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気が付くと僕は柔かいものの上に寝ていた。
全て夢だったのか?
そんな思いが脳裏を過ぎる。真っ暗な中、手を伸ばすのだが何にも当たらない。少しバタバタと動かしてみても同じことだった。
違う。やっぱり夢じゃなかったんだ!
私は恐る恐る立ち上がった。
『ここは異界なのか』
ただの穴の底ではない気がする。あれだけの距離を落ちてきたのに生きているのである。
なにかしら尋常ではない力が働いているに違いない。
「誰かいないのか」
比較的大声で呼ばわってみるが返事はなかった。
異界に来れたのは喜ばしいが放っておかれても困るのだ。
何か起こるなり誰か出てくるなりしてほしい。
僕は手探りで壁を探したが見つからなかった。おっかなびっくり支え無しで立ち上がる。
上を見てみたが明かり一つ見えない。
温度は寒すぎず暑すぎずちょうど良い。
たちまち死ぬということはなさそうだが、食べ物がなければ早晩人生終了であろう。
「誰か!」
再び大声を出してみると、
「ああ……また来てしまったの」
どことなく哀調を帯びた声で返事らしきものがきた。
掠れるような覚束ない声で男か女か判別しづらい。
甘くもなく冷たくもなく。さりとて感情を感じないというわけでもなく。
否定を重ねることでしか表現しにくい、伝えるのが難しい声音であった。
「来てはいけないと言ったのに」
「ここに来たのは初めてだ!」
大声で応じる。心外だ。少々トゲのある言い方になった。
しばらくして、何かを擦るような液体の泡立つような奇妙な音が聞こえてくる。
……どうやら謎の声の主は啜り泣いているようだった。気分を害してしまったのだろうか?
しかしこちらのことを心配しているらしい様子は伝わってくる。
ということは敵ではない。
「ここは異界なのか?」
問うてみたが返事はない。
考えてみたら、自分の問い掛けはちょっとおかしかった。
異界の住人は自分をそれだと認識しているのだろうか?
「ここにはもう、来ないほうがいいと言ったのですよ」
やがて声の主は、質問は無視して同じ主張を繰り返した。
「ここに来るのは初めてだと言ってるじゃないか!」
ふと思い直し、
「誰かと間違えてるのか?」
聞き直してみたが、答えはない。
ただ、どこかに風の吹き抜けるような音が響いただけである。