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(🍓視点)
『その話は断ったはずだよ』
そう、送って、
……決めた、つもりだった。
家に帰って、濡れた水着を洗っていると、微かに潮の香りがして、海での楽しかった事が、頭に浮かんで。
リュウキの楽しそうだった顔を、思い出すのに。
ずっと、無意識に、スマホを気にしている自分がいた。
手が勝手に、あのトーク画面を開いては、既読がついていないことを確認していた。
『やっぱりあの話、もう一度考え欲しい』
ずいぶんと前に、先生から送られてきたライン。
何度も眺めて、やっと今日、返信できたのに。
……やっぱり、まだ、俺は、
そう思いかけて、掻き消すようにパソコンの電源を入れ、仕事を始めるも全然集中できなくて、デスクを離れてソファーに座り込んだ。
また、開いてしまう、あの画面。
今なら、まだ、取り消せる。
取り消す寸前まで指を動かしては、何度も何度も画面を閉じた。
「…〜っ…、なに、やってんだよ……、」
自分が嫌になって、頭をぐしゃぐしゃと掻きむしった。
こんな事に縋ったって、何にもならないのに。
それでも、既読になってしまったら、もう。
送ったくせに、そう考えるとどんどん苦しくなって、スマホを放り投げようとした時、ピコン、と通知が鳴った。
『リュウキ:たっくん、昨日も今日も、本当にありがとう』
『リュウキ:めっちゃ楽しかった!』
『リュウキ:いっぱい会えて嬉しかったよ』
『リュウキ:また誘うね。おやすみ』
画面を見た瞬間、立て続けに送られてくるリュウキからのライン。
ひとつひとつ読み進める度に、リュウキの顔が浮かんで、視界が、ぼやけていく。
どうして、そんなに、
その純粋な光に触れたくなって、胸がぎゅっと苦しくなって、自然と指が動いてしまう。
『会いたい』
そう、縋るように、たった一言、返事を送信した。
***
「たっくん、すぐ行くけん…っ、」
ラインを送ってすぐに、リュウキから電話がかかってきた。
唇が震えて上手く話せなくて、そんな俺に気付いたのか、一言だけ言い残すとリュウキは電話を切った。
「たっくん…、」
「……ごめん、こんな時間に呼び出して。」
玄関のドアを開けて、リュウキの顔を見た瞬間、情けなさと、気付けば真っ暗になっていた外を見て、申し訳ないという気持ちでいっぱいになる。
「謝らんでよ、……なんか、あったんやろ、?たっくん。」
「…っ、…上がって、リュウキ。」
リュウキの声が涙腺に来そうになりながらも、中に迎え入れ、2人でソファーに腰を下ろした。
「……リュウキ、…ごめん、俺、」
「何も言わんでええけん、」
「っ、…え…、?」
「ありがとね、俺の事、頼ってくれて。…ちゃんと、たっくんが落ち着くまで、一緒におるけん。」
話そうとすると、リュウキは何も聞かずにそう言って、俺の背中を優しくさすってくれた。
縋るだけ縋って、何も言わないなんて、そんな事できるわけがない。
「…っ、…ありがとうね、リュウキ。…でも、……ちゃんと、話すから。」
「……無理、せんでええけんね、?」
「…大丈夫。……話しても、平気、?」
「…うん、いいよ。」
こんな事、リュウキに、話していいんだろうか。
一瞬出た迷いを、真剣に聞こうとしているリュウキの顔を見て、心の奥にしまい込んだ。
「……リュウキに、言ってないことがあって。」
「……なに、?」
「……リュウキに会いに大学に行った日、…俺、先生と会ってた。」
「………え、…?」
「……別れてから初めて、連絡が来て…、」
……………………
リュウキと初めて話して、ダンススクールに連れてきた日の夜、来るはずのないラインの通知が、スマホに入ってきた。
