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#コメディー
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「えっと、あのドラゴンの少女と、
お友達になりたいですわ!」
アンニーナ令嬢の言葉で―――
食卓についていた全員の表情が和やかになり、
「ドラゴンの少女というと……
万能冒険者の娘の事かね」
「あっ、『おとーさん』って言って
おりましたし、多分そうですわ」
六十代の老人にしてこの国のトップ、
軍王ガスパードに彼女がそう返すと、
「ラッチの事ですか。
人間の姿であれば、アンニーナ様と同年代に
見えましたし―――
お許しがあれば是非とも」
そう私が頭を下げると、
「よろしくお願いしますわ!!」
と、その金髪縦ロールを揺らしながら、
アンニーナ令嬢は元気いっぱいに答え、
そこでアップルパイのお披露目は、
穏やかな雰囲気のまま終わった。
「なんと!?
我が孫娘が!?」
「そんな……しかし」
「いえ、でも確かにあの子は急に
変わりましたわ。
何らかの魔法なり呪いが原因とすれば、
つじつまは合います」
その後、ライさんティエラ様、そして私は
時間を取ってもらい―――
軍王と王子とその妻、つまりアンニーナ様の
ご両親との話し合いの場を設けて頂き、
彼女の現状について説明する事にした。
「あのアップルパイをお出しする席で、
シンに給仕係をやらせましたが……
その時にご令嬢にかけられた『何か』は
シンが無効化しています」
グレーの短髪に、細身ながらもガッチリとした
筋肉質の体を持つ、ウィンベル王国の前国王の
兄がそう説明し、
「魔法でしょうが呪いでしょうが、魔力が
関係していれば―――
彼は何でも解除する事が出来ますので」
続いて、パープルの長髪に前髪を眉の上で
揃えた王女様が、補足するように語る。
「では、異常があった事は確かなのか」
そこで私はうなずき、
「実は一度アンニーナ様とお会いして
いるのですが、その時はラッチを
『ペット』に献上しろと申し出て
いましたので……
それが『お友達』になりたいという
お願いになりましたから」
「アンニーナがそんな事を」
「も、申し訳ありませんでした!」
私の説明に王子夫妻は謝罪の言葉を
口にするが、
「いえ、その時は執事やメイドたちの
注意で引き下がっています」
「ただ、ライオネル様がその時に、
異常を発見しましたので―――
シンにその解除をお願いしたのです。
どう考えても、良い物には見えなかったので。
むしろ事後承諾のような形になってしまい、
申し訳ありませんでした」
そう言って王族の男女は頭を下げ、つられて
私もそれに倣う。
「いやいや、礼を言うのはこちらの方だ。
しかしアンニーナの様子がおかしいと
いうのは聞いていたが、これで解決したと
いうわけか」
そう軍王ガスパード様が安堵のため息を
ついたものの、
「いえ、残念ながら……
本題はこれからにございます。
一度仕掛けて来た者が、このくらいで
引き下がる確証はありませんし、
継続的に魔法や呪いをかける仕掛けが
あったりすれば、何の解決にもなって
おりません」
ライさんの言葉に、軍王一家は顔色を変え、
「終わってはいないのですか!?」
「ですが、仕掛けと言われましても」
大ライラック国の王族の男女が、
不安そうにこちら側に視線を向ける。
「以前、我が国であった事なのですが、
何度治療しても病気が再発するご婦人を
見た事があったのです。
その時、持ち物や常に身に着けている物を
確認させて頂いたのですが―――
その中に人体に害を成す魔導具がありました。
ですので、アンニーナ様にも同じような
事が仕掛けられているとなりますと」
(■83話 はじめての さいはつ参照)
私がそう話すと、ガスパード様は両目を
閉じて考え、
「では、シンに見てもらえればそれが
わかるかも知れない、と?」
「いえ、私にはそこまでわかりません。
ですがライオネル様なら見分ける事が
可能だと思われます。
それを渡してもらえれば、後は私が
『処理』いたしますので……」
私の答えに、アンニーナ様の両親は顔を
見合わせて―――
「父上。ここは1つお願いした方が」
「はい。
確かにあの試食会から、娘も変わったような
感じになりましたし」
と、二人は乗り気のようだが……
祖父である彼の表情は厳しい。
まあ気持ちはわかる。
本来、私たちは『スタンピード』解決の
褒美を渡すために呼ばれたはずなのだ。
それがさらに身内の問題も―――
となると、さらに借りを作ってしまう事にも
なりかねない。
一国のトップだからこそ、うかつに頼れない
現実もあるのだろう、と思っていると、
ライさんとティエラ様が、
「大ライラック国は、ランドルフ帝国を通じ……
ウィンベル王国及び辺境大陸各国とも関係を
強化していきたいつもりだと聞きました。
こちらに取っても、手を結ぼうとする相手の
内情が不安定というのは看過出来ません」
「それに、わたくしとライオネル様は実は
