどじゃない。
顔を洗って、制服に着替える。
鏡を見て、軽く髪を整える。
特に何も変わらない、自分の顔。
「行くか」
家を出る。
外は、ちょっとだけひんやりしてる。
でも、歩けばちょうどよくなるくらい。
通学路を歩いていると、
前の方に見覚えのある後ろ姿があった。
「ドズルさん」
声をかけると、振り返る。
「あ、おんりー。おはよう」
相変わらず、優しい声。
「おはようございます」
そのまま並んで歩く。
「今日は眠くない?」
「まあ、普通です」
「そっか。僕ちょっと眠くてさ」
そう言って、軽く笑う。
そんなやり取りをしてると、
後ろからだるそうな声が聞こえる。
「おはよ〜……」
振り返ると、ぼんさん。
「ぼんさん、また眠そうですね」
「だって眠いもんは眠いんだよ……」
目を半分閉じたまま歩いてる。
「転けますよ」
「大丈夫大丈夫……たぶん」
絶対大丈夫じゃないやつでしょ。
まぁ、転けたとしても自己責任だからいいや。
少し進むと、
後ろから元気な声が飛んでくる。
「おー!みんなおるやん!」
「おらふくん」
「おはよーさん!」
元気すぎるくらい元気。
朝からテンション変わらないのすごいと思う。
「今日なんかあるっけ?」
「えーっとな、テスト返ってくるで」
「うわ」
ぼんさんが一番に反応する。
「終わった……」
「毎回言ってない?」
ドズルさんが苦笑いしながら言う。
「毎回終わってるんだよ……」
そんな話してると、
横からひょこっとMENが顔出す。
「おはよー」
気づかなかったから少し驚く。
「MEN、いつからいたの」
「さっきからいたけど気づいてなかっただけ」
「うん、気づかなかった」
「ひどくない?」
ちょっと拗ねた顔する。
でもすぐ笑う。
こうやって、五人揃う。
それが当たり前の日常。
学校に着く。
「今日も一日頑張ろ」
ドズルさんが言う。
「頑張る気はあんまないけどな」
ぼんさんがそう即答する。
「いや頑張りましょーよ!ね?」
おらふくんが笑いながら言う。
「とりあえず行くか」
MENの言葉で教室に入る。
席に座って、カバンを置く。
「おんりー、ノート見せて」
「いいけど」
MENにノート渡す。
「助かる〜」
「ちゃんと返してよ」
「たぶん」
「たぶんじゃだめじゃん」
軽く笑う。
チャイムが鳴る。
授業が始まる。
黒板の文字を写して、話を聞く。
たまにぼーっとするけど、
ちゃんと授業の内容は頭に入れながら。
「おんりー」
先生に呼ばれる。
「はい」
「ここ答えてみて」
問題を見る。
「……こうです」
「正解」
「よし」
小さく息を吐く。
後ろからぼんさんの小さい声。
「ナイスー」
絶対当てられなくてほっとしてるでしょ。
心の中でツッコミを入れる。
休み時間。
「移動教室だっけ」
MENに聞くと
「そうだな」
と返ってくる。
立ち上がって、教科書持つ。
廊下を歩いていると
おらふくんが前で何か話してるのが見えた。
「昨日さー!」
話が止まらない。
MENがちょっかいかけに向かう。
「それさー盛ってない?」
「盛ってへんわ!」
笑い声が混ざる。
ぼんさんは後ろでゆっくり歩いてる。
「ぼんさん遅い」
「急ぐ理由ないだろ?」
そうやって気だるげにニヤッと言い返してくる。
移動の時間は十分にある。
確かにそうだけど。
昼休み。
「屋上行く?」
「いいね」
五人で上に行く。
ドア開けると、風が吹く。
「うわ、気持ちいい」
「ちょっと風強いな」
座って、それぞれ昼ごはん出す。
「それうまそうじゃん」
「ちょっと交換する?」
「いいの?」
「いいよ」
パンをちょっとずつ分ける。
そんなことしながら、話す。
「今日帰りどうする?」
「どっか寄る?」
「ゲーセン行きたい」
「いいな」
「決まり!」
おらふくんがご飯を頬張りながら言う。
午後の授業は、ちょっと眠い。
「ぼんさん寝ないで」
「…起きてるって」
寝かけている。
「くふっ…」
MENが小声で笑ってる。
放課後。
「よし、行くか」
「行こ行こ」
五人で歩く。
ゲーセンに入る。
音がうるさい。
でも楽しい。
「これやろうぜ」
「負けねえからな」
適当に遊ぶ。
「おんりー強くない?」
「普通だよ?」
「いや普通じゃないって!」
笑う。
気づけば時間経ってる。
「そろそろ帰るか」
「だね」
外に出る。
空は少し暗くなってる。
「また明日な」
「おつかれー」
それぞれ別れる。
家に帰る。
特に何もない。
ただ一日が終わる。
でも。
五人で過ごした日常は、笑いが絶えない。
「……楽しかったな」
小さく呟く。
いつまでもこんな普通の日々を続けたいと
小さく願いながら布団に潜った。
体育の時間。
校庭に出た瞬間、少し冷たい空気を肌に感じる。
「今日なにやるんだっけ」
ぼんさんがだるそうに言う。
「タイム測定です、走るやつ」
おらふくんが元気に答える。
「えー、走るのか……」
「ぼんさん絶対言うと思った」
軽く笑う。
先生が前に立って、説明を始める。
「今日はタイムを測る。各自全力で走れ」
「全力かぁ……」
ぼんさんがため息をつく。
その横で、
俺は少しだけ口元を緩める。
走るのは、嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
風を切る感覚。
足が前に出ていく感覚。
何も考えずに、ただ前に進むあの時間。
「おんりー、やる気じゃん」
MENがニヤッとする。
「まあ」
「速そうやもんなぁ、おんりー」
おらふくんが言う。
「いや、普通だよ」
「いやいやいや絶対速いって!」
おらふくんが首をぶんぶんと振って否定する。
ドズルさんが優しく笑う。
「でも楽しそうだよね、走るの」
「うん、まあ」
その会話だけで、少し気分が上がる。
順番が回ってくる。
スタートラインに立つ。
足元の土の感触。
少し乾いていて、踏み込むと軽く沈む。
深く息を吸う。
「位置について」
周りの音が、少し遠くなる。
「よーい」
前だけを見る。
「スタート!」
踏み込む。
一歩目。
二歩目。
三歩目。
一気に加速する。
風が、顔に当たる。
(いいな)
空気を切る音がする。
耳元を抜けていく。
足が自然と前に出る。
考えなくても、体が動く。
周りの景色が流れていく。
ただ、前へ。
それだけ。
