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#学園ファンタジー
成瀬りん
291
#家族
たつ
53
#日常
ももは
551
コメント
1件
うわあ、このエピソード、胸にぐっときました…。母・貴子さんの「世界の平和なんて知らないよ」ってセリフ、もう完全にやられました。背中を叩く豪快さとか「子供じゃねぇって」のやり取りの裏で、一人涙する母親の姿が切なくて。公太が少し逞しくなって帰ってきたのを見届ける、その感情の機微が本当に丁寧に描かれてて、家族っていいなあって思える話でした。お母さんの祈りがどうか届きますように。
特別訓練を終えた公太は、久しぶりに自宅の玄関を開けた。
懐かしい匂いが鼻をくすぐる。
「ただいま」
その声が響いた瞬間――
「お帰り、公太!」
台所から勢いよく飛び出してきたのは、母・貴子だった。
エプロン姿のまま、公太の前に立つ。
「ちゃんと飯食ってたのかい? 無事に帰ってきたってことは、訓練も終わったんだろ?」
「ああ……まぁな」
そう答えた瞬間――
ドンッ!
貴子の手が、公太の背中を思い切り叩いた。
「よし! よくやった!」
「いってぇ!?」
「情けない声出すんじゃないよ!」
変わらない母の豪快さに、公太は思わず苦笑する。
靴を脱ぎ、リビングへ向かう。
その背中を見ながら、貴子は夕飯の準備を続けた。
「で? どんな訓練だったんだい?」
「まぁ……色々あったよ」
「ふーん」
何気ない返事。
だが貴子は、そっと息子の横顔を見つめていた。
少し逞しくなった気がした。
昔は泣き虫だった。
夫を事故で亡くし、女手一つで育てた。
泣くたびに強くなれと言い聞かせた。
小学校から空手を習わせた。
だが成長するにつれ、公太は喧嘩ばかりするようになった。
学校からの呼び出しも何度あったかわからない。
それでも――
貴子は信じていた。
(この子はきっと、生き抜ける)
だからORVASからスカウトされた時も、涙を見せなかった。
「逃げずにやりな」
そう背中を押した。
だが本当は違った。
公太が家を出た夜。
誰もいない部屋で、仏壇の前に座り込んだ。
「お父さん……」
声が震えた。
「公太……大丈夫かな……」
堪えていた涙が溢れた。
誰にも見せない涙だった。
そして今――
その息子は無事に帰ってきた。
強くなって。
少しだけ優しくなって。
「お前、また基地に戻るんだろ?」
「まぁな」
短いやり取り。
貴子は少しだけ間を置いた。
そして――
「だったら行きな!」
再び背中を叩く。
「だから痛ぇって!」
「文句言うんじゃないよ!」
公太は呆れたように笑った。
その笑顔を見ながら、貴子は目を細める。
嬉しい。
だけど寂しい。
そんな複雑な感情が胸を締め付けていた。
荷造りを終えた公太が玄関へ向かう。
「じゃあ行ってくる」
「ああ。ちゃんと飯食えよ」
「子供じゃねぇって」
「親から見りゃ一生子供なんだよ」
そう言って笑う。
そして――
公太は家を出ていった。
扉が閉まる音が響く。
静寂。
貴子はゆっくりと仏壇の前へ座った。
誰もいない部屋。
そこで初めて、本音を漏らす。
「……世界の平和なんて知らないよ」
震える声。
「ただ、公太が無事なら、それでいいんだ」
目を閉じる。
「お願いだから……生きて帰っておくれ」
その願いは誰にも届かない。
それでも母は祈る。
ただ一人の息子のために――。
静かに流れた涙が、頬を伝い落ちた。