テラーノベル
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「あのさ、今度の夏にみんなでキャンプに行こうって計画してるんだ」
「キャンプ?どこに?」
「湖!」
「湖……?」
思わず窓の外に目をやった。
家の裏に広がる湖には、今日もうっすらとモヤがかかっている。
モヤの中、霞むような小さな建物が見えた。
『開かずの修道院』が。
私の視線を追った彼が慌てて手を振る。
「違うって!そこの湖じゃねーって。ここからちょっと山の方へ行ったとこにも湖があるんだよ。ちょっと地味なとこだけど、でも水がキレーで。泳ぎまくれる!」
私の知ってる湖は、家の裏に広がる湖だけ。
静かで深い緑に澱んだ湖。
藻が多くて足を取られるから、遊泳は禁止されている。
それ以前にあの陰鬱な色の水では、泳ぐ気になんてならないけど……。
「綺麗な湖かあ……いいなあ、行ってみたいなあ……」
「何言ったんだよ。だからレナも一緒に行こうって!」
「えっ……でも……」
答えに詰まった。
だって私にはキャンプなんて……それに……。
「私……泳げないから……」
「えっ、そうなの?」
「泳いだことないの」
「ええっ!マジで!?」
泳ぐのは当たり前のように禁止されていたから、泳いだ記憶がない。
泳げないというより、泳げるかどうかわからないというのが正確なところだ。
「ならちょうどいいじゃん!」
マシューが勢い込んで言う。
「覚えようよ、泳ぎ。オレ、教えてやるから!湖でさ」
「えっ……ほんと!?」
「うん!任せろって!……えと、だからさ……」
彼の声が急に小さくなった。
でもちゃんと続きが聞こえたから、大きく首を縦に振って答える。
「うん!」
彼は「早くよくなれよな」って言ってくれたのだ。
「私、絶対元気になるね。キャンプに行かせてもらえるように頑張る!ご飯もっとたくさん食べるようにするし、お薬もいっぱい飲む!」
「いや、薬はあんまいっぱい飲まない方が……」
「息止める練習もしておくっ。水の中で目を開ける練習も!」
「い、いいってそんなに気張んなくて!それより……あ、あのさ」
「泳ぎ方の本も読んでおくからーーえ?」
おずおずした声に、興奮して溢れ出す言葉を押し留めた。
見ると、なぜかちょっと赤い顔をしている。
「あのさ、オレ、ほんとはーー」
その時、出し抜けにドアがノックされた。
マシューが傍目でわかるほど、ビクッとする。
「レナ、入りますよ」
ドアを開けたのは、お手伝いさんのアーウィンだった。
片手に、ジュースの入ったグラスを乗せたトレーを持っている。
その後ろから、ケーキを捧げ持ったリズが入ってきた。
「おー待たせー!」
「わあ、蝋燭だ!」
ケーキの上にはいくつもの蝋燭が立っていて、火が灯っている。
「蝋燭を忘れるわけにはいかないわよー。ちゃんと十四ね」
ゆらゆらと火が揺れて、ケーキはベッドサイドのテーブルへと運ばれた。
炎の数を数えようとしたけれど、ふとさっきマシューが何かを言いかけていたのを思い出す。
「マシュー、ごめんね。さっき、何だった?」
「や、別に!なんでもない!」
ズボンのポケットから慌てたように手を出すと、ぶんぶんと首を横に振った。
「なんの話?」
蝋燭の位置を最終調整していたリズが顔を上げる。
「何でもねーって!!」
「何よう、内緒話?」
拗ねたように言う彼女を見て、マシューをフォローした。
「キャンプの話、してくれたの」
「あ、夏の!聞いた?」
「うん、楽しそう」
「そうよー。レナもメンバーに入ってるんだから、夏までに元気にならなきゃダメよ!」
「……うん!」
嬉しくなって勢いよく頷きながら、チラッとアーウィンを見る。
彼は口の端を上げて微笑んでみせると、何も言わずに部屋を出ていった。
あの「にこっ」はいいですよかな?
ダメに決まってるでしょ、かな?
……ううん、大丈夫!
アーウィンが文句言えないくらい、元気になればいいんだもの。
「よしっ。それじゃ、マシュー!カーテン閉めて!」
明るくマシューに指令を飛ばす。
「ええ?」
「いーから、ほらっ。閉めたら、こっち来て座る!」
私たちは顔を寄せ合ってケーキを囲んだ。
薄暗くなった部屋の中、蝋燭の炎が互いの顔を照らす。
「何だか秘密の儀式みたいね?」
嬉しくなってリズに聞いた。
「ロマンチックでしょー?」
「……むしろ黒魔術っぽいと思うんだけど」
「ロマンチックなの!ほら、二人とも手握って」
言われた通り、三人で輪になって手を握る。
「本当に秘密の儀式みたいね!」
「オレにゃ、ますます悪魔を呼び出そうとしてるようにしか……」
「ごちゃごちゃ言わない」
マシューを嗜めると、彼女は目を閉じた。
私の手を握る手にきゅっと力がこもる。
「……レナ、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「十四歳がレナにとって素晴らしい年になりますように。レナが早く元気になりますように……」
少し考えてから付け足した。
「あと、マシューの成績がもう少しマシになりますように!」
「ほっとけ」
私は思わずくすくす笑う。
「ね。アタシたち、友達だからね。これからもずっと、友達でいようね。約束だよ?」
「うん!約束!」
「…………」
彼はそっぽを向いていたけど、急にいてっと叫んでリズを睨む。
彼なりのYESだ。
私と彼女は顔を見合わせると、声を出さずに笑い合った。
「よし。じゃ、三人の友情とレナの誕生日をお祝いして……レナ、蝋燭消して!」
「うん!」
胸いっぱいに空気を吸い込んで、ふうっと息を吹きかける。
十四の炎は大きく揺らめいて消えた。
コメント
1件
わあ、すごく温かい気持ちになりました……!レナの「絶対元気になるね」っていう前向きな言葉、胸にグッときました。それにマシューが言いかけてやめた「ほんとはーー」がすごく気になる……!三人で手を握って蝋燭を囲むシーン、本当にロマンチックで宝物みたいな時間でした。アーウィンの「にこっ」も含めて、登場人物みんなの優しさがじんわり沁みます。次の話もすごく楽しみです!
#一次創作
ruruha
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