この作品はいかがでしたか?
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「なおちゃん、このアパートね、ペット可なの。知ってた?」
お風呂の中。
チャプンッとお湯を跳ねさせて背後のなおちゃんを振り返ったら、髪から水を滴らせた色っぽい彼と目が合った。
途端、ドキッと心臓が跳ねて、顔がカッと熱くなったのが自分でも分かって。
それを察したみたいに、なおちゃんの大きくて節くれだった手が、私のあごをすくい上げて顔を上向かせるの。
「なお、ちゃ……っ?」
彼の名を呼ぼうとした口を、悪戯っ子をあやすみたいにふさがれて、まるで口を開けて?と言っているみたいに唇の間をなおちゃんの舌が左右に行き来する。
ついでのように前に伸ばされた手で胸のふくらみをやんわり揉まれて、先端をキュッとつままれて。
「は、ぁっ……。ん……っ」
その、くすぐったいようなざわざわとした刺激に思わず吐息を漏らしたら、即座に滑り込んできたなおちゃんの舌が我が物顔で口中を蠢いて、私の中の理性を根こそぎ掻っ攫って桃色に侵食していくの。
お風呂にはゴムを持ってきていなかったから、そのまま最後までは至らなかったけれど、湯船の中に立ち上がらされて、背後から太ももの隙間を割るようになおちゃんの硬いものが押し当てられた。
浴槽の縁をギュッと握らされて身体を固定された私の背中に、なおちゃんの熱い身体が密着する。
「ふ、……ぁっ」
なおちゃんが背後から私の気持ちいいところをこするみたいに両足の付け根の境目を割って屹立を前後にゆっくり動かすと、徐々にお湯だけじゃない湿り気がふたりを繋いでいやらしい音が浴室内に反響し始めた。
「んっ、それ、……ダメっ」
気持ち良すぎておかしくなりそう。
別に腰を抱えられて彼の方へ引き寄せられているわけでもないのに、自然お尻を突き出すみたいに腰が揺れる私に、なおちゃんの荒い吐息が追い討ちをかける。
なおちゃんが私の胸全体を手のひらで覆うように押しつぶしながら、時折敏感な頂のところをキュッとこねるみたいに押しつぶしてくる力加減とタイミングが、すごく絶妙で。
もっとって思うとスッと刺激がやむのが、焦らされているみたいでたまらないの。
「菜乃香、気持ち、い……?」
すぐ耳元で問いかけてくるなおちゃんの声も、艶めいていて色っぽい。
「ぅんっ」
小さくうなずきながらそう答えたら、なおちゃんが満足そうにフッと吐息をこぼしたのが分かった。
顔は見えないけれど、きっとなおちゃん、笑みを浮かべているよね?
なおちゃんはよく、自分がイケなくても、菜乃香が気持ちよければそれでいいんだみたいなことを言うの。
きっと今だってそう思ってるに違いないって直感した。
「なおちゃ……んっ、私、……もうっ」
胸と下腹部に加えられる刺激だけで絶頂を迎えてしまいそうで。
「ひ、とりだけでイクのは、イヤ……っ」
言った途端、足の間に挟まれたなおちゃんの分身が、一際硬度を増したのが分かった。
「菜乃香、ごめんっ。俺、お湯、汚しちゃうかもっ」
言われて、なおちゃんもイキそうなの?って思って、私は嬉しくてキュンとなる。
そっか。中に挿入れなくても、なおちゃんも一緒に気持ちよくなれるんだ。
そう思ったら幸せな気持ちに満たされて、身体がふわりと温かくなった。
「いい、よっ。……だからお願ぃ、一緒にっ」
胸に伸ばされたなおちゃんの手をギュッと握って懇願して――。
「菜乃香っ」
なおちゃんがそれに応えるみたいに甘く掠れた声で私の名前を呼んで……。私たちはふたり一緒に昇り詰めた。
***
「で、えっと……ペット可がどうのって話だったっけ?」
汚れてしまったお湯は落として、シャワーで身体をササッと流して。
私の頭を優しくタオルドライしてくれながら、なおちゃんが言った。
そうだ。
私、お風呂の中でその話をしようとしてたんだった。
ついなおちゃんとの行為に夢中になって、忘れてしまうところだった。
「うん。……あのね、このアパート、生き物OKなの。それでせっかくだし――」
うちの実家では、ずっと何某かの生き物を飼っていることを、なおちゃんは知っている。
かつては猫の他にハムスターやセキセイインコを飼っていたこともあるって話したことがあって。