婚約が内定しているのです。
ですので、何か手柄を立てさせて頂けると
有難いのですが」
これは一方的な借りではなく―――
こちら側に取っても利のある事なのだと、
暗に先方に伝える。
婚約という言葉に反応したのか、王子夫妻は
『おお』『まあ』と感嘆の声を上げ、
そして軍王ガスパード様は、ウィンベル王国と
ランドルフ帝国の二人が何を言いたいのか……
要するに両国に目の見える実績を持って帰りたい、
という内容を理解し、
「ふむ、では―――
手柄を立ててもらうとするか」
そして次の行動……
アンニーナ令嬢の部屋の調査許可をもらい、
私たちはそこを探る事となった。
「大丈夫ですかね?」
「多分しばらくは」
「よし、さっさと探すぞ」
翌日、私とライさん、そしてティエラ王女様は、
アンニーナ令嬢の部屋へと潜入していた。
『そういう事情なら』
『任せておけい!』
『おとーさんも頑張ってねー』
と、私の家族―――
メルとアルテリーゼ、ラッチにアンニーナ様の
お相手をしてもらい、
その間に彼女の部屋で、怪しい物が無いか
探り出す事にしたのだ。
「しかし、以前の時はパックさんに探して
もらったのですが、大丈夫でしょうか?」
するとライさんはやや呆れた顔で、
「バカにするな。
俺だってそのくらい見分けられるよ」
「でも本当に年頃の女の子の部屋という
感じですわね。
どこにもおかしなところなんて……」
と、恋人同士である男女が中を見回す。
「うん?」
ふと、ライオネル様が不審そうな声を出し、
「見つかりましたか?」
次いでティエラ様が返すと、彼はそのまま
スタスタと机に歩み寄る。
「この中だが―――」
しかしどうやら、その引き出しにはカギが
かかっていて、しかも魔導具によるものの
ようであり、
「シン、出番だ」
「はい」
そして私は、ライさんの指示通りにその
魔導具を『無効化』した。
「これだな」
「これですか」
ライさんがつぶやき、ティエラ様が
それに返す。
それは、やや高価だが何の変哲もない
ネックレスのように見えたが、
「とても高そうに見えますが、どこか
不審な点でも?」
「だからこそだ。
そんなネックレスにわざわざ魔法や魔力を
込めてどうするんだ? って話だ」
「そもそも装飾品ですからね……
機能的なものは求めていないはずですし」
言われてみればそうか。
宝石やアクセサリーは外見重視というか、
外見のためだけに用意されたもの。
扇子などの例外もあるが、基本実用的では
ないものが当たり前。
それにわざわざ魔力や魔法としての機能を
持たせるという事は―――
「いったん無効化して様子を見ますか。
しかしよくわかりましたね?
調べるまでもなく一直線にこの机に
向かっていったような」
私が素直に疑問を口にすると、
「ん? ああ、そうだな。
あまり人目につくところには置いていない
だろうと踏んでいたし」
「そうですね。
後はクローゼットとか」
実はライオネルの『危機判定』で、
呪いや害する魔導具の識別は可能で、
婚約者であるティエラもそれを知っているの
だが、その能力はシンにも秘密にしており、
それと気付かれないように二人は話を進める。
「では、ええと……
人に害を成す、あるいは操ろうとする
魔導具など、
・・・・・
あり得ない」
私がそう言うとアクセサリーふうの魔導具の
効果は封じられ―――
目的を達した私たちは、アンニーナ様の部屋を
後にした。
「お疲れー」
「どうじゃ? うまくいったか?」
家族と共に割り当てられた部屋に戻ると、
アジアンチックな童顔の妻と、ドラゴンの方の
欧米風の顔立ちの妻が……
それぞれ息子を抱きながら出迎えてくれ、
「おとーさん。
こっちもいろいろ聞いてみたよー」
黒髪ショートに燃えるような瞳を持つ、娘が
抱き着いてくるように報告して来る。
「聞いたって何を?」
「あーねー、ラッチちゃんの方が同年代の
ように見えるからか、結構いろいろと
アンニーナ様がしゃべってくれてねー」
私が聞き返すとメルが答えて来て―――
「うむ。それとなく最近の事とか、何か
面白かったり変な事は無かったか、
ラッチが聞き出してくれたのだ」
ラッチの母親であるアルテリーゼが続く。
「でねでね。
『ここだけの話』って言って、教えて
くれたんだけど……」
私は娘の言う事に耳を傾け―――
そしてこちらの調べた事も話し、情報共有した。
「あー、そりゃクロだねえ」
「そうだなあ」
メルの言葉に、私もそのまま肯定するように
返す。
その後、家族との話を合わせ、トータルで
まとめてみると、
・願い事がかなうものだと、例のネックレスを
もらった。
・あまり人に見られたり、話したりすると
効果が無くなるものだと言われた。
・なので大事にカギのかかった引き出しに
入れて、時々身に着けている。
「よくそんな怪しげなものを……
とも思ったが、いかんせん子供だしのう」
「まあそこはしょーがないよ。
おかーさん」
アルテリーゼとラッチも『不審な物』
という事については同意する。
「となると、問題は入手先だけど」
「それだけは絶対秘密!!
