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ホワイトデー当日。学園の廊下は、先月のバレンタインの「答え合わせ」を待つ期待感で、朝から落ち着かない空気に包まれていました。
しかし、この日の主役は滉斗ではなく、なぜか元貴でした。
「ねえねえ、元貴くん! 今日、滉斗くんから何か貰った?」
「絶対にお返しあるよね! 私たちのチョコ、あんなに綺麗に(そして冷たく)断られたのに、元貴くんのだけは特別なんだもん!」
休み時間、元貴の席の周りには、先月滉斗に潔く散った女子たちが「敵意」ではなく、もはや「崇拝」に近い眼差しで集まっていました。
「……あ、えっと、まだ何も……」
「いいなぁ、何だろうね? お菓子かな? アクセサリー? 滉斗くんなら、すっごくセンスいいの選びそう!」
楽しんでいるのか、羨んでいるのか。女子たちのパワーに圧倒されながら、元貴は顔を赤くして縮こまっていました。同時に、(ひろと、何を用意してくれたんだろう……)という期待で、心臓が小さく跳ねるのを感じていました。
放課後。夕食を終えて部屋に戻ると、そこには先に帰っていた滉斗が、窓際で何かを隠すように立っていました。
「……おかえり、もとき」
「ただいま、ひろと。……あのね、今日、クラスのみんなにね……」
「聞いたよ。廊下まで声が響いてたからな」
滉斗は少し照れくさそうに笑うと、ベッドの上に置いてあった綺麗なラッピングの袋を、元貴に差し出しました。
「……一ヶ月、待たせたな。これ、お返し」
袋の中に入っていたのは、元貴が「いつか食べてみたいね」と雑誌を見て言っていた有名店の焼き菓子。そしてもう一つ、柔らかな手触りの高級なイヤーマフでした。
「これ……!」
「お前、最近また音がしんどいって言ってただろ。ヘッドホンもいいけど、これなら軽くて、寮でリラックスしてる時も耳が痛くなりにくいと思って」
元貴がさっそくそれを装着してみると、驚くほど自然に、けれど確実に世界の「尖った音」が消え、滉斗の声だけが心地よく届きました。
「……すごい、ひろと。すっごく……静か。……あったかいし、ひろとの匂いがする」
「……お前が選んでくれたチョコのおかげで、俺も一ヶ月頑張れたから。その、お礼だ」
元貴は、耳元を包むイヤーマフの上から、自分の耳をそっと押さえました。
「ひろと。みんなが言ってた通り、ひろとのお返し、世界で一番センスがいいよ」
「……みんなの前では、絶対付けるなよ。俺がいないところでそんな可愛い顔されたら、困るから」
滉斗が少し意地悪く笑って元貴の髪を撫でると、元貴は幸せそうに目を細めました。
新しいイヤーマフと、大好きな甘いお菓子。
外の喧騒はもう聞こえない、二人だけの穏やかなホワイトデーの夜が、静かに流れていくのでした。
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