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ミッション・ターゲットは、大国家ヴェリテン元聖剣騎士団幹部『円卓の騎士』の1人である【裏切りの騎士】ランスロットです。
ランスロットは『皆殺し』と言われるほどに好戦的な人間であり、聖剣騎士団設立当初よりメンバーとして戦力の中核を担っていました。ですが、2ヶ月前に突如として聖剣騎士団を離脱。以後、行方を暗ます事となります。
そして先日、我々の光の帝国の従属国が彼の襲撃に遭いました。ランスロットは『病み村』と呼ばれる疫病の蔓延する場所に出没しており、我々に奇襲攻撃を繰り返し、貴い4名の人命が失われる事となりました。
従って今回のミッション・プランは、速やかにランスロットを撃破し、病み村の消毒部隊の安全確保という流れにあります。また、我々はランスロットが聖剣騎士団離脱後も同組織の影響下にあり、ゲリラ戦を仕掛けているのではないかとも疑っています。
概要は以上です。
◆
「カークは全身に棘だらけの甲冑を身に付けた野郎だ。装備は【アロンダイト】で、全部、英霊の遺産さ。俺も何回かアイテムを売った事がある。かなり攻撃的なプレイヤーで、その特徴は『自動攻撃』だ。鎧に触れても、盾に触れても、剣に触れても、ぜーんぶダメージだ。傷になる。ダメージは大した事無いが、とにかく触れるだけでダメージを受けるのが痛みを伴うから精神的なダメージを追ってしまうそうよ」
エーゼ・ロワンは歌うようにの情報を読み上げる。
「通常攻撃は勿論、格闘戦を主体にした長期戦も得意。聖剣騎士団でもトップクラスの実力者ね」
「脱退の理由は?」
「それは分からなかった。だけど、聖剣騎士団を抜ける前に、いろいろとリーダーと揉めてたらしい。聖剣騎士団は貴族主義者の集まりよ。きっとランスロットに裏でヤバい事させてたのてしょう。ああいう人程、友情とか何とか聞こえの良い言葉を使って、利用するだけ利用して捨てる屑なのよ」
吐き捨てるように聖剣騎士団を貶すエーゼロワンをキルゲ・シュタインビルドは咎めない。全員に好かれている人間なんていないし、彼女にも彼女なりの思想があるのだろう。その思想では、聖剣騎士団は信用ならない人間というだけだ。
◆
祈れ。
祈れ。答えの為に。
祈れ。答えの為に。救いの為に。
祈れ。答えの為に。救いの為に。守る為に。
「お主、行くのか」
「ああ。どうせ、また何処ぞの業突く張りが死肉喰らい尖兵を送り込んできたのだろう。しばらく留守にする」
それは繭。あるいは卵。壁にも天井にも、その白き球体が張りついていた。男はその内の1つに腰かけ、愛剣を火に照らす。元より切れ味を求めぬような棘だらけの刀身は火の温もりを浴び、緩やかに殺意を目覚めさせていく。
「その間の警護はどうするつもりだ? ワシも戦うが、お主ほどには腕は立たんぞ。それに先に入り込んだ鼠も随分と深く潜り込んできておる」
男の傍で黄味がかかった、壁や天井に張り付いた卵とは種が異なるだろう、静かに蠢く卵を背負って虫のように這うしかできない老人は問う。
「鼠共か。ヤツらは思いの外に手強い。だが、今の調子でいけば戦力は削れ、疲弊させれば潰すのも容易いだろう。それに、仮にこの地までたどり着いたとしても『あの御方』ならば今入り込んでいる鼠共に、ましてや疲労困憊しているならば尚の事に後れを取るとは思わん。だからこそ、追加戦力は何としても排除する必要がある」
「……外の世界にいるという『傭兵』か。ワシには分からんな。忠義でも恩義でも信念でも探究でもなく、金の為に命を奪う事を生業とする輩など」
「私も同感だ。だが、外の世界の更に『外』では、人の命など黄金どころか紙切れよりも安い。そういう考えが生まれるのも仕方なかろう。それに、傭兵とは娼婦と同じくらいに古く歴史ある職だと私は思う。人類史とは闘争と略奪の歴史だ。傭兵のような下賤な者も俗世では必要なのだろうよ」
「ふはははは! またその話か。お主が生まれ育った世界、神ではなく人が支配する空と大地と海か。まったく、『姫様』を楽しませる良い与太話だわい」
与太話か。男は兜の内側は僅かに笑む。そうだ。この老人も真実を知らず、幻の世界で生まれた命なのだ。だが、真実が織り込まれた現と命が育まれた幻、そこに境界線が果たして存在するだろうか。むしろ、老人のようにこの世界で生まれた者にとって、現こそが幻想ではないのか?