ゴールラインが近づく。
最後に少しだけ踏み込む。
ゴール。
「はっ……」
息を吐く。
でも、きつさよりも先に気持ちよさが残る。
「おー!」
後ろから声が飛ぶ。
「おんりー速くね!?」
MENが言う。
「今の結構よかったんじゃない?」
ドズルさんも笑ってる。
「やっぱ速いやん!」
おらふくんが近づいてくる。
「いや、普通だよ」
「いやいやいや!」
ぼんさんも歩いてきながら言う。
「普通であれはないだろ……」
「ぼんさんと比べないで」
「ひどくない?」
笑いが起きる。
「ぼんさんも走ってきなよ」
「いやだ」
「いやだて」
「逃げないで」
MENと俺でぼんさんに迫る。
「全力は出さない主義なんだよ……」
「ただのサボりだろ」
MENがツッコむ。
現実は無情にもぼんさんの番になる。
「いってらっしゃい」
「帰りたい…」
だるそうにスタートラインへ行く。
「ぼんさん頑張れー!」
おらふくんが大声で言う。
「応援いらねえ……」
スタート。
案の定、全力には見えない走り。
「遅くない?」
「遅いな」
「やる気出せー!」
笑いながら見てる。
ゴールして戻ってくる。
「ほらな、疲れるだけだろ……」
「出し切ったらスッキリするけど」
「出し切らないのがコツ」
「コツじゃない」
また笑いが起きる。
こうやって、順番に走って。
タイムを見て、
褒めたり、ちょけたりして。
「おらふくんも速くね?」
「やろ?ちょっと自信あるねん!」
「ドズルさんは走り方が力強くてすごい」
「ありがとう、でもまだまだかな」
そんなやり取りが続く。
特別なことは何もない。
ただ、走って、
笑って、
話して。
それだけの時間。
でも。
風を切るあの瞬間も、
みんなで笑うこの時間も、
全部がちゃんと楽しかった。
「……もう一回走りたいな」
小さく呟く。
「え、元気すぎない?」
MENが笑う。
「好きなんだよ」
それだけ言う。
そう、好きなんだ。
走るのも、だけど。
みんなでいるこの時間も。
本当に、それだけだった。
最近、ちょっとだけ眠い。
朝。
目は覚めてるのに、布団から出るまでに少し時間がかかる。
「……あと、ちょっと」
そう思って、数分。
結局ちゃんと起きるんだけど、
前より少しだけ、動き出しが遅い。
まあ。
よくあることだと思う。
学校に行く準備をして、外に出る。
空気が少し冷たい。
歩きながら、あくびが出る。
「…ねむ」
口に出すと、ちょっとだけ楽になる。
「おんりー、おはよう」
前からドズルさんが駆け寄ってくる。
「おはよ、ざいます」
「ちょっと眠そうだね」
「まあ、ちょっとだけ」
「僕もだよ」
優しく笑う。
そのあと、ぼんさんと合流。
「……ねみぃ…」
「ぼんさんもか」
「今日めっちゃ眠い……」
「それはいつもでしょ」
軽く笑う。
いつも通りの朝。
教室に着いて、席に座る。
授業が始まる。
黒板を見て、ノートを取る。
特に問題はない。
ただ、ちょっとだけ、ぼーっとする時間が増えた気がする。
でも。
(まあ、眠いだけか)
休み時間。
席から立ち上がる。
その時。
ぐらっ
一瞬だけ、体が揺れる。
「……ん?」
すぐに持ち直す。
急に立ったことでの立ちくらみだろう。
少し驚いた。
「おんりー?」
「なんでもないよ」
軽く返す。
「ちょっと眠いだけ」
廊下を歩く。
人を避けながら、普通に進む。
でも。
ほんの小さな段差で、
足が引っかかる。
「……っ」
前につんのめる。
ギリ転ばない。
一歩踏み出して、体勢を戻す。
「危な」
後ろからMENの声。
「大丈夫?」
「大丈夫」
少しだけ苦笑いする。
「最近ちょっと多くない?」
「そう?」
「さっきもなんか揺れてたし」
「立ちくらみだよ」
そう言って流す。
実際、大したことじゃない。
転けてないし。
痛くもない。
昼休み。
屋上でパンを食べる。
「今日もあったかいな」
「眠くなるわ……」
ぼんさんが言う。
「寝るなよ」
「寝ない……たぶん」
絶対寝るじゃん。
笑いながら、パンをかじる。
いつも通りの味。
特に変わらない。
ただ。
(……なんか、眠いな)
それだけ思う。
午後の授業。
少しだけ、まぶたが重い。
でも、起きていられる。
問題なく受けられる。
放課後。
五人で帰る。
「今日どうする?」
「帰るかー」
「寄る元気ないわ……」
ぼんさんが言う。
「ぼんさんいつもないじゃん」
「でも着いたら元気になるよね」
「今日は特にない……」
笑いながら歩く。
その途中。
また、小さな段差。
今度は気をつけて踏む。
……つもりだった。
コツン
つま先が当たる。
「……あ」
少しだけバランスを崩す。
でも、また持ち直す。
「おんりー今日多いな」
MENが言う。
「なんかね」
「3回目じゃね?」
「たまたまだよ」
そう言って、軽く流す。
本当に、それくらいのこと。
「ちゃんと前見ろよ」
「見てるけど?」
「見てない人の言い方」
おらふくんが笑う。
「ほんとに気をつけて」
「大丈夫」
そう答える。
本当に、大丈夫だと思ってる。
帰り道。
空は少し暗くなり始めてる。
星が見えた。
「じゃあな」
「また明日」
別れて、家に向かう。
歩きながら、少しだけあくびが出る。
「……眠いな」
それだけ呟く。
でも昼よりはよっぽど元気。
なんなら、今は転ぶ気配すらない。
理由なんて考えない。
ただの疲れだった。
そういうことにしておく。
放課後。
いつも通り、五人で帰っていた。
「今日さー、あのゲームで」
おらふくんが何か話してる。
「それ昨日も言ってた」
MENがすぐにツッコむ。
「え、そうやったっけ?」
「言ってた言ってた」
そんなやり取りを聞きながら、前を歩く。
特に何も変わらない、いつもの帰り道。
そのはずだった。
ほんの少しの段差。
さっきも気をつけたはずの場所。
「……っ」
足が、引っかかる。
バランスを崩す。
(あ、やば)
踏み出そうとした足が、
思ったより出ない。
そのまま。
ドンッ
強く地面に倒れ込む。
「っ……」
手をついた衝撃が、じんと腕に残る。
一瞬、音が遠くなる。
「おんりー!?」
ドズルさんの声。
「おい、大丈夫か?」
ぼんさんが近づいてくる。
でも。
「……あっは」
笑う。
「ごめん……派手にやった」
顔を上げる。
みんながこっち見てる。
「珍しー」
