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一 ヶ 月 く ら い 前 に 思 い つ い て
ち ょ う ど 今 描 き 終 わ っ た 短 編 。
A r e y o u r e a d y ? ❤︎
l e t ‘ s g o ❤︎
暗い部屋の中で、私は今、目を覚ました。そのまま私は目を擦り、部屋の景色を確認する。私が知っているいつも通りの部屋だった。私は欠伸をしてベッドから立ち上がる。フローリングの床が冷たかった。
部屋の窓には分厚いカーテンが閉められていて、外の景色は見えない。でも、多分朝なのだろう。私はここしばらく外を見ていない。
居間に行って主人の姿を確認する。主人はいつも通り私の隣で眠っていた。主人はいつも通り、顔を枕に押し付けるようにして眠っていた。主人の寝息は静かだった。いつも通り、乱れた髪をそのまま布団に広げ、気の使われていない部屋着には私が抵抗したあとが残っている。すごく無防備。昨日あれほど私にきつい口調で怒っていたのが嘘みたいだ。
「まだ出ようとしたの?」「首輪勝手に外そうとしちゃダメだよ」「外は危ないから」
彼女のいうことは絶対だ。全部、私は生活の全てをあの人に委ねているから。住むところ、食べるもの、排泄、などなど。今の私は主人の存在を前提で回っている。その生活があと少しで半年。
主人に顔を近づける。そのまま手を伸ばし、主人の白い頬に触れる。主人は一瞬くぐもったような呻き声をあげた。私はもう一度触れる。主人の指がぴくりと動く。そのまま彼女はうつ伏せていた体を上にむけ、上半身を上げた。そのまま近くに置いてあった時計を手に取り、時間を確認する。時計の短針は「5」の頭にかかるくらいだった。
「ゔぅん・・・」くぐもった呻き声が彼女から聞こえる。そのまま低いため息を吐いた。
「はぁ、もうちょっと寝させてよ・・・」再び彼女は目を閉じる。二度寝する気だ。私が再び彼女に手を伸ばす。彼女はそれを押し除けるようにしてまた布団に潜った。私は彼女に抱きつくようにして上に乗る。主人は少し苛立ってるようだ。
「ねぇ、朝からなんなの、」主人が目を開ける。膝の上に乗った私を見る。主人の目と私の目が合う。主人の表情が変わった。「あ、なんだきみかぁ」イラついているようだった声が急に甘くなる。空気が解ける。そのまま私は彼女に抱きしめられた。
「おはよ」暖かくて柔らかい。主人の指がそのまま頭の後ろにまわる。そのまま首にかかる革製の輪を撫でた。それだけで、私の背中は弓形になってしまう。口の奥で喉がなる。
彼女は私の喉の音を聞いて、機嫌がよくなったように見える。主人は昨夜も私が喉を鳴らしたら機嫌が笑っていた。再び主人は時計を確認する。
「・・・来月までのレポート進めておくか」そう言って立ち上がる。彼女は私から指を離す。少し寂しい。私は主人の暖かい指が好きだから。主人は棚の上に積んであった資料をいくつか取り出して、机に並べた。そのままテキストを開いてPCを開く。彼女の目は完全にそこを向いてしまった。一人になった私は彼女が残した布団に寝転がり、天井を見つめた。汚れもないけど、これと言って特色もない天井だった。
しばらくしたあたりで、主人が思い出したようにつぶやく。「安全基地ってさ、」一旦そこで一呼吸分の間を開ける。視線はPCのまま。「子供が不安になったとき、戻って来れる場所のことなんだけど」またそこで言葉は切られる。主人は布団に寝転がったままの私を見た。私の目線と主人の目線が再びからむ。主人は小さく笑った。そのまま立ち上がり、私の体を抱える。彼女の腕に、私の背中が包まれる。そのまま抱えられて、主人は再び椅子に座り、そのまま私は彼女の膝の上に座った。腰に腕がまわされる。「私は、きみの安全基地になれているのかな?」耳元で彼女の、女性にしては低い声が響いた。彼女の吐息が結構ダイレクトに伝わってくる。私は彼女に顔を寄せた。彼女も私の頬に鼻をつける。少しくすぐったい。