先生の名前が表示されたその画面を、何度も何度も確認して、緊張しながらラインを開いた。
『いきなり連絡してごめん。たまに大学にいるのを見かけるよ。少し聞いてほしい話があって。よかったら、研究室に来てくれないかな』
連絡が来たこと、見かけたという言葉で、少しでも自分を気にしてくれていたのかということ、話があると言われたこと、その全てに嬉しさと動揺と期待が入り交じって、俺は先生に会いに行くことを決めた。
『わかった』
そう、一言だけで、返事をした。
……本当はたくさん、言いたいことがあった。
連絡してくれて嬉しい。
大学に行くのは、先生に会いたいからだよ。
俺も本当は、たくさん話がしたいよ。
あの頃みたいに、研究室で、また、会いたい。
そんな言葉を全部、飲み込んで返信を待った。
先生はすぐに、日時を指定するラインを送ってきた。
指定されたその日は、俺と先生が付き合った、記念日の日だった。
もしかしてそういう話なのか、ただの偶然か、そう思いながらも期待して、いつもより着飾って大学に向かった。
でも、久しぶりに先生に会うのはなんだか怖くて、その前にリュウキに会いに行って、元気を貰おうとした。
リュウキにまた来ると約束をした後、緊張しながら、先生の研究室へと足を運んだ。
少しの不安と、少しの期待があった。
久しぶりに面と向かって会った先生に、顔が綻びそうになるのを必死で抑えながら、目は無意識に、先生の左手の薬指を確認していた。
……やっぱり、指輪はしていない。
記念日の日。
どうしたって、期待してしまう。
でも、先生の話は、それとはかけ離れたものだった。
“講師として、学生に進路の話をしてくれる人を探してる。もしよかったら、バックダンサーの経験を話してほしい”という、依頼の話だった。
話を聞きながら、内心、期待して馬鹿みたいだと苦しくなっていた。
着飾った自分が、恥ずかしくて、悔しくて。
やっぱり、俺だけが想ってるんだと、実感させられたことが、辛くなって。
バックダンサーをやっていた事は話したくないからと、依頼は断って、研究室を後にした。
その後リュウキにまた会いに行って、ゲーセンに行って、たくさん笑って。
リュウキが、元気を取り戻してくれたのに。
リュウキを大学に送ったとき、先生とばったり会って。
会釈をしてきた他人みたいな先生に、また気持ちを掻き乱されて、逃げるように大学から去っていった。
数日経って、先生からまたラインが届いた。
『やっぱりあの話、もう一度考えて欲しい』
もう、苦しませないで。
期待、させないで。
そう思いながらも、返事を返すことが出来ずにいた。
バックダンサーの話は、したくない。
それは揺るがない。
……けど。
返事をしてしまったら、俺と先生の接点は、完全に無くなってしまう。
それを、どうしても、断ち切ることができなかった。
先生との繋がりを、離したくなかった。
……………………
「……、そう、やったん…、」
「………ずっと、返事できなかった。……でも、今日、やっと、もう一回断った。」
「え…、?」
「…リュウキのおかげ。」
「っ、…俺、?」
「うん、」
リュウキといるうちに、……リュウキといる時だけは、心が軽くなっている自分がいる事に、気が付いて。
リュウキといる事が、楽しくなって。
海で遊んで、笑って、
俺の事を真っ直ぐに見てくれるリュウキが、眩しくて。
……こんなの、もう、やめよう。
そう、やっと、決断できた。
でも。
「……今日、俺さ、…本当に楽しかったから。…もう、先生のこと諦めようって、思えた。……でも、…時間が経てば経つほど、本当に、っ……良かったのか、って、、」
「…っ、……たっくん…っ、」
