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湊

1,222
(🐰視点)
エイキが取引先に行くと会社を出て行ってから、その日はそのまま、エイキと会うことはなかった。
なんとか仕事に集中しようと社内に戻って席に着くも、ふと気を抜くと、ナオが海でキスをしていた光景が、頭に浮かんでくる。
……自分でも、何がこんなにモヤモヤしているのか分からない。
でも、カイリュウとランがキスをしようとしていた、あの瞬間を見た時と、同じ感情を持っている気がしていた。
ショック、傷付いた、そんな類の感情。
なんで、こんな気持ちになってんやろって、自分に問いかける。
ナオが、俺しか見てへんなんて、言ったから。
……キス、したくせに、あんなのなんでもあらへんって、無かったことにしようとしたから。
あれ以来、俺と話す事を、避けるようになったから。
もし、ナオが、俺の事を好きなんやとしたら、……ずっと、俺の事を、見てくれてたんやって、気付いたから。
……ナオが、ナオやなくなったみたいで、寂しいから。
そう、理由をいくつも頭で考えて、
何度も何度も、自分の感情に名前を付けようとしても、分からへん。
だって、俺はずっと、カイリュウの事を想っていたから。
それは、今も、そうなはずやねん。
だけど、……なんで、どうして。
ナオの事が、どうしても、頭から離れなかった。
***
次の日の朝、重い足取りで海の家に向かう。
……ナオは、きっと今日も、俺を避けるんやろな。
結局ナオへのモヤモヤがずっと心にあるまま、店の中へと足を踏み入れた。
「……あれ、?」
誰の姿も見えずに少し焦っていると、カウンターの下からひょこっ、と頭が出てきたのが見えて、それがナオの後ろ姿だと分かったとき、ドキッと心臓が大きく音を立てた。
俺に気付いていない様子のナオは、そのままこっちに背を向けて作業を続けている。
店内を見渡しても、カイリュウとランの姿は無い。
2人はまだ出勤していないのか、今ここにナオしかいないと分かり、途端に汗が噴き出てくるのを感じた。
……声、掛けても、ええんかな。
心臓がバクバクとうるさく鳴る中、ゆっくりとカウンターに近付き、 口を開いた。
「っ……ナオ、…お、…おはよ…っ、」
緊張が伝わってしまうような声で話し掛けると、ナオが振り向く。
「っ…あ、セイちゃんっ、おはよう〜っ?」
俺の方を向いたナオは、おはよう、と言いながら、俺の目を見て、ニコッと笑った。
前みたいに、明るい声。
明るい、表情。
「……っ、え、?な、ナオちゃん…っ、?」
「ん、?……なぁに?せーちゃん、?」
動揺する俺に、首を傾げながら微笑みかけた。
久しぶりにナオと目が合って、いつもの笑顔を見せてくれて、…いつもの、優しい声で、俺の名前を呼んでくれた。
そんなナオの姿を見た瞬間から、重苦しかった心の中が、どんどんと嘘のように晴れていく。
「っ…、ううん、…ナオ…っ、おはよう、?」
「うん、おはよ?セイちゃん。」
「……っ、おはよう…っ、」
「え、?あははっ、も〜!何回言うねんっ、?笑」
ナオと話せたことが嬉しくて、思わずおはようと、何度も噛み締めるように言ってしまう。
軽く突っ込みを入れながら俺を見るナオの笑顔が、久しぶりに話せた嬉しさからか、冷たかった分の反動なのか、なんだかやたらに可愛くて、眩しく映った。
、、、嬉しい。
ナオと、普通に話せて、嬉しい…っ。
自分でもびっくりするほど、嬉しさが身体の中から込み上げてくる。
……でも、なんで急にまた、話してくれるようになったんやろ、、
そんなことを考えていると、ナオに声を掛けられた。
「セイちゃん、荷物は?」
「え、?あっ、あぁ、せやった…、今日はちょっと多いで、?」
「せやんなぁ、?ん〜、…あ、!カイリュウやっと来た〜!」
「…えっ、」
ナオがひらひらと手を振って、おはよ〜!と外に視線を向け、それを追うように振り向くと、カイリュウが店に入ってくるのが見えて、こっちに近づいてくる。
「おはようさん。…ん?セイト、今日は早いねんな、」
「え?俺、いつもこの時間に来てるやんけ、」
「カイリュウ、あんたが遅いねん!」