「いなくならないでね」耳に届く、小さい声。そのまま私から手を離し、PCのキーボードに指を乗せる。邪魔になったら悪いので私は彼女の膝から降りる。彼女の指先から再び、規則的なキーを叩く音が鳴る。
2時間くらい経った頃、主人はご飯を食べ、私も主人から朝食をもらった。主人は私の口元についていた食べカスを拭う。その指をティッシュで軽く拭いたあと、主人は鏡の前で黒い髪に櫛を通した。「今日は1限からだからさ。今のうちに出ないとね。」
独り言のように言う。私には主人の言うことがよくわからないけど、多分大事なことなのだと思って軽く頷いた。主人は高校時代のジャージを脱いで、黒いデニムスカートを履いたあと、細いウエストに紺色のベルトを締めた。上から灰色のパーカーを着て、リュックサックに先ほど使っていた勉強道具を全て入れた。空っぽだった袋に膨らみができる。主人は再び鏡の前で前髪を整えたあと、私の頭を撫でた。私は床に座ったまま、頭を撫でる暖かい感触に目を細める。私が心地良さそうにしているのを悟ったのか、主人は私の両頬を柔く掻いた。私の喉から高い吐息が漏れる。主人は私から手を離し、立ち上がる。「私がいない間、いい子で待っててね?」
首に嵌められた輪が、再びきつくしまった気がした。・・・たった一言で。私は頷く。主人は「よし。」と笑う。私も笑う。そもそも私が主人から離れる気ははなからない。今の関係でいい。今の関係がいい。
主人が玄関で靴を履き、ドアノブに手を掛けるときも、私は主人を見ていた。主人も私を見ていた。主人は私に軽く手を振り、「行ってきます」と言ってドアを開けた。そして外に出て、ドアを閉める。がちゃん、と硬い錠をはめる音がした。このドアは主人しか開けない。主人しか開けられない。私が開けられることは許されない。開けることも、できない。私は外には出ないから。・・・仮にもし、私がこのドアを開けて外に出られたとしても、私は今の選択を変えないだろう。きっとそうだ。そうであるべきなのだ。
そのまま一人になった室内を徘徊する。主人が脱いで、畳んだジャージ。主人が飲んで空っぽになったマグカップ。全てに主人の匂いが染み付いている。最も匂いが染み込んだ敷かれたままの布団の上には、数ヶ月前に私がつけた抵抗の跡がある。過去の私が目一杯抵抗してつけた布の裂け目。主人はそれに怒っているようには見えなかった。「あー、やっちゃったね」と眉をハの字にして困ったように笑っただけだった。そう言って顎の下を撫でてくれた。黙って抱きしめてくれた。
私には訳がわからなかった。なんでこの人は悪いことをした私に優しくしてくれるのかわからなかった。この人は何がしたいの?何を私に求めているの?頭の中がぐるぐるした。前までの生活では絶対にあり得ないことだった。絶対、100%。
布団に寝転がる。私は主人が留守で嫌なことを思い出しそうになったとき、大抵ここにいることにしている。柔らかくて、暖かいところが似ている気がするから。部屋に広がる重い沈黙。それを振り払うように布に顔を埋める。喉の奥から呻くような低い音が出た。
再び身をくねらせ、布団の上でまた天井を見る。部屋は暗い。主人は外出のとき、絶対家中の照明を消してから外に出る。私はいつも、暗い部屋の中で主人の帰りを待つ。厚くカーテンで遮断された部屋。光は届かない。僅かに外の世界の音が届いても、それは「外の世界の音」でしかない。外で消防車や救急車のサイレンが響いても、それは「外の世界の音」でしかない。外でマイクを握った高齢者がスピーカーから自分の宣伝をする選挙カーの音が響いても、それは「外の世界の音」でしかない。それ以上でも以下でもない。私にとっては地球の裏側で起こる台風のように関係も興味もない話。
この暗い部屋。ここが私の全てであり唯一の居場所なのだ。