話していると、自分でも気付かないうちに、泣きそうになっていた。
おい、こんな話を聞かされる、リュウキの身にもなれよ。
泣くのは、俺じゃないだろ、
そう思いながらも、無意識に言葉が詰まってしまう。
「っ、……返事、したことを、…っ、後悔、しそうになって。決断したと、思ったのに、…結局、ずっと、悩んで……っ、」
「…っ、…たっくん、…うん、わかった、わかったよ。」
自分で決めて、断ったくせに、勝手に悩んで、苦しくなってしまったこと。
こんな事で、リュウキに、縋ってしまったこと。
「…っ、…ごめん、リュウキ、…ごめんね。」
情けなくて、不甲斐なくて、涙を堪えて謝ると、リュウキの腕が、俺を包むように背中に回された。
「たっくん、……話してくれてありがとう、…っ、苦しかったね、いっぱい悩んで、頑張ったんやろ…っ、?…俺に、吐き出してくれて、ありがとう、……たっくんの、力になれて、…っ、俺は、うれしいけん。…うん、うれしい。…っ、うれしいけんね、、っ」
抱きしめてくれるリュウキの身体は微かに震えていて、一生懸命に言葉を紡いでくれているのが、直接身体から伝わってくる。
“ありがとう”
“うれしい”
そんなポジティブな言葉を使うには、声が震えていて。
それでも何度も何度も、嬉しいと、言葉にしてくれた。
胸が、痛いくらいに、締め付けられる。
……本当は、一番苦しいのは、リュウキのはずで。
きっと俺のために、最大限に強がって、カッコつけてくれて。
そんなリュウキの優しさに、漬け込むようなことは、もう、したくない。
俺は、リュウキに、何を返してあげられる?
リュウキは、こんな俺にも、逃げずに向き合ってくれた。
ちゃんと、リュウキと、向き合おう。
……ちゃんと、リュウキと、向き合いたい。
「……っ、…ありがとう、、リュウキ。」
「…たっくん落ち着くまで、こうしてていい…?」
「っ、……うん、…ありがとね、」
「……よしよししてもいい、?」
「……ふっ、……うん、いいよ。」
要求が次々に振ってきたことに少し笑いつつも返事をすると、ちょっとだけ遠慮がちに俺の頭を撫でるリュウキに、つい可笑しくなってしまった。
「……っ、ふふ。笑」
「っ、え、な、なん……っ」
「ううん。……慣れてないなって。笑」
「……だっていつもはたっくんがしてくれるけん、、/」
さっきまで声を震わせていたのに、次は照れた表情を見せている。
ころころと感情が変わるリュウキに、俺もいつの間にか、笑顔になっていた。
やっぱりリュウキといると、元気を貰える。
「……リュウキ、…明日、また会える?」
「え、?……俺が断るわけないやん…っ、」
「っ、、ふ…っ、、そーだった。笑」
「おいっ、そうだったもおかしいやろ。笑」
からかうとまた笑いが起きて、まだ離そうとしないリュウキの腕の中で、くすくすと肩を震わせた。
コメント
10件
リュウキ😭😭漢だ😭😭😭🍓が返信を返せたのは🐿の言葉が笑顔が勇気をくれたからだし🐿の真っ直ぐな気持ちが前に進む力になってたのかなぁ😭🐿は太陽なんだよ😭😭こんな陳腐な感想しか出てこなくてごめんなさい😭😭好きです😭😭😭
だぁぁぁぁぁあ キューって締め付けられるけど タクリュキの話めっちゃキュンキュンするぅう🥹

待ってました!!!!! 先生ほんとに罪な男🤦♀️🤦♀️ 🍓の気持ちを思うと心がほんとに痛くなります、笑 早くくっついて欲しい気持ちもあるけど、🍓が🐿に向き合い始める段階の甘〜い感じも見てみたいので迷ってましたがやっぱり次のカップルは🦅☕️!! 段々と終わりが見えてきて早く付き合えー‼️って気持ちともう終わってしまうのかという少し寂しい気持ちがあります笑笑 次のお話も楽しみに待ってます🍀*゜