MENが少し笑う。
「ほんとに、最近多いよな?」
おらふくんも言う。
「ちょっとつまずいただけだって」
そう言いながら、
体を起こそうとする。
手に力を入れる。
起き上がる。
そこまでは、普通にできた。
立とうとする。
足に力を込める。
……入らない。
「……え」
もう一度、踏ん張る。
でも力が、入らない。
「……あれ」
頭の中が一瞬、空白になる。
「おんりー?」
ドズルさんの声が近くなる。
「……ちょっと待って」
自分でも、何を待つのかわからない。
もう一度、立とうとする。
膝に力を入れる。
ぐらっ
支えきれない。
そのまま、また座り込む。
「え?」
自分で声が出る。
「なにそれ」
MENの笑いが、少しだけ弱くなる。
「……おい、マジ?」
ぼんさんの声が変わる。
「おんりー、大丈夫?」
ドズルさんがしゃがみ込む。
「……いや、なんか」
うまく言葉が出ない。
「力入んない」
その言葉に、空気が変わる。
「手貸せ」
ぼんさんが手を差し出す。
「ほら、引っ張るから」
「……ん」
その手を掴む。
引っ張られる。
体は持ち上がる。
でも。
足が、ついてこない。
立った瞬間、
ぐらっ
そのまま、また崩れる。
「……っ」
座り込む。
「おい」
「おんりー?」
声が一気に近くなる。
「なんで?」
自分でもわからない。
さっきまで、普通に歩いてた。
走れてた。
なのに。
「…立て、ない?」
その時。
ズキッ
「……っ」
頭に、痛みが走る。
急に。
鋭く。
「っ……あ……」
思わず顔をしかめる。
視界が、少し揺れる。
「どうしたの!?」
ドズルさんの声。
「頭、いた……」
言い切る前に、
また痛みが走る。
ズキ、ズキ、と。
強くなる。
「おい、顔やばいぞ」
ぼんさんの声が遠く感じる。
視界の端が、暗くなる。
「……大丈——」
言おうとして言えなかった。
体が、傾く。
支えがなくなる。
「おんりー!!」
誰かの声。
そのまま。
意識が、落ちた。
最後に見えたのは、
少しだけ、滲んだ空だった。
意識が浮かび上がる。
最初に感じたのは、静けさだった。
……ここ、どこ?
目を開ける。
白い天井。
見慣れない光。
「……んん゛」
声が、少しだけ掠れる。
体を動かそうとする。
重い。
でも、動く。
「……ここは」
ぼんやりと周りを見る。
ベッド。
カーテン。
機械の音。
あ、病院だ。
そう理解した瞬間。
「おんりー!!」
大きな声がした。
顔を向ける。
ドズルさんがいた。
その後ろに、ぼんさん、おらふくん、MEN。
全員、近くにいる。
「ドズルさん」
「よかった……ほんとに」
ドズルさんの声が、少し震えてる。
ぼんさんは初めて見る表情だ。
怖がるように悲しげ。
目が、赤い。
「おんりー、大丈夫か?」
「…まあ?」
普通に答える。
おらふくんが、少し顔を近づける。
「びっくりした、ほんと……」
笑おうとしてるけど、うまく笑えてない。
MENも、少し後ろで黙ってる。
「えと…ごめん」
なんとなく言う。
「謝るなって」
ぼんさんがすぐに返す。
「こっちが焦っただけだから」
でも、その声も少しだけ硬い。
そこで。
コンコン、とノックの音。
「失礼します」
医師が入ってくる。
白衣。
落ち着いた表情。
どこか、言いづらそうな空気を纏っている。
「目が覚めたようで、よかったです」
「はい」
短く返す。
医師は少し間を置く。
「検査の結果について、お話してもいいでしょうか」
その一言で。
空気が、静まる。
「……お願いします」
ドズルさんが答える。
医師は、少しだけ視線を落としてから話し始める。
「おんりーさんの症状ですが……非常に珍しいものでして」
“珍しい”
その言葉が、やけに引っかかる。
「“星症”と呼ばれるものです」
「せいしょう?」
聞き返す。
聞いたことがない。
医師は頷く。
「はい。星の光が届いている時間帯にのみ、身体機能が安定する病気です」
一瞬。
誰も、何も言わなかった。
「……え?」
MENが、小さく声を出す。
「つまり……」
医師は続ける。
「星の光が届かない時間帯、日中などは、強い倦怠感や筋力低下が起きます」
頭の中で、言葉が繋がる。
朝の眠さ。
立てなかったこと。
さっきの、あの感じ。
「あぁ」
小さく、声が出た。
「…そういう」
妙に、納得する。
不思議なくらい。
「だからか」
全部、繋がる。
なんで昼に動けなかったのか。
「……おんりー?」
ドズルさんの声。
顔を向けると
みんな、こっちを見てる。
泣きそうに。
「え、…な…なに?」
「なに、じゃないだろ……」
ぼんさんの声が低い。
「今の、聞いたか?」
「聞いた、けど」
「いや……」
言葉に詰まっている。
おらふくんが、ぐっと拳を握る。
「なんなん、それ……」
「そんな……意味わからんよ……」
MENは、俯いたまま動かない。
ドズルさんは、
少しだけ目を伏せてから、医師に向く。
「……治るんですか」
静かな声だった。
でも。
その中に、はっきりとした願いがあった。
医師は、ほんの少しだけ言葉を選んでから
「……申し訳ありません」
頭を下げる。
「現在の医学では、治療法は確立されていません」
その言葉で。
空気が、止まる。
「……は?」
ぼんさんが、小さく漏らす。
「……ないって、どういう」
おらふくんの声が、震える。
「ずっと……このままってことですか」
ドズルさんの問い。
医師は、ゆっくり頷く。
「進行性でもあります」
その一言で。
誰も、言葉を失った。
重い空気。
でも。
「……そっか」
おんりーは、そう言った。
全員が、顔を上げる。
「まあ、納得はできる」
軽く息を吐く。
「なんか、変だとは思ってたし」
無理に明るくしてるわけでもない。
ただ、本当に。
“そういうものか”と受け入れている。
「……おんりー」
ドズルさんの声が、少しだけ苦しい。
「それでいいのかよ」
ぼんさんが言う。
「よくねえだろ」
「別に、いいとか悪いとかじゃないよ」
静かに返す。
「そういうもの」
本当、それだけ。
シンプルな答え。
その言葉が、
4人にとっては一番辛いものだった。
受け入れている本人と、
受け入れられない周り。
その差が、はっきりと見えていた。
窓の外は、まだ明るい。
星は、出ていない。
窓の外は、まだ明るかった。
