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「ウゥゥ……アック、アックはどこなのだ?」
「あ、あら? まさかもう回復を?」
ルシナさんにシーニャたちの看病を任せていた。
しかし――
「ウガゥ!」
アックの姿が見えない不安さのせいなのか、ルシナさんはシーニャに襲われてしまう。シーニャの力の強さに気づき、いったんその場を離れたルシナさんはシーニャの違和感に気づいた。
「……ゲホゲホッ。あの子は普通の獣人じゃない? もしかしてルティシアのライバル?」
ルシナさんに言われたとおり、ドワーフたちが集まっている場所に来てみた。そこには入り口で見かけた冒険者たちが生き生きと働いている光景が見られる。ルティが手伝いに行っているのは火口近くの工房らしい。そこにたどり着くと、何やら気合いの入った声が聞こえてきた。
「えいやぁぁぁぁ!!」
なるほど、どうやらここで違いないようだな。
「ルティ、お前何やってんだ……?」
「あっ! アック様っ!! 見てのとおりですよ~」
「見ての……あぁ」
ここが火口近くだけあって熱気もすごいが、火山岩の数も半端じゃないことに気づく。しかしその岩を、ルティはものの見事に拳一つで砕きまくっている。
まさかこれがお手伝い?
「いやぁ~、アック様が来るまで遊んでろって言われちゃいました~」
遊びなのか。遊びで火山岩の山を砕くとか相変わらずの力だな。
ルティは最近拳を使うことが少なかった。これがいい発散となるなら、彼女にとってはきっといいことに違いない。
「オマエ、魔石使いの男……か?」
「うえあっ!?」
足下から何やら聞きなれない声が響き、思わず変な声で驚いてしまった。足下を見ると、ドワーフのおっさんがおれを見上げている。
「ソレは、どこから手に入れるものだ?」
どうやら魔石のことを聞いているようで石をじっと睨んでいる。
「強い魔物を倒せばごくまれに出ますが……」
「……オマエ、手に入れた魔石を減らしたナ?」
ガチャのことはとっくにご存じのようで魔石が変化して減ったことにも気付いているようだ。
「石は磨いている……のか?」
「磨く?」
何やら一方的に聞いてきているが何となく逆らっては駄目な気がする。一方でルティは岩を殴りまくっているし、何がしたいのだろうか。
「ここではおれが出来ることがあると聞いてきた。石磨きがおれの仕事か?」
「……磨くのはルティシア。オマエは岩を砕け。オマエであれば、魔石を見つけられる」
「どういうことだ? 魔石がここにあるのか?」
魔石がロキュンテにあるなんてそれこそ寝耳に水だ。それすら知らずに町を召喚したのに、もしここで手に入れることが出来るとすれば今後の動きも変わってくるぞ。
「火口に棲む魔物、火山噴出時に熔かされる。マグマが冷え火山岩となり、体内の魔石も……」
「――! なるほど、おれなら魔石を見つけられる。そういうことか?」
「ルティシアでは、魔石を引き寄せられないハズ。オマエが魔石を見つけ、ルティシアが磨けば見つけられる」
その為のルティか。何も無ければわざわざルティを手伝わせることは無いからな。
「一応聞くが、これが依頼で合ってるか? ギルド依頼の」
しかし返事は無かった。一方的に言うだけ言って、ドワーフのおっさんは小屋に戻って行く。偽スキュラを封じたことで魔石の数も減っていたのは確かで、数を増やさなければとは思っていた。
それがまさかこんな所で得られる可能性があるとは。
新たな魔石を得ることが出来れば何か別なものを得られそうだ。そうと決まれば、ルティに代わっておれが岩を砕くしかない。
「ルティ! 交代だ。ルティはおれが選んだ石を磨くんだ!」
「はいっっ! お任せください!」
「ウニャッ! 任せるのだ!」
……ん?
