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26 ◇野次馬根性
月曜日、いつものように家事を済ませたあと、ゆる~く重役出勤を
し、工場内の清掃がちゃんと行き届いているか、工員たちがちゃんと
仕事に精を出しているか、困っている工員がいないか……と兄の右腕と
して不足なく、真面目に働いていた珠代の視界の中になんとなぁ~く
見知った感のある1人の男性が入ってきた。
工場への入り口で立ち止まったまま入るでなし、踵を返すでなしのその人物を
5分くらい大きな眼で様子見していた珠代だった。
どこかで見た顔だなぁ~と思うも当初は不審者など相手にしないと考えていた。
しかし、自分はその日会ってはいなかったものの、温子から週末父親が自分に
会いに来ていたという話を聞いていたため、いろいろ思いめぐらせているうちに
閃いてしまった。
もしかして、温子さんの元ご主人? と。
嘗て一度だけ、街中で温子と一緒にいるところで出会った折に
簡単に紹介されていたことがあったからだ。
自分が覚えているからといって温子の元旦那が自分のことを覚えているかは
分からないが、彼が温子を訪ねてきたのは確かだろうと思えた。
『復縁を求めてきたのだろうか?』
少しの野次馬根性は見逃してほしい。
しかし、離婚届を出す前ならいざ知らず、自分から届けを出すよう要請
しておいて、まさかの復縁はないだろう、珠代はそんな風にも考えた。
珠代は温子の引っ越しを手伝い、そのあとの離婚劇を聞いた頃から
胸にある想いを抱くようになっていた。
そのため、今回、彼を温子に会えるよう取り次ぐべきか、知らんふりを
決め込むのがよいのか、しばし、考え込んでしまった。