白い光が、カーテンの隙間から差し込んでいる。
ベッドの上で、それをぼんやり眺める。
「……」
さっき聞いた話を、頭の中でなぞる。
星症。
星が出ている時だけ、体が安定する。
それ以外は、弱る。
シンプルだった。
「……なるほどな」
小さく呟く。
変に複雑じゃない分、納得しやすい。
朝の眠さも。
昼のだるさも。
立てなかったことも。
全部、説明がつく。
「なら」
視線を、窓の外に向ける。
「待てばいいだけか」
それだけの話。
難しく考える必要はない。
今は、昼。
だから動けない。
じゃあ、夜になればいい。
ドズルさんたちは、まだ部屋にいた。
でも、さっきより静かだった。
無理に話そうとしてる感じ。
「おんりー、水いる?」
「ん、いい」
短く返す。
ぼんさんが、少しだけこっちを見る。
何か言いたそうにしてるけど、言わない。
おらふくんも、落ち着かない様子で立ったり座ったりしてる。
MENは、ずっと黙ってる。
「……」
空気が重い。
けどおんりーは、
そこまで気にしていなかった。
視線は、外に向いたまま。
少しずつ、光が弱くなっていく。
夕方。
オレンジ色に変わる空。
「もうすぐか」
時間の感覚が、少しだけはっきりしてくる。
“夜を待つ”
そんなこと、今までしたことなかった。
でも。
今は、それが必要だと分かってる。
理由も、はっきりしてる。
だから。
焦る必要もない。ただ、待てばいい。
「おんりー」
ドズルさんの声。
「………ん?」
「大丈夫?」
少しだけ間を置く。
「大丈夫」
そのまま返す。
嘘じゃない。今は、本当に。
体は動かないけど、
頭は冷静だった。
むしろ。
妙に、落ち着いている。
「…そっ、か」
ドズルさんは、それ以上言わなかった。
また静かになる。
時間が、ゆっくり進む。
やがて。
空の色が、完全に変わる。
暗くなる。
最初に、一つ。
星が見えた。
「……」
それを見た瞬間。
胸の奥が、少しだけ軽くなる。
「、わ…」
小さく、息を吐く。
体に、少しだけ感覚が戻る。
指先に、力が入る。
ゆっくりと、手を握る。
「来た」
誰に言うでもなく、呟く。
その変化は、はっきりしていた。
昼とは違う。
確実に、違う。
「おんりー?」
ドズルさんの声。
「大丈夫」
今度は、さっきよりも自然に言えた。
ベッドに手をついて、体を起こす。
さっきより、軽い。
「……ほんとに」
ぼんさんが、呟く。
「夜だけ……」
「そうみたい」
それだけ答える。
不思議と、怖くはなかった。
ただ。
“そういうものだ”と、理解しただけ。
窓の外。
星が、少しずつ増えていく。
その一つ一つが、
自分の体を動かしているみたいに見えた。
「……変なの」
小さく笑う。
でも、その心は落ち着いていた。
次の日の夜。
昨日よりも、星がはっきり見えていた。
病室の窓から見上げる。
小さな光が、いくつも並んでいる。
「……」
体は、問題なく動く。
昼とは違う。
昨日と同じ。
ベッドから降りる。
足に力が入るのを、確かめるみたいに一歩踏み出す。
「やっぱり」
小さく呟く。
ドアの方を見る。
「……少し、出よっかな」
誰に言うでもなく、そう決める。
廊下は静かだった。
夜だから、人も少ない。
足音だけが響く。
歩きながら、考える。
星症。
進行性。
治療法はない。
言われたことは、それだけ。
一番大事なことは、聞いていない。
(…まあ、あれはきっと)
足を止める。
ちょうど、診察室の前だった。
灯りがついている。
まだ、いるらしい。
ノックをする。
「失礼します」
中に入る。
医師が顔を上げる。
「あれ、おんりーさん」
少し驚いた顔。
「どうしましたか?」
「ちょっと、聞きたいことがあって」
そのまま、中に入る。
椅子を勧められるけど、座らない。
立ったまま、医師を見る。
「……俺」
一度だけ、言葉を区切る。
でも、迷いはなかった。
「死にますか」
思ったよりも冷静で静かな声が出た。
真っ直ぐに聞きたいことを聞いた。
医師が、固まった。
「……え」
一瞬、言葉が出てこない。
「この病気で」
淡々と続ける。
「最終的に、どうなるのか」
逃げるつもりはない。
必要な情報を、確認してるだけ。
「……」
医師は、すぐに答えなかった。
視線が少しだけ揺れる。
言いづらいのが、分かる。
「いいですから」
おんりーが言う。
「はっきりで」
逃げ道を、塞ぐ。
医師は、ゆっくりと息を吐いた。
「進行すると」
言葉を選びながら、話す。
「日中の活動は、ほぼ不可能になります」
「……」
「やがて、夜間でも体力の維持が難しくなり……」
少しだけ、間が空く。
「生命活動にも影響が出ます」
遠回しな言い方。けれど十分。
「そう、ですか」
それだけ返す。
驚きは、なかった。怖さも、そこまでない。
ただ。
そういうものかと、理解しただけ。
きっとまだ実感がないから。
「……すみません」
医師が、小さく頭を下げる。
「もっと早く——」
「いいですよ」
遮る。
「別に」
責める理由はない。
そういう病気なだけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
「ありがとうございました」
軽く言って、背を向ける。
ドアに手をかける。
少しだけ止まる。
でも。
それ以上は何も言わずに、部屋を出る。
廊下はまた静けさに戻る。
足音だけが響く。
(死ぬのか)
頭の中で、言葉をなぞる。
実感は、まだ薄い。
遠い話みたいだった。
病室に戻る。
ドアを開ける。
みんな、いた。
ドズルさんも、ぼんさんも、おらふくんも、MENも。
「おんりー?」
ドズルさんが振り返る。
「どこ行ってたの?」
「ちょっと」
短く答える。
ベッドに戻る。
何も言わない。
聞かれない限り、言う必要もないと思った。
「……」
窓の外を見る。
星が、変わらず光っている。
手を伸ばせば、動く体。
でも。
その先は、決まってる。
「…まあ、いいか」
小さく呟く。
受け入れるには、十分すぎる情報だった。
それは、ゆっくりだった。
最初は、夜だけは動けていた。
歩けた。
話せた。
笑えた。
「……あれ」
ある日、少しだけ違和感があった。
夜なのに。
体が、重い。
立ち上がるのに時間がかかる。
(うーん…疲れてる…?)
