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・カプ表現
・自己解釈
ーーーーーーーーキリトリーーーーーーーーー
赫み掛かった橙の,暖かな日差しが降り注ぐ庭。窓から差し込む光で目を覚ましたのは【伊】であった。軽く欠伸をしては,着崩れた服を整える。未だ眠い目を擦りながら,ベットから立ち上がった。時計を見れば,夕暮れ時である事に気がつく。が,起きて,すぐ立ったものだから,軽い立ち眩みの様な物が彼に襲いかかる。壁に片手をつき,反対の手で頭を押さえる。其れが収まると,リビングへと歩みを進めた。
【伊】ァゝ,眠ィ……
寝起き故,少し枯れた声。裸足の儘,歩き,リビングの戸に手を掛け,押し,開ける。何の変哲も無い,見慣れた自身の家のリビングだ。彼が目をやったのは,腰程の高さをした,アンティークな木製の机。古びた姿をする机とは打って変わり,其処に置いてあるのは,彼の愛用するスマートフォン。其の画面は煌々と光っている。近づき,手に取ると,メールが一件入っている事に気がついた。送り主は,彼の知人である【独】であった。彼から仕事以外でメールを送られたのは片手で数えられる程度。其れ故,驚いた。送信されている時間は,昨日の夜中である事に再び驚く。内容は,〝会えるか〟と言った旨の物だった。流石,【独】とでも言おうか。丁寧に場所と時間帯も記載されていた。直ぐ様,〝勿論‼️〟と返す。指定された時間には後1時間程猶予がある。然し,指定されている場所は少し遠い所にある,〝イタリアンの店〟だ。30,40分で着くであろう。今から他の準備やらをすればギリゝではあるが間に合うだろう。外出する時,よく着る服を手に取って,着替えようとした時に,気づく。彼が指定したのはイタリアンの店。普段通りの格好で良い訳は無い。普段余り腕を通さない,スーツを手に取った。ブラウンの,暖色系のスーツだ。ネクタイは,チョコレートの様な色味の物だ。普段,履くことのない革靴にも脚を通した。慣れない革靴に度々転びそうになったが,変に此処で時間を使う事は出来ない。夕暮れ間近に起きた己を恨みつつ,足早に外へ出た。
今にも,沈みそうな太陽に少し焦り出す。急いだ方が良いだろうか。そう思い,走った。が,ものの数分で直様後悔する。見事に脚をいわしてしまった。ズキゝと痛む脚を,軽く撫でる。【独】に〝遅れるかも〟と端的に文を打ち込み,送信する。気づくかな,と思い,画面を見ていると,直ぐに既読が付いた。5秒程で,〝了解〟と言う返信が返って来る。キャラクターがゴメンねと言っているスタンプを送り,スマホを仕舞った。
【伊】あーーーーもう最悪。
軽く足をずりながら,店へ向かう。夕日が水平線に溶けそうな時,遠くに,建物の前に佇む人影が見えた。あの背丈は間違いなく【独】だ。彼の姿が目に入ると,流石の【伊】も,申し訳ない気持ちが溢れる。
【伊】あ…ゴメンね。独逸。遅れちゃって…。
居た堪れない気持ちに揉まれながら,彼に駆け寄り,眉を寄せ,小首を傾げ,謝罪の言葉を口にする。片足を庇うようにして歩いている【伊】に気が付いたのだろうか,【独】は室内に入る様に促した。更に室内に入ると,待合室のソファに腰掛ける様に言った。
【独】大丈夫か??
何があった,とも聞かず,ストレートに心配するのは彼の良い所である。
【伊】嗚呼,少し足捻っちゃってね。
そう言いながら,先刻と同じ表情を浮かべると,【独】は真ん前で,片膝立ちになり,〝怪我した所,見せろ,手当てする〟と言って。【伊】が靴と靴下を脱いで,足を差し出す。【独】のスーツのポケットから出したのは,絹のハンカチ。柄も装飾も無い,極めてシンプルな物である。其れを躊躇無く……否,多少伏せ目で,破り,包帯代わりになる様に,紐状にする。【伊】の足に其れを少しキツメに巻き付けた。一方の【伊】は多少の不快感に呻き声が漏れるが,其れ以上に,幼き日から思いを寄せていた彼が近くに居ると言う事実に僅か乍,ドギマギしている自分が居る事に気付くと同時に顔が熱くなっていた。
【独】帰るか…?
折角のイタリアンの店に来たというのに,そう言われ,【伊】には其の意図が汲み取れず,何故にしてそう言われたのか解らず,顔を顰めていると,其れに気がついたのだろうか。【独】は〝怪我しているのに飯を食っても楽しめないだろ〟と付け足す。其れでようやく意味を理解した【伊】は〝良いよ,折角君が誘ってくれたのに,勿体無い〟と返す。キャンセルをすれば幾らか料金が掛かる。そんな迷惑を彼に負わせたく無かったのだ。こう言っている【伊】は中々意見を曲げる事は無い。【独】は渋々,〝無理はするなよ〟とだけ言い,【伊】の手を取り支える様にして,食事場所に誘導した。
次々と運ばれてくる,料理達。鼻を通る,料理の香りが,空腹を刺激する。口に入れれば,味が一気に広がった。幸福感に身を委ねながら,食事を続ければ,腹が膨れる感覚がした。
2時間後,店を出,繁華街へ向かう道中。〝美味しかったな〟と【独】が声を掛ければ,それに応えるように【伊】はこくゝと頷いては同意して。愛する人と,幸せな時間を共有するというのは,何にも変えられない多福な時間である。〝ずっと続けば良いな〟そんな淡い願いを胸に,歩みを進めると,突然,片手に熱が伝わった。驚いて,其処を見れば,愛する人が愉しそうに笑っている姿があった。此方から指を絡ませてみれば,一瞬目を見開いた。が,直様,花の咲いた様な,暖かな笑顔を見せた。顔を寄せて,唇を押し付ければ,愛する人は背中に手を回して,身体を引き寄せた。
春の陽気が溢れ始める季節ではあるものの,依然としてまだ寒い夜間,同じ想いを胸に,幸福に溺れる彼等の足元には,【矢車菊】と【雛菊】が咲いていただろう。
ー endー
コメント
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ふぉわぁぁぁぁっ、最高…!!マジでありがとう一生読み続ける…!!! てか、いわすって方言らしいね。検索して初めて知ったけど。