Side赤
時計を見上げれば、もう本番の十数分前。
俺はライブの直前くらい緊張している。だってこんなのほぼライブだ。
それぞれ準備をしているメンバーも、どこかそわそわしている。
すると、プロデューサーさんが来て6人を集めた。最終確認をするらしい。
バンドを背に歌も踊りもしっかりフルの尺でやって、最後にはきっちりお辞儀をする。そう、音楽番組と同じように。
でもその後に、「あと追加で」と言った。
「始まる前に皆さんでいつも通りのルーティーンをしてほしいんです。あの6人で軽く握手とかハグしてるやつ」
え、と5人がつぶやいた。
「ジェシーさんがライブみたいにしたいらしくて。なので、そこも映すっていう感じで。だって皆さんライブが本業なんですよね? 本業やらなくてどうするんですか」
と楽しそうに笑った。
それでみんなの表情も少し緩む。
これは俺が考えてスタッフさんに言ったことだ。大我の病気がわかって以来、ライブをやろうという話なんて出てこなかったから。
いいね、とみんなも反応してくれる。
大我に視線を送ると、にっこりと満足そう。俺も嬉しくなった。
セットから少し離れたカメラ側、俺らはジャケットを整えながら時を待った。曲の衣装と全く同じもの。懐かしさが詰まっている。
そして合図が掛かった。
いつもみたいに、一人ひとりと右手を握り合って、背中をたたき合う。
まだ真っ暗なステージに、6人で歩み出した。
気づけば最後のピアノの音の余韻が鳴っていた。
思わずそれに涙が誘われそうなのを、必死にこらえた。
泣いていいのかも、と思ったけどぐっと耐える。涙なんか見せたら大我がきっと辛い。
右隣の彼に視線を向ける。肩で息をしているが、やりきったような表情だった。
その背中に手を添え、丁寧に頭を下げた。
「カット!」
その瞬間、大我は全身の力が抜けたように崩れ落ちた。
慌てて支えて、舞台袖の椅子に座らせる。
上着を脱がせてシャツを緩めた。
「よく頑張った」
荒い呼吸を繰り返す大我。精一杯5分間をやり抜いた証だろう。
とりあえず俺らも、大我のプライドを守りきったことに嬉しさが溢れる。
だが大我は、苦しい、と喘ぎながら言った。それを聞いて北斗が駆け出す。
持ってきてくれた酸素のスプレーを当てて落ち着かせた。
スタッフさんも心配そうにやってきた。
「大丈夫ですか…?」
たぶん、と答えておく。
「もう撮り直しはいいですか」
そう訊かれ、大我はうなずいた。満足のいくものができて俺らとしても良かった。
きっと、大我も全てを出し切れたんだ。
「戻ろうか。ソファーで休もう」
慎太郎と両脇から支えながら、控室へ向かう。が、途中で立ち止まった。
「どうした? 動けない?」
樹が尋ねても、うつむくばかり。不安になって高地と目を見合わせたとき、その小さな唇から声が発せられた。
「ありがとう」
大我はしっかり5人を見上げて笑っていた。
それを聞いて、俺はふっと息をつく。
「どういたしまして。大我も、みんなもありがとう」
ねえ大我。
俺は知ってるよ、大我がグループのためにって音楽とかこだわりを持って色々考えてくれてること。
それが重い圧になってたのを俺らが気づかなかった、って後悔するにはもう遅い。
だから精一杯の感謝を込めて。
君に出会えたのは偶然でも必然でもないと思ってる。だって、SixTONESなんだから。
最後に叶えられた大我の夢が、空の光りとなってまた輝けますように。
終わり
完結