そう思って、流した。
次の日。
もっと、重くなっていた。
その次の日。
さらに。
「……」
ベッドの上で、天井を見る。
夜。
星は、出ている。
でも。
「……動かないな」
腕を持ち上げようとする。
ゆっくりなら、少しだけ動く。
前みたいに、自由には動かない。
足も、同じ。
立とうとすれば、できる。
でも、すぐに力が抜ける。
結局ベッドに戻る。
「そっか」
小さく呟く。
進行性と言っていた。
その言葉を、思い出す。
「ちゃんと、進んでるな」
不思議と、冷静だった。
怖くないわけじゃない。
(まあ、そうなるよね)
納得の方が、強かった。
ドアが開く。
「おんりー」
ドズルさん。
その後ろに、ぼんさん、おらふくん、MEN。
「今日どう?」
「動きにくい」
隠さずに言う。
その一言で空気が変わる。
「…え」
MENが小さく声を出す。
「どの、くらい?」
ドズルさんの声は、落ち着いてるけど、
ほんの少しだけ、揺れている。
「ほとんど、ベッドかも」
短く答える。
「そっか、…」
それ以上、言葉が続かない。
ぼんさんが、視線を逸らす。
おらふくんは、じっとこっちを見てる。
何か言おうとして言えない。
「……」
少しだけ、間が空く。
「ちょっと怖いかも」
ぽつりと、言う。
自分でも、少し意外だった。
それでも嘘じゃない。
「このまま、動けなくなるの」
軽く笑う。
「さすがに、ちょっとは怖い」
その言葉で。
おらふくんの顔が、ぐっと歪む。
「……っ」
唇を、強く噛み締める。
「……うぅ……っ」
声が漏れる。
「おらふくん?」
顔を上げた瞬間。
おらふくんの頬に涙が溢れている。
「やめてよ……っ」
必死に抑えようとしてるのに、
止まらない。
「そんな……軽く言わんといてよ……」
声が、震える。
「……ごめん」
苦笑いしながら言う。
その様子を見て。
ぼんさんが、ぐっと拳を握る。
「無理だ」
低い声。
「そんなの、無理に決まってる」
MENも、顔を伏せる。
「なんでだよ」
ドズルさんは、何も言わない。
ただ、一歩近づく。
次の瞬間。
おらふくんが、ベッドに顔を埋めるように抱きついてきた。
「おんりー……っ!」
それをきっかけに
ぼんさんも、MENも、ドズルさんも。
全員が、近づいてきて。
「……っ」
誰も言葉にならないまま、
おんりーに触れる。
抱きつく。
「なんでだよ……」
「やだって……」
「……っ」
声が重なる。
泣いてる。
全員。
それを見て。
「……あっは」
少しだけ、笑う。
「なにそれ」
苦笑い。
「俺より泣いてるじゃん」
そう言いながら、
動かない腕を、ゆっくり動かす。
重い。
思ったより、動かない。
それでも。
少しだけ、持ち上げる。
おらふくんの頭に、触れる。
「よしよし」
軽く撫でる。
「大丈夫だから」
何が大丈夫なのか、自分でも分からない。
けどそう言うしかなかった。
「…うぅ〜、あぁあ〜……っ」
おらふくんの泣き声が、少しだけ強くなる。
ぼんさんも、顔を伏せたまま動かない。
MENは、肩を震わせてる。
ドズルさんは、
目を閉じて、静かに息を吐いた。
その中で。
俺だけが、少しだけ穏やかな顔をしていた。
「……触れられるうちに、触っといて」
冗談みたいに言う。
でも誰も、笑えなかった。
静かな夜。
星は、変わらず光っていた。
ふと思いついて掠れた声で言う。
「屋上、行きたい」
一瞬の沈黙。
「……行こう」
誰も止めなかった。
体を起こす。
支えられて、立つ。
「…っ」
足が、頼りない。
一歩踏み出し、ふらつく。
「俺」
小さく零れる。
「こんなに弱かったっけ」
自分でも、信じられない。
歩くにしてはふわふわした足取り。
地面を踏んでる感覚が、薄い。
それでも、前に進む。
階段を上って、
扉の前に立つ。
開けた瞬間。
——ぶわっ
風が、舞い込む。
夜の空気。
そのまま、真っ直ぐ進む。
ふらつきながら。
迷いなく。手すりまで。
「……っ」
倒れ込むように、体を預ける。
浅く、息をする。
「は……っ」
呼吸が、うまく整わない。
ばっと、顔を上げる。
星が広がっている。
「……」
腕を上げる。
震える。
それでも。
空に向かって、伸ばす。
恋焦がれるみたいに。
少しでも届くように、身を乗り出す。
「あぁ…」
小さく声を出す
「…星に、なりたい」
ぽつりと。
「少しでも、輝きたい」
静かな空に思ったよりも響く。
後ろに、みんながいる。
「死ぬの」
少しだけ笑う。
「思ったより、怖くないかも」
少しでも、心配をかけないように。
振り返る。
「みんなといたから」
その言葉に、空気が揺れたような気がする。
「だからさ」
息を整える。
「最後のお願い」
全員が、固まる。
「忘れて」
静かに言う。
「俺のこと、忘れてほしい」
「無理!!」
おらふくんが叫ぶ。
「絶対嫌や!!」
「できるわけねえだろ!!」
ぼんさん。
「そんなの、無理だ……」
MEN。
ドズルさんが、一歩前に出る。
「…おんりー」
「死んでもいいの?」
その問いが、届いた一瞬。
空気が止まる。
「…いいわけ、ないじゃん」
声が、変わる。
抑えていたものが、一気に崩れる感覚。
「いいわけ、ないじゃん……!」
涙が、ぽろぽろ落ちる。
「死にたいわけ、ない」
「死にたいって思うわけ、ない……!」
声が震える。
「走りたい」
吐き出してしまう。
「歩きたい」
「普通に学校行きたい」
「みんなと、話したい」
止めれない。
「もっと一緒にいたい」
「もっと遊びたい」
「くだらないことで笑いたい」
息が乱れる。
「……っ」
それでも、続ける。
「もっと早く分かってたら……!」
声が強くなる。
「遊びに行った時、もっとちゃんとしてた……!」
「もっと大切にした……っ!」
「もっと……!」
言葉が崩れる。
「いろんなとこ、行きたかった……!」
「全部、やりたかった……!」
涙が止まらない。
「後悔、ばっかだよ……!」
吐き捨てるように。
「なんで……!」
拳に力が入らない。
それでも。
「怖いよ!」
叫ぶ。
「怖い!」
「めっちゃ怖いに決まってるじゃん!!」
声が夜に響く。
息が上がる。
手すりに体を預けたまま、
呼吸を整えようとする。
「…でも」
途切れながら、続ける。
「最後くらい」
少しだけ顔を上げる。
