「はひ~はひぃ~……ア、アック様ぁ~……」
魔力をかなり消耗したシーニャとルティは、息を激しく上げている。彼女たちにおれも負けじと目の前に見える岩石を魔法で砕きまくってみたが、いい感触は得られていない。
こればかりはルティの勘次第になるが、どれくらいの魔石が集まるのか。
「魔石はどれくらい集まった?」
「ひぃふぅ~……」
「フニャ……眠くなったのだ」
「シーニャ、もう少しの辛抱だ」
指差しで自分が選んだ石を数えるくらいの魔石はあるようだが。
「ルティシア、魔石は見つけたのか?」と、せかせかと動くルティの背後にドワーフのおっさんが立って気にしている。ルティが選んだ石を手に取り、一つ一つ凝視して良さそうなものだけを手元に残しているようだ。
「……フン、ルティシアが見つけた魔石は全部で五つ。上手く使うのも、オマエ次第。ドワーフは、干渉しない。魔石はオマエたちの報酬として持って行け」
どうやらギルドの依頼では無くルシナさんの頼みで来たようで、ドワーフのおっさんはすぐにどこかへいなくなった。
「ルティ、よくやったな! 疲れただろ? 家に戻ってゆっくり……」
報酬を得られたことで一気に気が抜けたが彼女たちも同じのようで、へとへとな様子でおれを見つめる二人の姿があった。
「アック様、抱っこしてください~」
「シーニャもなのだ」
おれだって疲れがあるんだが、抱っこするしかないのか?
魔石はひとまず腰袋にまとめて入れ、後で部屋で確かめることにする。
「アック様の背中~背中~!」
「フニャン~浮いているみたいに気持ちいいのだ~」
魔力に余裕があるのでズルくさいが風魔法でシーニャを浮かせた。ルティの家まで誰かに見られるでも無かったので、これでいいことにする。
「おかえりなさい、アックさん! どうですか? 魔石は見つかりましたか?」
「いや、それよりも一連の流れ……あれはルシナさんの差し金ですよね?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。ルティシアとシーニャちゃんは部屋に寝かせて来ますから、お見せ頂いてもよろしいですか?」
「まぁ……」
ルシナさんはルティの母親ではあるが、ルティと違って心が読めない。決して悪い人では無いとはいえ、何とも油断が出来ない人だ。
「では、少しだけお一人でお待ちくださいね」
そう言うと、ルシナさんは力強く二人を抱きかかえ部屋に連れて行く。ルシナさんがいない間に、おれは見つけて来た魔石をテーブルの上に広げる。見た目は今までの魔石と何ら変わりはないように見えた。
ルティやフィーサの名前が一瞬魔石から見えるが、名前に触れても反応しない。シーニャの名前も見えているものの、残る二つの魔石は名前が確定していないのか無反応だ。
「う~ん……」
彼女たちの名前が出るということはガチャで彼女たち専用のアイテムが出ることが予想される。もしそうだとすれば、ガチャの精度はさらに上がることになるが――果たしてどうだろうか。
「どうしました?」
「うわっ!? あ、いえ……」
夢中になっていたせいか、ルシナさんがいたことに驚いてしまった。一体いつから戻って来ていたのか。
「なるほど、それが魔石ですか~。意外と小さいものなんですね」
「見たことは無かったんでしたっけ?」
「初めて見ますね。……ところで、魔法文字はアックさんだけが見えるんですか?」
「いえ……」
正直に答えるべきなのか。しかし隠しても仕方が無さそうだし、話してみるしかないな。
「全員では無いですが見えますよ」
「……なるほど」
ルシナさんは魔石を一つ一つ手に取って小刻みに頷いている。彼女は一体どこまでのことを分かっているのだろう。
「アックさん。これらの魔石は恐らく、彼女たち固有の魔石です。アイテムに限らず、スキルも与えられるんじゃないでしょうか?」
「でもガチャはおれしか……」
「そうです。アックさんのお力で味方である彼女たちに恩恵を与えられる魔石ではないかと」
一目見ただけでそこまで分かるものなのか?
「は、はぁ……」
「もちろん乱用は避けなければなりません」
「そういうことなら、以前よりガチャをしなくなったので問題は無いかと」
「問題大有りですっ!!」
ルシナさんが突然声を荒らげながらおれに詰めよる。無知なおれに対する怒りよりも、別の怒りがあるようだ。
「ど、どうしました?」
「アックさん! あなたはうちのルティシアを魔石ガチャで呼び出しました。それはあなたが求めたからです」
ルティの時は無意識だったうえ、ガチャ次第だった。彼女を狙って呼び出せたわけじゃないし、そこにおれの意思は無かったといえる。
「そんなつもりはなかったんですが……」
「とにかく! せっかくのスキルをお持ちなのですから、アックさんはガチャをするべきです! そうじゃないと今あるスキルで満足してしまいますよ!! よろしいですか!」
「は、はい。よろしいです……」
握りこぶしを作りながらルシナさんはおれに迫っている。この迫力には勝てそうにない。
「はい! それではあの子たちが目覚めるまで、本当のギルドに行って稼いで来てください。紹介は済んでいますから、ドワーフ族のギルドに顔が利きますよ」
「……それはどうも」
何から何までお見通しの母親のようだ。当分ルティのお母さんには敵いそうにない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!