「え…?んなわけな…、っ、うわ、!ほんまやんけ…っ!は?なんでっ、?いつも通り来たつもりやってん、!」
「もう…っ、……今日ランちゃんがおらへんからって、やる気ないんとちゃうのぉ?」
「はぁ?おまっ、なんでそこでランが出てくんねん…っ、」
2人のやり取りを聞きながら、今日はランがいないという事を知って、何気なくそれを口にした。
「……今日、ランおらへんの?珍しいな。」
「おん、……なんか今日は、ダンサーの方の仕事あるらしいねん、」
何となく寂しそうなカイリュウの事を、なぜか可愛いと思った自分に、少し違和感を感じた。
いつもなら、こういう時、絶対ランに嫉妬心を向けてしまうのに。
今日はなぜか、可愛いなと思うだけで、そこまでの感情が向かなかったことが、自分でも不思議だった。
「…あ、でさぁカイリュウ、来て早々やけど、セイちゃんと荷物運んでくれへん、?」
「え?お前またどっか行くんちゃうやろな…?」
「行かへんって!ナオは他にもい〜っぱい仕事があるんやからぁ。…せやから、セイちゃん。カイリュウに手伝ってもらってな、?」
「えっ?…あっ、うん、わかった…、」
「ほんまにごめんね?セイちゃん。…じゃあ、もう行くな、?」
じゃあねと、パタパタと忙しそうに去っていくナオ。
……もうちょっと、話したかったな。
そう思いながら、無意識に、ナオの去っていく姿を目で追っていた。
「……おい、セイト。おいって。」
「え、?」
「荷物、運ぶんとちゃうの?」
「ああ、せやな…っ、」
カイリュウに声を掛けられ、ナオから目を離すと、荷物に手を伸ばした。
荷物を奥に運び、声を掛け合いながら置くと、ふいにカイリュウがじっと俺を見つめてきた。
「……っ?な、なんやねん、?」
「……お前、ナオヤと会話できとったやん。」
「っ、…おんっ、せやねん…っ、!さっき来た時おはよう言うたら、おはようって笑って返してくれてん…っ、今日は目も見てくれるしな?も〜、ほんまに良かったぁって…っ、」
「ふはっ、!なんかえらい嬉しそうやな?笑」
「っ、え、?」
「……なんや、良かったわ。お前が元気そうで。」
そう言いながらニコッと微笑んだカイリュウに、心臓がドキッと跳ねた。
……うん、やっぱ、そうやんな。
俺って、カイリュウが好きなんよな。
、、なんで、ちょっと言い聞かせてるん?俺。
「……セイト。…昨日、ここにエイキ来たで。」
「っ、えっ、?!」
「…なんや、元担当が来てそんなびっくりすることないやろ。」
「……っ、いや、、」
昨日、取引先に行くと言って出て行ったエイキ。
ぼんやりと、向かった方向に違和感を感じはしたけど、…あれは、そういうことやったんか。
……エイキ、なんで、急に来たんやろ。
俺が、ナオの話したから、?
…………ナオの事が、気になって、?
カイリュウは、エイキとナオが付き合ってたこと、知らへんのかな。
「……もしかしてお前、…エイキとナオヤの事、知っとるんか、?」
「っ、…えっ、、」
まさに今聞きたかったことがカイリュウの口から出て、動揺しながらも、こくんと頷いた。
「……なら、そら驚くわな。…俺も正直びっくりしてん、」
「………ナオとエイキ、会うたん…?」
「……さぁ。ここでは会うてへんな」
「……そうなんや、」
「…気になるんか?」
「え、?」
今日、あんなに俺の事を避けていたナオが、急にまた話をしてくれるようになった。
きっかけもわからずにホッとして、ただ喜んでいたけど。
……もし、昨日、エイキがナオと会って、2人に何かがあったんやとしたら。
…………例えば、復縁、なんて。
ナオは、そもそも俺にキスしたことなんて、なんでもあらへんって言うてたし、
俺への言葉も、……ほんまに、咄嗟に出たってだけで。
俺とはなんだか気まずかっただけで、エイキと復縁した事で幸せになって、そんな事、どうでもよくなったとか。
……どうでもええから、また、普通に、接することが、できた、とか。
頭の中で次々と、そんな想像が膨らんでいく。
あんなに喜んでいた事が、急に、胸が苦しくなって、なんだか切なくなっていく。
「……ナオ、」
「え、?」
「……っ、ナオ、…俺の事、どうでもええんかな、」
「……え?なんでそうなるねん、」
「っ、……え、?あっ、いや…っ、」
カイリュウの言葉に、我に返ってハッとする。