その絡みで生き物は全般好きなのと言ったら、話が回り回ってなおちゃんと出会うきっかけになった公園緑地班で管理していた公園に捨て子されていた仔犬を、我が家で引き取ることになった。
それはまだ私が公園緑地にいた頃。
今から1半年くらい前の話。
最初は里親さんが見つかるまでのお預かりの予定が、気が付いたらうちの子でいっか、って家族の意見が一致していた感じ。
なおちゃんが白茶の仔犬を市役所に連れ帰ってくれたのを、私、ワクワクしながら見せてもらったんだっけ。
「あの時さ、菜乃香、膝丈しかないスカートなのに不用意にしゃがみ込んだだろ? 太ももがチラッと見えて、すごくドキッとさせられたのを覚えてる」
それがきっかけで、私のことを女性として意識するようになったのだとなおちゃんが話してくれたのは、付き合い始めて結構経ってからのことだった。
市内で花火大会がある日に拾った子だから、「ハナビ」という名前を付けて可愛がっている雑種の中型犬の女の子。
実家に、元々飼っていた猫の他に若い白茶のワンコが1匹加わったのは、そういう経緯から。
「ハナビを連れてくるの?」
聞かれて、私はゆるゆると首を横に振った。
なおちゃんと私を繋いでくれた子だから、思い入れは強いけれど、あの子はかれこれ1年半、両親にもすごく可愛がられている。
今更慣れた家から連れ出すのも可哀想って思った。
「じゃあ、チィコ?」
20歳を越えたオッドアイの白猫の名前をあげられて、「まさかっ」とそれにも首を横に振った。
「チィコ、下手に環境変えたら弱っちゃうよ」
猫の20歳越えはかなりのおばあちゃんだもの。
言ったら、「じゃあ、誰を?」って聞かれて、私は脱衣所に置いていたスマートフォンを手に取った。
「この子を……お迎えしたいなって思ってて……」
狸みたいなお顔をしたフェレットの写真を見せたら、なおちゃんが瞳を見開いた。
「何、これ?」
なおちゃんが不思議に思うのも無理はない。
フェレットは、犬猫に比べたら知名度の低いペットだもんね。
「フェレット。イタチ科の生き物だよ」
言ったら、なおちゃんが「イタチ……」って小さくつぶやいた。
***
お迎えするにあたって、私はフェレットを診られる動物病院をあちこち探して。
予防接種なら出来ますよ、と言ってくれた市内の小さな動物病院を、とりあえずの主治医に定めることにした。
それとは別に、副腎腫瘍の罹患率が高いことを知っていたから、もしもに備えて手術をしてもらえる病院を県外に見つけて。
「なおちゃん、この病院まで私でもたどり着けるかな?」
その病院のホームページをスマホで見せたら、なおちゃんが「今度一緒に行ってみようか」って言ってくれた。
診てくれる病院を確保してから、私は目星をつけていたセーブルカラーのパスバレーファームのフェレットの男の子を、空輸でお迎えした。
フェレ飼いの間ではパスっ子と呼ばれているファームの子。
フェレットを専門に扱っている小さなお店のホームページで見つけたその子に、一目惚れしていたの。
準備が整うまでよその子にならないでいてくれたことを、私、心の底から感謝した。
***
「名前は何にするの?」
空輸でやってきたその子を指定の場所までなおちゃんと一緒にお迎えに行って、アパートまで連れ帰ったらなおちゃんがそう聞いてきて。
手のひらより少し長いくらいの小さな赤ちゃんフェレットを、今まさに用意していたケージに移したばかり。
今日は疲れているだろうから、休ませてあげなくちゃ。
そう思いながらケージに布を被せて、「直太朗」って答えたら、なおちゃんがキョトンとした。
「なおちゃんの名前から一文字もらったの。――ダメ?」
なおちゃんの名前の「直行」から「直」の字をもらって「直太朗」。
「私たち、いつも一緒にいられるわけじゃないから、この子の名前になおちゃんの名前を1文字入れて……いつもそばにいられるような気分になれたらなって」
そう付け加えたら、なおちゃんにギュッと抱きしめられた。
「ごめん、菜乃香。寂しい思いをさせてるよな。直太朗、いいと思うよ」
強く抱きしめられながら、なおちゃんは私のことを妻にしてくれる気はないんだ、ってその言葉から改めて実感させられて……すごくすごく切なくなった。
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