「そうだな。また面白い話を『姫様』に聞かせてやらねばなるまい。次は『新幹線』の話をしようと思うのだが、どうだろう?」
「地を走る鋼の蛇、矢よりも速く、遥か遠くまで駆けるという『しんかんせん』か? ワシもその話には興味がある」
ならば、次はその話にしよう。男は老人に修理の為に預けていた盾を受け取る。剣同様に棘が表面にびっしりと生えたそれは、血を啜ったかのように赤色を帯びている。
男は甲冑を鳴らし、老人に見送られながら戦いへと赴く。鼠退治以上にカラスの駆除は手間がかかる。この前屠ったカラスもなかなかに厄介であり、思わぬ手傷を負ってしまった。油断は許されない。
「お主の武の誉れ、とくと下郎共に見せてやるが良い。武勇を祈っておるぞ」
「祈ってくれ。全ては我らが『姫様』の為に。私も『姫様』が健やかであらん事を祈ろう」
祈れ。
祈れ。答えの為に。
祈れ。答えの為に。救いの為に。
祈れ。答えの為に。救いの為に。守る為に。
◆
病み村と呼ばれる場所は地下へ地下へと、深く潜っていくタイプである。
あばら家のような木造建築が幾重にも繋がり合い、立体的な迷路を作り出している。加えて視界も悪く、何処から魔物が奇襲を仕掛けてくるか分からないダンジョンである。
所々に設置されている松明は一見すれば道標のようであり、事実として目印としても有用なのだが、それ以上にモンスター達はこちらを松明の光に寄せ集められた蛾を駆除するかのように待ち構えている。
「汚らしいですねぇ、極めて不愉快です」
「その裏切りの騎士もなんでこんなところに住処を移すのよ」
「さぁ、知らないわよ。ここに何かあるんじゃないかしら?」
アイリスディーナの呟きを、エーゼロワンが嗜める。
キルゲ・シュタインビルドは霊子の炎を燃やして、落下死を防ぐには十分過ぎるほどの光明が迸って周囲を燃やしていた。しかし燃えているのはその物質の魂である霊力であるため、二酸化炭素などは排出されない。
「酷い匂い」
「病み村の所以ね。血清を打って解毒薬持ち込むのも納得だわ」
鼻を擽るのは悪臭であり、生物の死骸が腐敗したまま放置されている。それは人の形をしているようにも思えるが、骨や内臓が中途半端に露出し、また大半が頭部を失っている為か、正確な判別が付かない。
梯子を下りては入り組んだ木造建築を進む。その繰り返しは精神を否応なく削り取り、集中力に途切れを生み出すようになる。だからこそ、適度に息を抜いて感覚を研ぎ澄ます必要がある。
と、ピンク色をした、まるで表皮が禿げたような人影を発見し、オレは黒い液体がたっぷり入った壺の陰に隠れる。
胴体や手足は人間に近く、腰巻き以外はほぼ裸体だ。頭部だけはやや縦長である。後ろ姿である為それ以上の判別はできないが、大きさは人間とほぼ同じだ。
「アレはここの住民ね。意思疎通は不可能。魔物化してるわ」
「なら殺しても問題ないわけね」
アイリスディーナは剣を抜く。意思疎通はほぼ絶望的であり、人をを見るとほぼ確実に襲い掛かって来る。それ以外の情報はなく、攻撃手段や弱点などは不明だ。よくよく見れば鋭い爪を持っている。だとするならば格闘攻撃が主かもしれない。
「死になさい」
忍び足で近寄り、アイリスディーナは銀光の剣を右手に持つ。病み村の住人はまだ3人の存在を察知していない。幸いにも1体だ。ここで仕留める。
勢いよく後頭部に銀光の剣を振り下ろす。それは病み村の住人の頭を半ばまで潜り込む。人と獣の中間にあるようなうめき声をあげて倒れた病み村の住人の背中を踏みつけ、オレは更に連続で、何度も何度も頭部へと斧を振り下ろす。想像していたよりも体力が高く、8回ほど振り下ろしで病み村の住人は赤黒い光となった。
「結構、しぶといわね」
先程の病み村の住人のうめき声のせいか、足音が四方八方から響き始める。最も近い梯子を見れば、骨を削った杖を持った病み村の住人が上って来ているところだ。
そして、三人は初めて病み村の住人の顔を目撃する。それは人間をベースにして爬虫類と魚類を程よくブレンドしたような、丸く濁った赤い目をした、鋭い牙を持った、凶暴な顔立ちだった。特に口の大きさが異常であり、あれならば人間など頭部など簡単に丸齧りできてしまうだろう。
