テラーノベル
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公表してから、初めての休日。
これまでは、外で並んで歩くなんて夢のまた夢だった。変装を徹底し、時間差で店に入り、常に周囲を警戒する。それが僕たちの「普通」だったけれど、今日は違う。
「……らんちゃん、準備できた?」
玄関で待つ僕の前に現れた彼女は、少し緊張した面影を残しつつも、晴れやかな笑顔を浮かべていた。
行き先は、都内のなんてことない公園と、彼女が行きたがっていたカフェ。
世間があの配信をどう受け止めたか、不安がないと言えば嘘になる。けれど、それ以上に「僕の隣にはこの人がいるんだ」と胸を張って歩ける喜びが、今の僕を支配していた。
「元貴さん、本当にいいんですか? マスク、外しても」
「いいんだよ。だって、僕は君の恋人なんだから」
車を降りて、自然な動作で彼女の手を握る。
指先から伝わってくる少しの震えを、僕は大きな掌で包み込んで打ち消した。
公園の並木道を二人で歩く。ただそれだけのことなのに、視界に入る景色が驚くほど鮮やかだ。
時折、すれ違う人たちが僕たちを見て驚いたような顔をしたり、控えめに会釈してくれたりする。中には「応援してます」と声をかけてくれるファンの方もいて、そのたびに隣でらんちゃんが深々と頭を下げているのが、たまらなく愛おしかった。
「……ねぇ、らんちゃん。僕、今、世界で一番幸せかもしれない」
カフェのテラス席で、運ばれてきたケーキを前に目を輝かせる彼女を見つめながら、僕は本気でそう思った。
これまでは、彼女を「僕だけのもの」として隠し通すことが正解だと思っていたけれど、それは間違いだった。
こうして世界に認められ、みんなの視線がある中で、堂々と彼女の隣で笑い合える。
僕の独占欲は、彼女を閉じ込めるためのものから、彼女と一緒に歩む世界を輝かせるためのエネルギーへと変わったんだ。
「元貴さん、生クリーム、鼻についてますよ」
クスクスと笑いながら指先で拭ってくれる彼女の手を、僕は思わず捕まえて、そのまま指先に軽くキスをした。
周りの目なんて、もう怖くない。
これから先、どんな場所へ行こうか。どんな景色を一緒に見ようか。
僕たちの物語は、ようやく本当の「自由」を手に入れたんだ。
NEXT明日
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