って言ってたから、それ以上は
聞けなかったー」
それは仕方がないか。
私は一息つくと共に、飲み物に口をつけ、
「でもそれはすでにシンが無効化したので
あろう?」
「じゃあ、もう問題無いんじゃないのー?」
そう妻と娘に問われると、
「しかし原因というか犯人がわからない
ままなのはなあ。
いつまた狙われるかわからないし」
私の言葉に『あー』『そっか』と、
同調するような声が上がる。
「とにかくこの事をライさんやティエラ様にも
報告してくる。
新情報だからそれを元に、何か考えて
くれるかも」
そして私は家族を部屋に残し―――
二人がいる部屋へと向かった。
「でかしたシン!!
これでもう、問題は解決したも同然だ!!」
私が家族から聞いた事を話すと、ライオネル様の
テンションが突然上がり、
「意外とあっさり片付きましたのね」
ティエラ王女様もうなずき、私が何が何やら
わからずに困惑して、
「え? でも犯人はわかっていないんですよ?」
一番重要であろう事を指摘すると、
「アンニーナ様がおかしくなり始めたのは、
確か半年くらい前からだと言っていた。
それがここに来て正常になった、という
情報が犯人の耳に入れば……
再び何か仕掛けようとして来るだろう」
「新しい魔導具を渡すか、もしくはネックレス
そのものを交換しようとするかも知れません。
つまり身辺警備さえしっかりしておけば、
犯人、もしくはそれにつながる者の身柄を
押さえる事が出来るでしょう」
さすがに二人とも王族だからか、この手の
対処方法は心得ているようで、
「では―――」
「この情報を軍王ガスパード様に
伝えよう。
必ず何らかの手を打つはずだ」
ライさんの言葉に、ティエラ様は満足そうに
うなずく。
その後、私たちは再度軍王に謁見の機会を
作ってもらい、この事を伝えると、
そこから先はガスパード様が仕切る事となり、
帰国時には私たち一家はパイのレシピや
調理道具を始め、様々な品を……
そしてライオネル様とティエラ王女様は、
複数の書状を手にホクホク顔で―――
大ライラック国から出国する事となった。
「……という事でした、ハイ。
詳細はライさんに聞けば多分、教えて
くれるでしょうけど」
そして家族と一緒にウィンベル王国の公都、
『ヤマト』に戻った私は―――
そこの冒険者ギルド支部で、ジャンさんと
レイド君に事の次第を報告していた。
「何つーかまあ、お疲れ」
「ホントに何やら起こるッスね、シンさんは」
アラフィフの筋肉質のギルド長と、褐色肌に
黒髪の次期ギルド長が、父子のように同じ
ポーズで軽く息を吐く。
「それは私に言われましても……
ところで、こちらで何か変わった事は?」
「まあ特には無いな。
強いて言えば、ヒミコ様か?
あのワイバーンの女王がシンに相談したい
事があるとか言っていたが」
「ヒミコ様が?」
唐突に出て来た名前に私が首を傾げると、
「まあ緊急とか、そういう差し迫ったような
感じじゃなかったッスけど」
レイド君の言葉に私がホッとすると、
「それより、そのパイってヤツか?