「みんなに、引きずってほしくない」
「俺のせいで、悲しむの……もう見たくない」
息を整える。
「笑顔で、終わりたい」
静かに言う。
「……ごめん」
あ、と思い誤魔化すようにくしゃっと笑う。
涙でぐしゃぐしゃのまま。
「面倒な俺で」
その一言に。
ドズルさんが、ゆっくり近づいてくる。
「ごめんね」
ぼんさんも、MENも、おらふくんも。
「ごめん」
重なる声。
「忘れない」
ドズルさんが続ける。
「忘れれない」
「でも」
少しだけ、優しく笑う。
「ちゃんと一緒にいるよ」
「最後まで」
おらふくんが、涙を拭きながら言う。
「いっぱい話そ」
ぼんさんも、小さく頷く。
「どうせなら、ずーっと居てやる」
MENも言う。
「うん、ずっといるから」
その言葉に。
俺は、少しだけ目を細めた。
「そっか」
小さく笑う。
「じゃあ最後は笑顔、それだけは約束」
そう言うとみんなは頷く。
すこし安心。
思った通り、みんなは忘れてくれないや。
だったら、最後まで付き合わす。
ずっと話の相手になってもらおう。
星は、変わらず光っている。
届かないまま。
次の日
病室。
窓の外は、夜。
星が、静かに光っている。
「でさー、それでぼんさんがさ」
「いや、それ俺悪くないだろ」
「いやいや、完全にぼんさんですって!」
おらふくんが笑う。
「いや違うけど!」
ぼんさんが反論する。
そのやり取りを見て、
「あはは」
思わず笑う。
声が出る。
ちゃんと、笑える。
「おんりーも絶対思ってるだろ!」
「いや、どうだろ」
「ほら見ろ!」
「いや肯定はしてない」
また笑いが起きる。
「ドズルさんはどう思う?」
「んー、ぼんさんかな」
「なんで!?」
「なんとなく」
「ひどくない?」
MENが大きく笑う。
「満場一致じゃん」
「納得いかねえ……」
ぼんさんがぶつぶつ言ってる。
その光景が、なんか懐かしい。
「変わんないな」
ぽつりと呟く。
「ん?」
ドズルさんがこっちを見る。
「いや、なんでもない」
少しだけ、目を逸らす。
本当は
“変わってない”んじゃなくて、
“変わらないようにしてくれてる”って分かってる。
今はそれでいい。
「おんりーさ」
MENが言う。
「なんか話したいことある?」
少し考える。
「じゃあ…」
口を開く。
「昔の話しよう」
「昔?」
「なんでもいいから」
「適当すぎない?」
「いいから」
少しだけ笑う。
「覚えてるやつ」
「じゃああれ!」
おらふくんがすぐに食いつく。
「初めて遊びに行った時!」
「あー、あったな」
ぼんさんも頷く。
「おんりーめっちゃ静かだったよな」
「今もだろ」
「いや今は普通に喋る」
「そうか?」
「そうだけど」
また笑いが起きる。
話が、どんどん続いていく。
昔のこと。
くだらないこと。
どうでもいいこと。
全部。
時間を忘れるくらい。
「楽しいな…」
小さく言う。
「今さら?」
ぼんさんが笑う。
「今さら」
「あはは」
また笑う。
こんな風に、
何も考えずに笑うのって、
いつぶりだろう。
「おんりー」
ドズルさんが呼ぶ。
「ん?」
「ありがとう」
少しだけ、間があく。
「なにが」
「一緒にいてくれて」
少しだけ、笑う。
「それ、こっちのセリフ」
軽く返す。
「俺の人生、ほとんどみんなだし」
「重くない?」
「事実」
「まあな」
MENが頷く。
おらふくんが、少しだけ目を擦る。
でも、何も言わない。
ぼんさんも、何も言わない。
ドズルさんは、優しく笑ってる。
「ねぇ」
ふと、口を開く。
「明日も来る?」
「当たり前だろ」
ぼんさんが即答する。
「来るに決まってるやろ」
おらふくんも言う。
「毎日来るし」
MENも続く。
ドズルさんが、静かに頷く。
「ずっといるよ」
その言葉に。
少しだけ、息が軽くなる。
「…そか」
小さく笑う。
「じゃあ、明日も話そう」
「いくらでも付き合う」
「ネタ考えといてよ?」
「任せろ」
また笑いが起きる。
病室の中。
変わらない声。
変わらない空気。
窓の外では。
星が、静かに光っている。
その下で。
「あははっ」
今日も、ちゃんと笑えていた。
次の日
ドアが開く音がして見ると
「おんりー」
ドズルさんの声。
「来たでー」
おらふくんがいつも通り入ってくる。
「今日はちょっと遅くなった」
ぼんさんが言う。
「いつもだけどな」
MENが軽く笑う。
「別にいいよ」
ベッドの上から答える。
「どうせ暇だし」
「ひでえな」
ぼんさんが苦笑する。
「でさ」
おらふくんが、少しだけ楽しそうに言う。
「これ、見てや」
小さな瓶を取り出す。
「……なにそれ」
「星の砂!」
「帰り道で見つけて」
さらっと言う。
「別に大したもんじゃないけどな」
ぼんさんが付け足す。
「なんとなくで」
MENも軽く言う。
ドズルさんは、何も言わずに少しだけ笑ってる。
「…ふーん?」
手を伸ばす。
ゆっくり、瓶を受け取る。
中を覗く。
小さな粒。
でも、よく見ると、
確かに星の形をしている。
「へえ」
少しだけ、目を細める。
「ほんとだ」
「だろ?」
「ちゃんと星でしょ」
おらふくんが嬉しそうに言う。
ベッドの横に、そっと置く。
寝転んだままでも見える位置に。
「そこに置くんだ」
「うん」
軽く答える。
視線は、もうそこに向いてる。
小さな瓶の中。
ぎゅっと詰まった、星。
「綺麗だね」
ぽつりと呟く。
「そんなに?」
ぼんさんが言う。
「うん」
短く答える。
それから。
ずっと視線が吸い寄せられる。
何も言わずに。
ただ、じっと。
「気に入った?」
ドズルさんが優しく聞いてくれる。
「まあ」
少しだけ笑う。
「結構」
また視線を戻す。
小さな星たち。
本物の空とは違う。
手の届く場所にある、星。
「…いいな、これ」
小さく呟く。
「やろ?」
おらふくんが笑う。
その後も、
みんなはいつも通り話してる。
でも俺はその間ずっと瓶の中の星を見ていた。
その日から数日。
昼。
部屋は、静かだった。
カーテンの隙間から、光が差し込んでいる。
「……」
天井を見上げる。
いつも通り。
誰もいない時間。
「……まだ来てないか」
小さく呟く。
みんなが来るのは、夜だ。
声も、少しだけ弱い。
けどそれだけのはずだった。
「……?」
ふと。
体が、重い。
いつもより明らかに。