頭の中で考えていた事が、ぽろっと口から漏れてしまっていたことに、1人で焦っていた。
「………セイト…、お前さ、…」
「な、なん…?」
「…いやっ、なんでもあらへん。」
何かを言いかけてやめたカイリュウが、そそくさと残りの荷物を取りに戻っていった。
***
会社に戻ると、エイキが上司と打ち合わせをしている姿が目に入った。
“…昨日、ここにエイキ来たで。”
カイリュウの言葉が頭に浮かびながら、エイキを眺める。
エイキが上司に一礼をし、お互いに席を立ったのが見え、そのタイミングで近づいていき声を掛けた。
「エイキ…っ、」
「あ、セイト、おはよ。」
「おん、おはよ…、……なぁ、ちょっと話さへん、?」
「…うん、ええよ。」
そのまま2人で廊下に出ると、窓際で立ち止まり、エイキに話を振った。
「……エイキ、…昨日、海の家に行ったってほんま、?…カイリュウに聞いたで、」
「……うん。…俺も、ちょうどセイトに、話そうと思ってた。」
少し真剣な顔になったエイキに、内心では少しだけ焦っていた。
何を話されるんやろうと、少しだけ、怖いと思っている自分がいた。
……でも、聞きたい。
聞きたいことは、一つだけだった。
「……ナオに、会ったん、」
「……うん。…会って、ちゃんと話してきた。」
「っ、………そっか、」
あぁ、やっぱり。
会うたんや、ナオと。
……やっぱり、それで。
ナオの態度が戻ったのは、エイキがきっかけなんや。
自分の中で勝手に答え合わせをして、なぜか胸の中がザワついていた。
ナオとまた、普通に話せるようになった。
それだけで、俺の悩みは解決したはずやのに。
……なんで、こんなにモヤつくねん。
「……セイト?」
「……えっ?」
「あ、いや…なんか顔暗かったから、」
「っ、……そんな事ないで、?」
「そう、?」
「おん…っ、」
「話しても平気?」
「うん……、」
若干緊張しながら、エイキの話に耳を傾けた。
「……俺さ。ナオにずっと、遊ばれたと思ってたんよ。俺は遊んだ奴の1人で、…また、俺みたいに、次はセイトの事も、遊ぼうとしてるんやないかって、そう思ってた。」
「っ、…え、…そんなわけ…っ、」
「え、?……あぁっ、…ふふ。……セイトの方が、…ちゃんと、ナオの事、わかってたんかもな、?」
「…、え?なに、?まって、どういうこと、?」
「ううん。……ナオは、俺が思ったような人やなかったから。……セイトが見てる、そのままのナオを、信じてあげて。」
「……俺が見てるナオっ、て、…、」
「……それと、…海でセイトが見たナオは、…セイトが、助けてあげてよ。」
「……っ、え…、?助けるって、?」
「俺からは、それしか言えない。」
「っ、なんやねんそれ、全然わからへんって…っ」
「あとは、これだけ。……ナオは、…ちゃんと、セイトの事、好きだと思うよ。」
「っ、、え…っ、」
詳しく話しているようで、掴めないエイキの話に困惑する。
“ナオは、…ちゃんと、セイトの事、好きだと思うよ”
その言葉がエイキから発されて、心の中で引っかかっていたことを聞いてみる。
「っ……、…なぁ、…エイキ、…1個だけ、聞いてもええ…?」
「ん、?」
「……ほんまに、…、っ、ほんまに、ナオのこと、…未練、あらへんの…?」
「…うん、無いよ。…正直、ずっと引っかかってはいたよ。でも、……ちゃんと、いい思い出にできたから。もう、大丈夫。」
そう言って、ナオの事を思い浮かべているのか、優しい顔で微笑んだ。
その表情を見ていると、”いい思い出にできた”という言葉に、納得がいく気がした。
……でも、エイキが、そうやとしても。
頭の中にある、”復縁”の二文字を消し去りたくて、話を続けた。
「……ナオも、そうなんかな、」
「…え、?」
「………エイキに会うて、また、好きになったんとちゃうん、」
言葉を発しながら、なんだか拗ねているような口振りになったことに自分でも驚く。
そんな俺に、すぐに突っ込むエイキ。
「……それって、もし、そうだとしたら、気になるってことやんな?」
「っ、いや…、」
「違うん?」
「……今日、海の家行ったらさ、…ナオ、ちゃんといつも通り話してくれてん。目も合うし、笑ってくれて…っ、俺、正直めっちゃ嬉しかってん。」
「…うん、」