早く食わせてくれよ」
「まだまだ新しい味が、世界にはあるもの
なんスねえ」
ジャンさんともども、二人して未知の味に
興味津々で―――
「そうですね。
ただ、まだ残暑が厳しいので……
冷やして食べる事にしましょうか。
こちらに来る前に宿屋『クラン』に
レシピと調理器具を渡し、作り方も一通り
教えて来ましたので。
今、大量に作っている最中だと思います。
後でオヤツとして児童預かり所にも持って行く
つもりでしたから、その時にでも」
それを聞いてギルド長と次期ギルド長は、
満足したようにうなずき―――
夕方頃に一時ギルドを抜け出して、
みんなで児童預かり所に行く事となった。
「ふむ。
ムサシ君に手伝ってもらいたいと」
後日、魔力通信機でヒミコ様から詳細を
伺った後、
家族一同で私たちは、ワイバーンの群れの
本拠地である、彼らの住処を訪れていた。
(シンイチ・リュウイチは児童預かり所)
「正直、ワイバーンたちを取りまとめるのは、
私たちだけでは厳しくなってきておりまして」
「この大陸のワイバーンの他……
私は夫の祖国である新生『アノーミア』連邦の
防衛面まで関わっておりますゆえ。
さらに海の向こうのクアートル大陸まで、
となると手が足りませぬ」
淡い紫色の短髪を持つ、二十歳前後に見える
青年―――
新生『アノーミア』連邦宗主国、マルズ国の
第九王子・エンレイン様と、
真っ赤な長髪を持つ、外国人モデルのような
大きな胸とお尻の女性、ワイバーンの女王
ヒミコ様が神妙な面持ちで語り、
「僕としては異存は無いのですが」
「私としましても分家でありまして、
ある程度行動は自由に出来るかと」
青みがかった短髪を持つ少年……
ワイバーンのムサシ君と、
パープルの長いウェービーヘアーを持つ少女、
アンナ・ミエリツィア伯爵令嬢がそう話すと、
「んー?」
「では何が問題なのだ?」
「だよねー」
メル・アルテリーゼ・ラッチのラフな返しに、
「いやあの、王子様と女王、そして他国の
貴族階級だからね相手はっ」
私があわあわとなりながら執り成すと、
「それを言うのであればシン殿も」
「今や海の向こうの国々まで、影響力のある
御仁であられるからのう。
その方が話が円滑に進むのであれば、こちらと
しても望むところ」
微笑みながら返す二人に私は頭を下げる。
「で、では話を元に戻しまして―――
ムサシ君がヒミコ様を手伝うにあたり、
どういう問題があるのでしょうか」
そこでムサシ君とアンナ令嬢は顔を見合わせ、
「まず、ヒミコ様のご意向としては……
僕にクアートル大陸のワイバーンたちを、
取りまとめて欲しい、との事です」
「ただ彼はまだ年が若いですし、その事で
却って混乱が生じるのではないかと」
少年少女の懸念に、私は王族の男女の方に
視線を向けると、
「それは第一希望と言いますか、理想を言えば、
というものです」
「いくら『ゲート』があるからとはいえ、
この身分ではあちこちに行けぬからのう。
それにシン殿に相談に乗ってもらったのは、
別の理由―――
というよりこちらが本題なのだが」
話が妙な方向に転がったので、こちらが首を
家族ともども傾げると、ヒミコ様は続けて、
「以前、ムサシが『火球』以外の攻撃を
行ったと聞かされました。
もしそれが事実であるのならば……
ムサシは『先祖返り』か『始祖』―――
それに匹敵するワイバーンという事に
なります」
(■101話 はじめての たるたるそーす
■102話 はじめての ごむ参照)
それを聞いた妻二人が反応し、
「そういえばそんな話あったねー」
「ワイバーンが人間の姿になった事で、
すっかり頭から抜け落ちていたが」
「それで?
結局ムサシ君は『始祖』だったわけ?」
家族の揃っての言葉にチエゴ国のカップルは、
「あの後、ヒミコ様の命の下いろいろと
試してみましたが」
「やはり火属性の魔法では無い攻撃を、
彼は有しているようなのです。
それも、火・水・風・土・雷……
そのどちらでも無い―――
『全属性』の可能性があります」
そういえばライさんが『全属性』攻撃の使い手
だったっけ。
かなり希少な魔法だと聞いているけど。
「もしそれを証明する事が出来れば、
クアートル大陸へ彼をヒミコの名代として
派遣しても、反発は少ないと思われます」
「だがその証明手段がのう。
人間にも協力してもらい……
火・水・風・土・雷の使い手に来てもらって、
相殺出来ないか試してみたのだが。
ムサシが人間化してからというもの、
威力が桁違いに上がっていて、
実験するにも危険極まりないのだ」
そこで家族がうなずいて、
「あー、そこでシンの出番かー」
「魔法ならば、シンがいればどうとでも
なるからのう」
「おとーさんがいれば、確かに大丈夫だねー」
と、絶対的な信頼が寄せられ、
「というわけで、ご協力お願い出来るで
しょうか」
「ミエリツィア家も、可能な限りの支援を
いたします」
ムサシ君とアンナ様からも懇願され、
「そうですねえ。
でも、防御に関しては引き受けられますけど、
攻撃魔法はどうするんです?