「…なん、だ、これ」
腕を動かそうとする。
動かない。
昨日よりもさらに。
「……っ」
息が、浅くなる。
胸が、うまく動かない。
「待っ、て」
頭が、ぼんやりしてくる。
視界が、少しずつぼやける。
「……あ」
その瞬間。
理解した。
(……これ)
(死ぬ)
不思議と、はっきり分かった。
「…い…やだ」
小さく、声が漏れる。
「まだ…」
指を動かそうとする。
ほんの少ししか、動かない。
「…、…まって」
誰に言ってるのか分からない。
「嫌、だ」
涙が、滲む。
視界が、さらにぼやける。
「…ま、だ」
声が、震える。
「みんなと……」
息が、うまく吸えない。
「お別れ、してない」
涙が、こぼれる。
「やだ、ぁ」
「、ま、って」
必死に、願う。
「ほんとに……やだ」
視界が、滲んで、
ほとんど見えない。
それでも。
「……みんなが」
かすれた声。
「悲しむ」
それが、一番先に出た。
「やめ…っ」
その時。
体が、びくっと揺れる。
痙攣だ。
「……っ」
意識が、さらに遠くなる。
自分じゃ、どうにもできない。
ただ、流されるみたいに。
「まってよ」
最後の言葉みたいに、零れる。
その時。
ぼやけた視界の中で、
一つだけはっきりしたものがあった。
ベッドの横の小さな瓶。
星の砂。
「…、…ぁ」
光が、滲んで見える。
本物の星みたいに。
「…きれ、ぇ」
かすかに、そう思う。
伸ばそうとした手は途中で止まったまま。
視界が、暗くなる。
音が、遠くなる。
最後に見えたのは、
みんながくれた
小さな星だった。
ドズル視点
間に合わなかった。
その一言で、全部終わるはずなのに。
頭が、理解を拒否している。
「……ここ、です」
案内されて、足を踏み入れる。
白い部屋。
静かすぎる空間。
「……」
視界の奥にそれがある。
白い布。
その形。
分かってる。
分かってるのに、足が止まる。
「……おんりー」
呼ぶ。
返事がない。
当たり前のことなのに、
それがこんなにおかしいなんて思わなかった。
「……っ」
喉が、詰まる。
でも、前に進む。
一歩。
また一歩。
近づくたびに現実が濃くなる。
「……なんで」
言葉が、零れる。
「なんで、待ってくれなかったの」
分かってる。
待てるものじゃないって。
でも。
それでも。
「僕たち、約束したよね」
声が震える。
「ずっと一緒にいるって」
昨日、言ったばかりだ。
あの屋上で。
あんなに泣いてあんなに話して
それなのに。
「置いて、いかないでよ」
手が、震える。
布に触れることすら、怖い。
「こんなの……」
言葉にならない。
「こんなの、違うじゃん……」
こんな終わり方、誰も望んでない。
「…おんりー」
もう一度、呼ぶ。
分かってるのに。
それでも、呼ぶ。
「返事、してよ」
静寂。
何も、返ってこない。
「……」
その事実が、刺さる。
ああ
本当に
いないんだ。
「……っ」
息が崩れる。
「……僕は」
声が、震える。
「どうしたらいいのかな」
支えるはずだった。
最後まで、一緒にいるって言った。
泣かせないって
笑って終わらせるって
全部できなかった。
「守れなかった……」
ぽつりと、落ちる。
何一つ。
「……なんで」
繰り返す。
意味なんてないのに。
「なんで、僕たちなんだよ」
もっと他にいくらでもあったはずなのに。
「なんで、おんりーなんだよ」
声が、少し荒くなる。
こんなこと言うのは間違ってると分かるけど。
「なんで、おんりーなの……!」
優しくて
強くて
あんなに、ちゃんとしてて。
「……っ」
言葉が崩れる。
「……あんなに、生きたがってたのに」
前に聞いた声が、蘇る。
“怖い”
“生きてたい”
「……っ」
拳を握る。
でも、力が入らない。
「遅かった」
全部遅かった。
「…ごめん」
やっと出た言葉は、
それだけだった。
「ごめん、おんりー」
届かない謝罪。
もう、何も返ってこない相手に。
それでも。
言わずにはいられなかった。
白い布の向こう。
もう、笑わない顔がある。
それがどうしようもなく
現実だった。
「…ドズルさん、ですよね」
呼ばれて、顔を上げる。
医者が立っていた。
その表情でもう、何かを察してしまう。
「これを……」
差し出されたのは、一通の封筒。
「おんりーさんからです」
心臓が、強く打つ。
その瞬間、バッとみんなの視線が集まる。
「なぜ、いま?」
「最後……その」
言いにくそうに、目を伏せる。
「もし、一人だったら渡してほしいと」
その一言で、全部理解してしまう。
「……」
受け取る。
軽い。軽すぎる。
それなのに、手が震える。
「……開けるよ」
小さく言う。
三人も、何も言わずに頷く。
封を切る。紙を取り出す。
見えた字に、息が止まる。
「……っ」
ガタガタだった。
いつも学校で見ていたあの整った字じゃない。
力が入らない手で、無理やり書いたって分かる。
それだけで喉が詰まる。
それでも。
「読むよ、」
声に出すけど震えてる。
「みんなは俺の全部でした」
その一行で、もう、胸が締め付けられる。
「一緒にいる時間が当たり前すぎて、
ちゃんと大事にできてたか分からないけど
本当は、全部が特別でした」
「何気ない会話も、
くだらないことで笑った時間も全部、
ちゃんと覚えてます」
「……っ」
喉が詰まる。
少し、間が空く。
それでも、続ける。
「前言った通り、
もっと早くに死ぬことが知れたなら、
もっとみんなとちゃんと向き合っていたと思う」
「けど、みんながいたおかげで、
怖くなりすぎずにいれました。
本当にありがとう」
視界が滲む。
文字が、ぼやける。
「お願いがあります」
声が、崩れそうになる。
「俺がいなくても、
つまらないことで
笑って
泣いて
ふざけて
怒って
楽しい人生を送って欲しい」
「俺は途中退場だ」
その文字に息が詰まる。
「だけど、みんなの人生はこれからだから前を向いてほしいです」
涙が落ちる。
それでも読む。
「後悔は色々あるよ」
「でも一番は、」
一瞬、止まる。
「みんなを残していっちゃうこと」
声が震える。
「最後に、お別れできなかったこと」
もう、ほとんど声が出ない。
それでも。
「俺にとっての一番の星はみんなでした
強くて、明るくて
最高の輝きを見せてくれました」
「前のお願いを覚えてる?