「…でも、エイキが昨日海の家行ったってカイリュウから聞いて。……今、エイキから、ナオと話したって聞いて。……もしかしたら、エイキに気持ちがいって、…俺の事、どうでもよくなったからかもしれへんって、なんか、思ってまって……、」
つらつらと、つい、本音をエイキに話してしまった。
話しながら、自分がなぜかエイキに嫉妬していることに、気付いていた。
「……セイト。……ナオさ、俺に、なんて言ったと思う?」
「っ、…なんて、言うてん、」
「……恋を、教えてくれてありがとうって。…俺のおかげで、もっと、人を好きになれたんだよ、って。……それって、誰のことかは、分かるよな。」
「、、っ、…え、、」
「……あぁでも、関係ないか。…セイトが好きなのは、カイリュウやもんな?」
「……っ、…え…、?」
カイリュウ。
その名前に、ハッとする。
……俺が、ずっと欲しくて欲しくて、たまらなかった人。
入ったばかりのランにまで嫉妬して、気持ちも考えずに、キスまでしようとした。
……2人が、顔を近づけようとしていたことに、絶望していたはずなのに。
その後の、ナオの言葉に、行動に、混乱して。
心の中に、ナオが、入り込んできて。
ずっとそこにいたはずなのに、見れていなかったその存在が、どんどん、どんどん大きくなっていって。
冷たくされて落ち込んで、笑顔を見ると、途端に心が晴れて。
さっきやって、カイリュウがいたのに、
目では、ナオを追っていた。
カイリュウが呼ぶ声も、耳に入らなくて。
……ランがいないなんて、よく考えたら、絶好のチャンスやん。
なんで、思いもせんやったんやろ。
カイリュウとナオは、どっちも、特別な存在で。
それは、片方は恋心と、片方は友情やった。
……それは、変わらへん。
、けど。
“セイトが好きなのは、カイリュウやもんな”
エイキの、少し試すようなその言葉で、自分の気持ちが揺れ動いている事に、気付いてしまった。
「……ナオと、話せるようになって、良かったな?セイト。」
そう言いながら俺に微笑んで、それ以上何を言うでもなく俺の肩を叩くと、エイキは仕事に戻っていった。
ーーーーーーーーー
(🐿視点)
ラン兄に背中を叩いてもらったその足で、たっくんのダンススクールに向かった。
たっくんに、諦めんけんって、宣言した日。
……あの日からずっと、俺はたっくんに猛アタックしている。
毎日毎日、しつこいくらいにラインを送り続けて。
少しでも、俺の事を考えてくれたらいいなって、ただ、それだけで行動し続けた。
『たっくん、おはよー』
歩きながらいつものように、そうラインを送信した。
たっくんからの返事は毎回、大体2、3回送って、1回返ってくるくらいで。
俺、そろそろストーカーとか思われとらんかな…なんて少し不安になりながらも、スマホをしまおうとするとブブッ、と振動して、画面を確認する。
『タクト:おはよ。』
珍しく即レスで返事が返ってきて、嬉しくてすぐに返事を返す。
『今なんしよーと?』
『タクト:コンビニにいるよ』
たっくんからの返事を見て、足を止めた。
ちょうど目の前に、コンビニがある。
たっくんの、ダンススクールのすぐ近く。
もしかして、と思いながら行こうとすると、たっくんがスマホを操作しながら、コンビニから出てくる姿が見えた。
「…あっ、」
近寄ろうとしたけど、少しだけ考えて、もう一度ラインを送信した。
『俺も行きたい』
そう送って、まだ俺に気付いていない様子のたっくんを眺めた。
俺からのラインを返そうとしているのか、コンビニの前で立ち止まって、スマホを触っている。
その動作と連動するように、返事が返ってきた。
『タクト:コンビニ行きたいの?』
「えっ?おいっ、違うやろ…っ!笑」
たっくんのなんだか抜けている返事に、少し緊張しながらも文字を打ち、送信した。
『違う。たっくんに会いたいけん。』
ドキドキしながら、たっくんの様子を確認した。
スマホが鳴ったのか、画面に目を向けるたっくん。
……心臓が、飛び出そうなくらい、大きな音を立てている。
そのままたっくんの顔を眺めていると、数秒画面を見つめた後、きゅっと唇を噛んで、だんだんと、口角が上がっていく。
「え…っ、、?/」
……今、俺の返事見て、嬉しそうにした、?