私1人ではどうにも」
私からも問題を指摘すると、
「火魔法は私も含め、我らワイバーンがいれば
問題無いでしょう。
風魔法も―――
水魔法はメル殿にお願い出来ないでしょうか?
かなりの魔力をお持ちとお見受けいたします。
後は土魔法と雷魔法の使い手がいれば」
というヒミコ様の言葉に、
「雷魔法はパックさんがいれば何とかなるかな。
土魔法は……
あの2人にお願いしようか」
私は頭に浮かんだ人間を招待するため、
魔力通信機を貸してもらうと、彼らに
連絡を取った。
「来ました! シンさん!」
「それで、私たちは一体何をすれば」
連絡をしてからすぐ、迎えによこした
ワイバーンで―――
焦げ茶の短髪を持つ長身の青年と、
亜麻色の髪を後ろで三つ編みにした女性……
ギル君とルーチェさん、一組の夫婦が現地に
到着した。
実はこの二人は一組で強力な魔法が放てる
合わせ技を持っており、それは私が教えた
ものなのだが、
ルーチェさんの火魔法でいくつもの火の輪を
縦に並べ―――
その中にギル君の石弾を撃って通すと、
通常のそれより威力が上がるのだ。
(■08話 はじめての こーち参照)
そして実験内容を彼らに話し、さっそく
実行してみる事となった。
「えっと……
じゃあ、シンさんに向かって撃てば
いいんですか?」
「正確には、私のやや横をかすめるように、
ですね。
理想を言えば私の前方、少し離れたところで
交差する事が望ましいです」
実験内容は―――
さすがにお互いに撃ち合わせる事は
出来ないので、
ムサシ君とギル夫妻に、私に向かって
魔法がクロスするよう撃って欲しいと
頼んだのだ。
こうする事で、お互いに離れた状態で相互に
向き合わないで撃つ事が出来る。
そして私は被害を最小限に食い止めるため、
自分の横をすり抜けた魔法を無効化する……
正確には、
・自分の前方十メートル四方。
・そして後方半径二十五メートル。
の範囲を無効化指定し、
そして実験に挑む事となったのである。
ただ、ムサシ君の攻撃射線上となる私の後方には、
防御用の障害物を設置してある。
これは、ヒミコ様やエンレイン様は承知して
いるが―――
ムサシ君&アンナ令嬢とギル君&ルーチェさんは
私の能力を『抵抗魔法』だと認識しているので、
その対策として、当初は『全属性』攻撃を
指定から除外し……
数発は『撃ち漏らす』事にしていた。
「じゃあ次は私ねー」
「パック殿は明日か。
まあ緊急要員でもあるし、仕方あるまい」
「じゃあおとーさん、頑張って!」
そして安全性確保のためこの実験は、
ギャラリー抜きで行われる事となり、
「それでは―――」
「実験開始!!」
王子と王女の掛け声で、双方から魔法が
放たれた。
「どう? ギル」
「当たっているっていうか、貫通している
ような感じだな」
ルーチェさんが用意した火の輪……
それが等間隔で並び、その中をギル君の
石弾が猛スピードで通り抜ける。
しかし、以前よりも火の輪の密度、そして
威力が上がっているように感じる。
一方でムサシ君(ワイバーンVer)は
というと、やはりライさんのような
『全属性』攻撃と似たような感覚だ。
視認は出来るが、火でも水でも風でも
土でも、雷でもない。
まるで魔力そのものをぶつけるような
魔法が、発光する弾となって―――
それが私の前方十五メートルほどで、
何発かがぶつかり、
そしてそのどれもが、ムサシ君が放った
『全属性』ショットが石弾を無視するかの
ように突き進んでいた。
しかも思ったより威力も高いようで、
防御用に設置した障害物が瞬く間にボロボロに
なっていき、
「指定範囲は変わらず。
全属性であれ何であれ、魔力を使う
魔法弾など……
・・・・・
あり得ない」
そこでようやく、私の後方へと向かうムサシ君の
『全属性』ショットは無効化され、
「そこまで!!」
「双方、撃ち方やめい!!」
エンレイン王子様、ヒミコ女王様の声で、
一回目の実験は終了した。