テラーノベル
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「……なんだったの、今の。」
歪んだ空間が一瞬だけ見えたあと、何もなかったように《Re:Layer》の街並みは元に戻っていた。でも、アカネ――あかりの心にはざらついた不安が残っていた。
「ミウ、さっきのって……バグ?」
「んー、ただのバグならいいんだけどね。今の、ログイン履歴のレイヤーが一瞬だけ“現実側”に干渉されてたっぽいんだよね。」
「そんなの、あり得るの?」
ミウは空中に浮かぶウィンドウをぱたぱたと操作して、眉間にしわを寄せる(猫なのに)。
「アカネ……いや、あかり。君、本名でログインしたことある?」
「えっ……ないよ!?っていうか、ここに本名使ったらアカンでしょ普通!」
「うん、それが普通。なのに、誰かが“あかり”って名前でログインしようとしたログがあるんだよ。」
心臓がひゅっと冷たくなる。
《Re:Layer》はセキュリティが強いことで知られてる。リアル情報は完全匿名化され、ユーザーの動きもすべて暗号化されてるはず。なのに――
「待って、それって誰かが……わたしのリアル、知ってるってこと?」
「可能性としてはゼロじゃない。しかも、そいつ……ログイン、成功してる。」
「は?」
アカネは立ち上がった。足が勝手に震える。バーチャルのはずの世界なのに、今、現実よりリアルな恐怖が襲ってきた。
「そいつのログインID、何?誰なの?」
ミウが再びウィンドウを開き、そこに映し出されたIDは――
《Akari_002》
「……嘘でしょ。」
まるで、自分のコピーみたいな名前。自分が知らない、もうひとりの“わたし”。
「こいつ、今どこにいるの?」
ミウが指差したのは、都市の北端。廃棄された旧データ街――本来アクセスできない、封鎖された空間。
「アカネ、やめといたほうが――」
「行く。」
即答だった。怖い。でもそれ以上に気になった。
この世界に、もうひとりの“自分”がいるなら。
そいつは、一体――なにを知っているんだろう。
その夜。ログアウトして目を覚ましたあかりは、頭の中がまだ《Re:Layer》の光に包まれているような感覚でいた。
「……なんか、身体が重い。」
起き上がって鏡を見る。寝起きの自分が、鏡の向こうで一瞬だけ、笑った気がした。
――それは、自分の顔をした、“誰か”だった。
コメント
1件
あかりいいい...てかアカネって名前なんかかっこいいね(((