言うことない
第3話「雨の日の屋上」
朝からずっと、空は灰色だった。
昼休みになっても、雨は止む気配を見せない。
教室の窓ガラスをつたう雫を、ゆいはぼんやりと見つめていた。
ゆい「……昼休み、どうしよ。」
そんなとき。
ドアが静かに開く音。
類「やぁ、ゆいくん。」
傘も差さずに、少し髪を濡らした神代類が立っていた。
制服の袖口までしっとりしているのに、本人は気にする様子もなく笑っている。
ゆい「うわ、濡れてるじゃん……何してたの?」
類「屋上で雨の音を聞いてたんだ。
水の落ちるリズムって、想像力を刺激するんだよ。」
ゆい「風邪ひくよ……。」
類「じゃあ、君も一緒に来る?」
ゆい「えっ、屋上?今、雨降ってるのに?」
類「大丈夫。僕がちゃんと傘を用意してる。」
そう言って、類は白い傘をひとつ掲げてみせた。
どう考えても、二人で入るには狭い。
ゆい「……絶対狙ってるでしょ、それ。」
類「もちろん。」
ゆい「即答!?」
類の笑顔に押されるようにして、ゆいは渋々傘の下に入った。
階段を上って屋上の扉を開けると、
ひんやりとした雨の匂いが広がる。
ぽつ、ぽつ、と傘を打つ音。
その小さな音の中で、類が静かに口を開いた。
類「ねぇ、ゆいくん。雨の日って、世界が少し柔らかく見えない?」
ゆい「……わかる気もするけど。」
類「君とこうして歩いてると、
いつもの景色が全部、舞台の上みたいに感じるんだ。」
ゆいは思わず横を見る。
類の横顔は穏やかで、どこか遠くを見ているようで――
ゆい「……ほんと、変なこと言うよね。」
類「そう? じゃあ、これは?」
そう言って彼が傘を少し傾ける。
肩が触れる。
息が、近い。
類「君の頬に落ちた雨粒、拭ってもいい?」
ゆい「……っ、いい……。」
声が震えてしまう。
彼の指先が、ゆいの髪をそっと撫でて。
類「じゃあ、このままで。」
その一言に、胸がきゅっと鳴った。
⸻
放課後。
机に頬をつけたゆいは、何度も深呼吸した。
ゆい「……ほんと、ずるい。」
⸻
次回、第4話「秘密の練習」🎶
――文化祭を前に、ふたりの“秘密”が始まる。
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