忘れてほしいってやつ」
一瞬、息が止まる。
「やっぱり撤回」
涙が溢れる。
「忘れないでほしい
忘れてもいいけど、
でも俺がいたよってこと
また思い出してほしい
引きずりすぎないで笑っててほしい」
「ちゃんと食べて
ちゃんと寝て
ちゃんと生きてください」
「俺はそれだけで十分です」
呼吸が乱れる。
それでも、最後まで。
「でもやっぱり、生きたかったな」
声が、崩れる。
「もっと長く生きて
おじいちゃんになるまで生きて
みんなと笑っていたかった」
涙が止まらない。
「普通じゃなくていいから
みんなと居れたらよかったのに
なんで俺なんだろう」
「なんて、色々あるけど」
「みんながいてくれたおかげで幸せでした
きっと、誰よりも」
「この世界で一番、幸せな人生だったと胸を張って言えます」
声が震える。
「全部みんなのせいで
全部全部みんなのおかげ」
「きっとみんな泣いてるよね
約束破ったな?」
「でも、本当にありがとう」
「いっぱい、ありがとう」
「全部全部ありがとう」
涙で、文字が見えない。
それでも、最後。
「ずっとずっと大好きだよ」
少し、間が空く。
「……愛してる」
「最高の仲間へおんりーより」
読み終わる。
「……」
静寂。
次の瞬間。
「…ぅ…っ、あ……」
おらふくんが崩れる。
「は……っ……!」
ぼんさんが顔を覆う。
「ふざけんなよ……っ」
MENも、声を押し殺す。
「……ごめん」
ぽつりと、口から零れる。
「約束……守れなかった」
最後は笑って別れるって、言ったのに。
「ごめん、おんりー」
声が震える。
「でも……」
喉が詰まる。
「こっちこそありがとう」
涙が落ちる。
止まらない。
「最後にこんなの残していかないでよ…」
震える声。
「愛してるって……っ」
言葉が崩れる。
それでも。
「……僕らも、だよ」
「僕らも……愛してる」
涙でぐしゃぐしゃのまま、やっと、言えた。
遅すぎる言葉を、何度も、何度も、繰り返しながら。
どれくらい泣いていたのか分からない。
声も枯れて、息も乱れて
もう何も残っていないはずなのに
涙だけが、止まらなかった。
「…っ…」
誰も、もう言葉を出せない。
ただ同じ場所で
同じものを失ったまま
崩れたまま座っていた。
「……」
ふと顔を上げる。
つられて、みんなも空を見る。
夜だった。
星が、広がっている。
いつもと同じはずの空。
でも。
「…、…あ」
誰かが、声を漏らす。
一つだけやけに目を引く光。
強くて
はっきりしていて
今まで見たどの星よりも
綺麗で
まっすぐで
目が、離せない。
「……なんだよ」
ぼんさんが、かすれた声で言う。
「こんなの……」
おらふくんが涙を拭きながら見上げる。
「……っ」
言葉にならない。
でも全員が同じことを思っていた。
胸の奥が
少しだけ、あたたかくなる。
「…おんりー」
小さく、名前を呼ぶ。
返事はない。
それでも。
あの光は消えなかった。
静かに
でも確かに
そこにあって。
「……」
誰も言い切らないままただ見上げる。
あの星を。
きっと、あれは——
以上です!!
改めて500人フォロワーありがとうございます!!!!
これからも頑張ります!!
投稿は遅くなるけど、応援もよろしくお願いします!
よければハートコメント
よろしくお願いします!!
それでは、また
コメント
11件
読むの遅くなった…。 500人おめでとうございます! 読んでいるうちに自然と涙がこぼれました。ドラマとか見てもあんまり泣かない方なんですけど…書くのうますぎます。映像もないのにこんなに感情や動きが鮮明に伝わってくる…天才ですか??((はいそうです。 読者を惹き込む情景描写凄すぎて圧巻です。学ばせていただきます……。 どの作品も本当に大好きです!! こんな素敵な作品をありがとうございました!! ※長過ぎ。すんません。
500人おめでとうございます。 感動して泣きすぎて手が震えています。 お別れが出来ずに亡くなってしまうという悲しい物語でしたが、私たちの人生も、いつ終わるかわかりません。もしかしたら、明日かもしれない。そういう恐怖がありながらも、仲間と、何気ない日々を過ごしていることに、改めて有り難みを実感しました。ありがとうございます。1日1日を大切にして、生きていきたいと、思いました。 本当に、ありがとうございます。
500人おめでとうございます!読み進めるうちにほんと泣きそうになりました、、改めておめでとうございます!