何か、シーニャの声が。
「えぇぇっ!? どうしてシーニャがここにいるんですか!?」
「シーニャ、アックの女! アックが必要! アックの助けになるのだ! ウニャ」
フィーサの姿はここには無いようだが、シーニャの回復が早かったか。剣として保つのも何かの力が必要な上、人化も出来る彼女のことだ。フィーサに関しては慎重になるしかない。
「アック様ぁぁ~どうするんですか~?」
ルティはフィーサとも仲が悪いが、シーニャの登場で困惑している。それならこういう時は強引にでもやらせるしかない。
「……おれは岩を砕く。ルティはシーニャと協力して石を磨いてくれ」
「そ、それって連携しろってことですか?」
「同じ回復系なんだからイイものが生まれそうだろ。ケンカするなよ?」
「そんなぁ~」
よっぽど苦手のようだが、シーニャの方はやる気十分な表情を見せている。
「ウニャ! ドワーフに負けないのだ!」
これは――素直に楽しい。依頼ではあるが、こんな思いをするのはいつぶりだろうか。どうりでルティが楽しそうに破壊していたわけだ。もちろん彼女にはおれには無い拳スキルがある。
だからこそなのだが、スキルが無いおれでも面白いくらいに岩が砕けまくっている。砕いている最中でも気にしている魔石については今のところ発見されないままだ。とはいえ、火口に棲む魔物は確かに強敵そうで見つかりやすさはある。
そうだとしてもレアな魔物が火山で死ぬか甚だ疑問を持つ。
「こんのぉぉ~!」
「当たらないのだ! いい加減、大振りなことに気付けなのだ~」
「ムキ~!!」
かねての予想通り、退屈した彼女たちによる小さな戦いが起きている。素早さでシーニャに敵うはずのないルティの拳も空しく空振りを起こすばかり。彼女たちの小さな戦いを見ていても岩を砕き続けているわけだがさすがに飽きがきそうだ。
だがドワーフの言葉を信じれば、魔石はおれにしか反応しない。何ともいえないが縛りのある仕事だ。
「そういえばシーニャ。体は大丈夫か?」
「ウニャ! アックのおかげなのだ!」
「おれの? 何かしたかな……」
特別な手当てをした覚えは無い。せいぜいおんぶをしたくらいだ。
「アックとシーニャ、繋がっているのだ。アックが元気。シーニャも元気! ウニャッ」
「ど、どどど、どういう意味なんですか!? 聞き捨てならない話じゃないですか!」
「落ち着け、ルティ。聞き捨てていいぞ。シーニャとおれはテイムの関係だからな。そういう意味だろ」
「なるほど~……って! 落ち着けるはずがありませんよ!!」
シーニャとの繋がりという話は何となく合点がいく。砦で出会った薬師への警戒心はシーニャだけが持っていて、ルティたちにはそれが無かった。
共通点といえばルティのパンを口にしたという点だ。黒い気配を感じることが出来たのはパンの効果が大きそうな気もする。
「ルティの焦げ焦げパンなんだが、あれはおれ専用だったか?」
「いえ~、シーニャも食べましたから、彼女にもその効果がありますよ! 暗闇耐性効果ですっ」
「暗闇耐性? いや、違ったぞ。なぁ、シーニャ?」
「ウニャ……全然違ったのだ」
ルティ的にはその程度の効果を見込んでいたのか。
「あれれ? も、もしかして目分量を間違えた!? はぁぅぅ……」
「まぁ、おれもシーニャも得るものはあったから落ち込まなくてもいいぞ」
「料理の腕も磨かないと駄目ですね……やるぞぉぉ~!」
パンは料理じゃなくて錬金術で作ったのだろうが、ルティの加減がよく分からない。
「アック、魔石はまだなのだ?」
「やみくもに砕いてもそう簡単には行かないな」
「アック様。また燃やしてはどうですか? それか、岩に魔法をですね~」
「冷えて固まった火山岩をか? マグマよりも火力の強い魔法となるとな……」
とにかく手当たり次第に岩山の岩を拳だけで壊している。ただし粉々ではなく、魔石サイズくらいにまで砕いているだけだ。ルティの言うように冷え切った岩を燃やすのも手ではあるが、魔石が魔力に反応するとすれば試してもいいということに――
「今からおれは攻撃属性魔法を岩石に込める。その後、シーニャが回復魔法をかける。ルティは回復魔法に反応した岩石を判別してくれ」
「えぇっ!?」
「ふんふん……?」
「シーニャはおれから受け取った石に対し回復魔法を込めるんだ!」
「分かったのだ!」
シーニャは聞き分けがいい。問題はルティの気持ち次第になりそうだが。
「込めた石をルティに渡して欲しい。ルティはその石が魔石だと感じたら手元に残せばいい」
「アック様、わたしは魔法を使えませんです。魔石と分かるわけが~」
「ルティは回復魔道士なんだろ? 錬金術と同様に感覚を研ぎ澄ませばきっと出来るはずだ!」
「は、はいい~」
あるかどうかを試しても時間だけが過ぎ去るだけ。それなら手っ取り早く可能性にかけた方が効率がいいはず。
魔石を腹の中に含んだ強い魔物がマグマで熔け、石と化した。だが魔石自体はどこかに潜んでいる。そうなれば、魔力を込めて石に触れれば反応を示す。そもそも普通に回復魔法を石にかけたところで回復するわけがない。
しかし魔石であれば属性攻撃に反発した上、回復魔法に反応して熱を放出するはずだ。苦し紛れの手段ではあるが、シーニャが来たことで試すことが出来る。
「よし、やるか」
「ウニャッ!」
「が、頑張ります」
今までは山となった岩石を殴りまくるだけだった。そこに属性魔法を込めた拳を思いきり振り下ろす。拳の力で岩石が砕けるのは今までと同じだ。その中から手の平サイズの岩石の中でも、形が崩れていないものが出来始めた。
それに対し、シーニャが回復魔法を放つ。
「ウゥゥ~ニャッ!!」
シーニャが回復魔法を放っても砕けてしまう石がある。ルティはその中から、強そうな石を探さなければならない。
「ほへほえぇ~……」
「根性だぞ、ルティ!」