梯子を上り終える寸前でアイリスディーナは病み村の住人の喉に蹴りを入れる。その一撃で叩き落とされた病み村の住人は数メートル落下し、背中を打ち付ける。アイリスディーナは梯子を使わずに跳び下りると剣を抜き、起き上がろうとしていた病み村の住人へと斬りかかる。
手応えが重い。剣は病み村の住人の頭部を縦に割るが、鋭さを以って斬り裂いた感覚が薄い。力で無理矢理かち割ったような感覚だった。
起き上がる前に口内へと剣の切っ先を突き刺して捻じ込む。そのまま串刺し状態にして、アイリスディーナは骨の槍を持った病み村の住人の連撃を左手の籠手で弾く。
今度は近くの壺が突如として割れ、中に潜んでいたのか、無手の病み村の住人が爪で襲いかかる。
キルゲ・シュタインビルドは神聖滅矢による援護でアイリスディーナに向かう攻撃を全て叩き潰していく。
それを抜けてきた魔物を、エーゼロワンが逆に槍をつかんでその勢いを利用して壺から飛び出した病み村の住人の胸へと槍の穂先を誘導する。槍は無手の病み村の住人を貫き、そのまま木の柱まで突き刺した。
エーゼロワンの金色の手斧が槍持ちの病み村の住人の腹を薙ぐ。赤黒い光が飛び散り、槍を手放した病み村の住人がその手を大きく広げ、その大口を開けてオレに飛びかかるも、咄嗟に抜いた短剣で喉にカウンターを決める。
「数が多いし、しぶとい!」
「黙って処理する!」
そうしている間に口内に剣を突き刺したまま、倒れていた病み村の住人が復帰する。壁がほとんどない病み村の木造建築だ。三人を道連れに落下するつもりか、突進してくる病み村の住人に対し、アイリスディーナは柄頭へと蹴りを入れ、更に剣を奥深く押し込む。
そうしている間に胸に突き刺さった骨の槍を抜いた、無手の病み村の住人が近くの壺を投げつけてくる。
青い矢に迎撃されて黒い中身が散らばる。
タックルして来る魔物。アイリスディーナの後ろの崖までは1メートルを切っている。咄嗟にスプリットターンを発動させて飛びかかった病み村の住人の背後を取る。飛びかかった病み村の住人は勢いのままに落下し、そのまま闇の中へと消えた。
だが、スプリットターンの代償としてオレは残り2体の病み村の住人に背を見せてしまった。それを見逃さないはずがなく、剣が口内に刺さったままの病み村の住人の爪が横腹を抉ろうとする。
「ちゃんと戦況をコントロールしなさい」
「わかってるわよ!」
1体の病み村の住人の喰らい付き攻撃が、その牙が頭皮に食い込むより先に剣の柄を盾にして何とか攻撃を防ぐも、牙が右腕に食い込もうとする。そこで顔の上部分をエーゼロワンが切り飛ばす。
悲鳴あげる。そのまま斧で肩から心臓を叩き潰。。そのまま痙攣する病み村の住人を振り飛ばし、襲い来るもう1体を金色の斧で迎撃する。その胸に斧の刃が深く食い込むと同時に、それが決定打となって赤黒い光となって拡散する。
心臓を貫かれた病み村の住人が起き上がろうとするが、その頭部を蹴りつけ、神聖滅矢が魔物達の額を貫通し、そしてその身は破裂するように赤黒い光となった。
「ふぅ、やれやれ」
「ぐちゃぐちゃ、しんど」
「貴方の戦い方は雑なのよ」
病み村を進んでいくと途中で門番だった太った人型を見つけたが、火炎壺の爆発音で崖際まで誘導し、その背中を蹴飛ばして落下死させる。
太った人型の先に広がっていたのは、人工的な縦穴だ。下りる為の梯子や板の足場が設けられている。縦穴の傍には依然として迷路のような木造建築があるが、従属国家から提供されたマップデータによれば、この縦穴を下りるルートを通る必要があるようだ。
錆びて今にも折れそうな梯子を下り、底抜けしそうな木の板の足場にそっと足を下ろす。それを数度繰り返すと底……というよりも、骨が多量に散乱する、まるでゴミ捨て場のような円形の場所に到着する。
「ここは……」
「何が目的の場所なの?」
「これは闘技場ですね」
首筋に悪寒が駆け抜ける。まるで自分の領域を侵されるかのような、土足で新築マイホームに盗人が入り込んだような、露骨な嫌悪感を押さえられない感覚だ。
黒い煙が噴出して、そこから赤黒い女が現れる。
『ふぅー、さて。殺そう』
「総員、戦闘準備。叩き潰します」
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