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※この世界は風営法適用外です
治安が悪いことで有名な繁華街の一角に、ヌードバーとかいういかにもヤバそうな店ができたと聞いた俺は、彼女とそこへ行ってみることにした。頭のネジが飛んでいるわけでは決してない。一人で行けば浮気認定される恐れがある為、いっそ彼女と行けば合法的に楽しめると思ったのだ。実際彼女も純粋に興味を示していた。
だが以前の俺なら「ヌードバーだってw行ってみる?」なんて気軽に誘えたりしなかった。もっと彼女に嫌われないかと悩んだはずだ。つまり今の俺は普通じゃない。彼女との関係性も狂ってきている。確実に悪い方向に。
「いらっしゃいませ〜ご注文はお決まりですか?」
何食わぬ顔で接客しているが、店員たちは皆当然のように裸だった。どうせ大事な部分は隠しているだろうと思っていたが、何も身に着けない生まれたままの姿だった。店名に恥じない思い切りの良さだ。
「あぇ、え、えっと……」
俺は入店直後こそ大緊張して注文すらまともにできなかったものの、割とすぐその空間に慣れてしまった。こうも潔く丸裸だと、生物的・美術的な美しさを感じて逆に興奮しない。絵画でも鑑賞しているような落ち着いた気分でいられる。他の客も呆気に取られるあまり、普通のバーと同じように酒だけ飲んでささっと帰っていった。一人ほどこっそり触ろうとして強制退店させられた馬鹿はいたが。
一方の彼女は興奮しっ放しだ。酒に一口もつけず、忙しなく動き回る店員をじぃっと凝視している。その目は洒落た照明に反射してきらきら輝いている。俺はそんな目、向けられたこともない。はいはいそうか、やっぱりこいつが好きなのは……
「……ちょっとお手洗い行ってくるわ」
耐えられなくなり席を立つ。
「え〜抜くつもり?w」
「違うわ馬鹿w」
なんて軽いやり取りを交わしながらも、依然彼女とは心の距離を感じる。
「はぁ、もう潮時かもな……」
このまま彼女を置いて帰ってしまいたいと思った。
そして帰らなかったことを戻ってから激しく後悔した。
「わあっ何これおっきい〜!ふわふわしてる!同じ女子とは思えないです!」
「うふふっありがとうございます〜」
彼女は人気No.1嬢のプレートがついた店員の胸を嬉しそうに揉んでいた。お触りNGじゃなかったのか。同性だけ贔屓するなんて卑怯だ。
女子同士で盛り上がっている場に割って入るのも気まずいので、廊下の壁に寄りかかって遠くから眺める。だが15分経っても二人の熱は冷めやらない。胸を触り合ったり抱き合ったりボディタッチも過激さが増していく。
遂に彼女が下の方に触れようとした時、店員がその手をグイッと引き寄せた。注意するかと期待したのに、店員は色っぽく微笑んだ。
「続きは向こうでしましょう?」
何誘ってるんだこの淫乱女。流石ヌードバーに勤めるだけある、性欲を制御する機能がバグっているようだ。
「えっ良いんですか!?」
同様にイカれた彼女も跳ねて喜ぶ。喜びながらも俺を気にするようにちらりとドアの方を振り返ったので、俺は反射的に死角に隠れた。なぜ隠れたのかは自分でも分からない。
「あぁ失礼しました、彼氏さんいらっしゃったんでしたね」
「あっいえ、あいつはその……もう帰っちゃったんじゃないですかねw」
彼女の笑みからは微塵も寂しさが感じられず、いなくなって清々したとでもいうような意地の悪い本音しか見えなかった。
「だから全然問題ないです。さぁ早く行きましょ♡」
「ふふ、悪い彼女さんだこと」
「いえいえそれはもうお互い様ですからw」
性格の悪い二人はくすくす笑いながら、カーテンで遮られた奥の部屋へと消えていった。結局こうなってしまうことを前々から分かっていた俺は、特に負の感情を抱かなかった。その分胸の底からむくむくと、得体の知れない好奇心が湧き上がってきていた。
彼女はどんな風に喘ぐのだろう。どんな表情でイくのだろう。その裸はどれほどエロティックなのだろう。
俺は彼女の裸を見たことがない。俺は断然着衣セックス派だし、彼女もなかなか脱ごうとしないからだ。
裸は隠されているからエロい。可愛らしい服に包まれたその下を想像するだけで俺は満足していた。
だが彼女は違ったのだ。わざとらしく喘ぎ、無理矢理演技をしているのが丸分かりだった。どうやったら気持ち良くさせられるのかと焦り続けた俺も次第に勃ちづらくなった。セックスをしなくなってから今日でもう半年も経つ。
「うぅっ、私不感症になっちゃったかもしれない……」
彼女がとうとうシーツに顔を突っ伏して泣いた日のことを今も後悔している。俺は優しくないから冷たい言葉を放つことしかできなかった。
「じゃあ俺のことが好きじゃなくなったんじゃない?」
我ながら最低だ。ちっぽけなプライドを折られたからと八つ当たりしたようなものだ。でもそれが図星だったのだろう、彼女は否定せず無言で枕を投げつけてくるだけだった。
俺にとって枕の感触は柔らかすぎた。だからずるずると無責任に引きずる羽目になってしまったのだ。あの時正直に振ってもらえていれば俺は、俺は……
こんな惨めな性癖に目覚めずに済んだだろうか。
「あ……うっ……」
俺はすぐさまトイレに戻り、灯りもつけないまま自慰行為に走っていた。脳を埋め尽くすのは、さっきの巨乳女によがっている彼女の裸。そのエロさが無限に想像できる。揺れる胸、火照った肌、発情した顔。たまらなくエロい。興奮で擦る手が止まらない。
「っあぁ!やばい!イくっ……!」
激しい快感で一瞬意識が飛んだ。今まで溜まっていた分、大量の液体が手の平に広がった。
「はぁ、はぁ……」
それをしばらく呆然と見つめて余韻に浸る。別れが迫り、彼女との思い出が次々とフラッシュバックする。
これをあいつの中に出せたらどれほど良かったことか。なんて悔やむだけ無駄だ。俺は寝取られた彼女で抜ける、彼女の裸を見ずとも生きていける、充分お幸せな人間なのだ。
「……お前もせいぜい幸せになれよ」
捻り出した精一杯の優しさと共に、拭き取ったティッシュを便器に流した。そうして一人になった途端、俺の心も裸になった気がした。寂しさが纏わりついて、厚着なのに寒い。
「じゃあいっそ俺もヌードバー始めてみるかぁ」
なんて冗談交じりに呟いてから、今更のように気付いた。彼女たちは性欲の為なんかではなく、それ以上にもっと大事な自分の心の為に、本気で裸になっているのだ。寂しい穴を埋める為には、本当の自分を曝け出す他ないのだから。
彼女たちの意志の強さに感化された俺は、勢いに任せてNTR系のハプニングレズバーを予約した。寝取られてもらうのは勿論彼女しかいない。別れようとしたところ申し訳ないが、本当は申し訳ないなんて一ミリも思っていない。やはり俺は最低だ。そんな自分が誰よりも好きだ。
『自分が裸でいる為、人を裸にさせたい』
これ、ヌードバーのキャッチコピーにしたら確実に売れる自信がある。