コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
彼は、優しくて酷い。
彼は最近、仲 の良い女の子がいる。彼曰く、気の合う男友達のようなもの、とのこと。
目に付くだけかもしれないけど、2人で携帯覗き込んでたり、その子が日直のときノート運ぶの手伝ったりとか、一緒に帰ったり出かけたりもしていて。趣味が合うからだって伝えてはくれるのだけれど。
彼女の私と何が違うの?部活で忙しいのにその時間を私に使ってくれないの?
結局、悪気はないわけだから言ってもピンときてない。
「ごめん、今日昼ごはんアイツに相談あるって言われてるから別でもいい? 」
『え、』
「なんか悩んでるみたいで」
『…いや、なんで英なの』
「さぁ?友達だからじゃない?」
変なところ鈍感なのなんなの?優しさに漬け込まれてるよ そう言いたいのに彼の中では決定事項になっているらしく、私の返事を聞かないままクラスへと帰っていく。
根が優しいことを知ってるからしょうがないかなって無理やり思おうとしたのに、昼休みが終わる頃、英がトドメを刺してきた。
「今度の休みさ、アイツがチケット持ってるみたいで、一緒にライブ行くことになったから」
『は?え、なんで?』
「俺の好きなバンドだし。チケットあるって言うし。」
『なんで?!なら私も誘ってくれたらいいのに!』
「だって興味ないものについてきても楽しくないでしょ、そもそもチケット2枚だし」
『でもっ』
「…疑ってんの?全部報告してるし友達だって言ってんじゃん。最近怒ってばっかで一緒にいても楽しくないんだけど」
はぁ、とこっちを見ずにため息をつく英。
…あの子といるのは楽しい?
そうだね。私よりあの子といるほうが、 楽しそうだね。
私たちの時間がどんどん奪われるのなんとも思わない?
あのね、疑ってるんじゃなくて不安なんだよ、わかってよ。
私がおかしいの?
結局、その休みの日もあの子とライブに行った彼はライブ会場の写真などを送ってきた。本当に来てるよ、嘘じゃないよ、疑うなよ、という彼なりに私を気遣ってのことだと思う。あんなに喧嘩腰に言われても、鬱々しがっても、彼は私のことを考えてくれている。
まあ、本音を言えば写真なんか見たくないんだけど。
私が性格悪いの?なんで私以外の子と楽しんでる写真を見せられなきゃいけないの?なんで彼女持ちの英を誘うの?ほんとにその子に下心はないの?
そう思うと返信すらできなかった。すると、ライブ終わりであろう時間に電話がなった。
「終わったよ」
『うん、…楽しかった、?』
「めっちゃ最高だった」
好きなバンドを見れたからだろうか、いつもよりハイテンションだ。それすらもなんだか虚しくて、あの子とはもう別れたのかな?っていちいち考えるのも嫌になる。
『良かったね。好きなやつだもんね』
「アンコールの曲が1番好きな曲でさ、」
こういう話も、あの子ならわかってあげられるのかな。わからないから、相槌しか打てない。でも英が楽しそうだから、ちゃんと聞いてあげようってなるのは、惚れた弱みだろうか。
「あー…来週空いてる?」
『え?』
いきなり話題が飛ぶから、一瞬考える。
「俺の練習昼までだから、昼から出掛ける?」
突然の誘いに言葉が出ない。
『なんで…』
「いやまぁふつうに、話したいことがある、から?」
その言葉に、心臓がどくっとなる。
「予定ある?」
『んーん、行きたいな』
行きたくないって言葉は飲み込んだ。何も言われてないのに、不安が募る。誘って来たのは英なのに、あまり乗り気じゃないから尚更。
今日のあの子とのお出かけは、楽しかった?
前はデートってだけでワクワクしてたのに、楽しくないって言葉が重くのしかかる。
少しの嬉しさと大きな不安。
最後のデートになるかもしれないね。
私よりあの子のほうが楽しいって気付いちゃうかも。
嫌だけど、私が全部間違ったこと言ってるとは思えないから。彼の話って言うのが別れなら絶対泣いちゃうけど価値観が合わないなら、仕方がないのかもしれない。
『…よし』
最後の最後くらい、怒っている私より、笑っている少しでもかわいい私を覚えておいて欲しいから。
貯めたお年玉とお小遣いで彼の好きそうな服を買った。待ち合わせの前に美容院にも行った。
最後くらい、見栄はらしてよ。