その表情を見た瞬間、足が勝手に走り始めて、たっくんに声を掛けた。
「っ、たっくん…!」
「!っ、え、?!りゅうき、なんで…っ、?」
俺が話しかけるとビクッ!と大きく身体を跳ねさせながら驚いて、スマホから顔を上げた。
「ちょうどたっくんのとこ行こうとしてたら、コンビニにおるって言うけん。」
「……っ、…いつからいた、?」
「……たっくんが、コンビニから出てくる時からおった。あっちに。」
そう言ってさっきまで俺がいた場所を指さすと、少し焦ったような顔をするたっくん。
「っ、…なんで、声掛けないんだよ、」
「……今、ライン送ったら、どういう顔するんやろって、見てみたかったけん、」
「……っ、」
たっくんの目を真っ直ぐに見つめると、戸惑ったように視線を逸らし、すたすたと歩き始める。
「えっ、たっくん!あっ、ちょ、まって!」
慌ててたっくんの隣に駆け寄り、歩幅を合わせると、ちらりと様子を窺った。
動揺しているような、少し、余裕のない顔。
……そんな顔、されたら。
期待、してしまうやん。
「たっくん…、?」
「……なに…っ、」
「怒っとう?」
「…怒ってないよ、」
「っ、……ねぇ。…さっき、もしかして、にやけとった?」
足早に歩くたっくんについていきながら、ストレートに聞いてみる。
俺の言葉に、たっくんの歩く速度が、少し落ちた。
……なんて、言うんやろう。
たっくんの口から、目線を逸らせない。
「…………あんな事言われたら、そりゃ、そうなるだろ……っ、」
「っ…え…っ、」
照れたような顔をして、俺を見ずにそう言って歩き続けるたっくんに、胸がきゅうっと締め付けられる。
……あぁ、…やっぱり、この人の事が好きだ。
好きで、…好きで、たまらない。
……俺の方を、向いて欲しい。
「…じゃあね、リュウキ。」
「え、?」
気が付くとダンススクールの目の前まで来ていて、そのまま中に入ろうとするたっくんを、思わず腕を引っ張って止めてしまった。
「まって…、」
「っ……なに、?」
「……たっくん、…今日、…ご飯行こ、?」
「え、?」
勢いに任せて、突拍子も無く、誘ってしまった。
あぁ、もっと、カッコよく、誘うつもりやったのに。最悪や…、
ラン兄に叩かれた背中が、ひりひりと痛む。
目を丸くして、俺の言葉に少し驚いた顔をしたたっくんが、数秒停止した後、ふふっ、と口元を緩ませて笑い始めた。
「ふっ、…ふふ…っ。笑」
「っ、な、なん…っ、?何で笑うと?」
「…っ、…ううん?…リュウキやなって。」
「なんそれ、どういう意味、?」
くくく、と笑いを抑えられない様子のたっくんに、頭はついていけんやったけど、なんだか楽しそうなその笑顔に、胸がじんわりと熱くなる。
「……いーよ。」
「えっ、?」
「ご飯。行きたいんでしょ?」
「っ、行きたい…っ、いーの、?」
「うん。仕事終わったら連絡する、」
「えっ、やった…っ、!!」
「ふふっ。…じゃあ、また後でね?」
「うん…っ、あ、」
「ん、?」
「仕事、頑張って…!」
「っ、ふ。ありがとね、笑」
俺に手を振りながら、中へとたっくんが入っていって、ドアが閉まった瞬間に1人でガッツポーズをする。
「っ、よっしゃぁ…っ、!」
思わず声に出すと、ポケットの中でスマホが振動した。
『タクト:聞こえてるよ。笑』
「っ、は、?!/嘘やろっ?!はっず……っ、//」
その通知を確認した瞬間、恥ずかしさで顔がどんどんと熱くなる。
……たっくんは、今、どんな顔しとんかな。
ねぇ、たっくん。
どんな顔で、これ、送ってきたと、?
また、笑っとったんかな。
……笑っとったら、いいな。
ドアの向こうに思いを馳せながら、たっくんの嬉しそうだった笑顔を、思い浮かべていた。
コメント
13件

ずっと楽しみに待ってました!!! 更新ありがとうございます✨ 海辺組が深刻な分🍓🐿が尊すぎて🤦♀️🤦♀️🤦♀️ 🐰💖がこれからどう変わっていくのかとっても楽しみです🎶✨ 次回も楽しみに待ってます🍀*゜
タクリュキ可愛すぎてしんどいです🤦♀️読み終わるのが勿体なくて、、、もう口角が下がりません!

どわ〜〜〜〜!!!!タクリュキ可愛すぎて口角千切れました……リュウキの一途で真っ直ぐな気持ちに段々絆されていくたっくんドカ可愛いです😭😭 一方で、セイトの揺れ動く気持ちとてもリアルで最高ですね……!!一体どうなっていくのか、今後の展開も楽しみです!