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タガヤシ村を出立したユミヨは、青年社員ラハダの引率で、隣町のゾノドコ新聞本社に出向していた。本社がある大都市、ビヨグランデは製粉業で栄えた湾口都市である。海沿いに立ち並ぶ風車塔群は一大観光スポットだ。
ゾノドコ新聞の社屋には活版印刷場を備えている。木製のプレス印刷機の前で、ユミヨは刷りたての新聞に目を通していた。
『勇者破れる! 故郷奪還への道のりは前途多難』『力不足のレカーディオに疑義噴出。魔王討伐は夢のまた夢』
ユミヨが手に取った週刊誌風の新聞、『勇者通信』の一面では、物々しいテロップで勇者批判が展開されている。
「勇者は私たちの希望の星なのに、この扱いって酷くないですか?」
新聞を握りしめたユミヨが、目前の女性管理職に訴えかける。
「何言ってるの! 真実を余すことなく伝えるのが、私たちの仕事ザマス」
女王様眼鏡をかけた女性教官が捲し立てる。四十絡みの彼女は、現実世界風のパンツスーツで身を包む。内面ドSの彼女が上司になったら、さぞかし大変だろう。
「オトサタ教官、すみませんでした。この業界の事良く分かっていなくて……」
「よござんしょ。その為の座学研修なのだから」
オトサタ教官が指し棒を突き出した先に、『研修室』と刻まれた木板がある。
「ユミヨさん。丸二日間、みっちり座学研修に励むザマス。ゾノドコ新聞の社是を脳髄に叩き込んで差し上げますわ!」
鋭角な顎を突き出したオトサタが不敵な笑みを浮かべる。ユミヨは恐々とかしこまる他なかった。
***
黒板のど真ん中には、チョークで『エティテュ―ド近代戦史』と記されていた。学校の教室さながらの研修室には記者の卵たちが集う。着座した若者たちの顔には期待と好奇心が浮かぶ。その数四名の中にユミヨの姿があった。
「では、現在進行中の第二次討魔戦役について解説いたします。知っている者も、しっかり復習するように」
チョークを手に取ったオトサタ教官が板書を始めると、即席の世界地図が描かれる。西側のミナンダ共和連合の一角には、タガヤシ村とビヨグランデも含まれている。
『我々が住む世界、エティテュ―ドを支配する三大勢力。その一角を占めるハルヴァード王国が魔王軍に占拠されました』
オトサタ教官の細長いまつ毛が八の字を描く。
『しかし、予想外の事態が起こりました。生き残ったハルヴァ―ド王が魔物の大群を率い、反転攻勢帝国領へ攻め入ったのです』
ハルヴァードから東のデルモンソ帝国領へ、矢印が引かれる。
『この事態に立ち上がったのが、ハルヴァード王国の皇子レカーディオ。共和連合に亡命していた彼は、祖国奪還のためハルヴァードに向かう事となったのです』
一息ついたオトサタ教官が、挙手している研修生に気が付く。
「質問どうぞ」
教官に促され、誠実そうな青年が起立する。
「デルモンソ帝国をもってしても御しえなかった魔物たちの軍勢。レカーディオ王子一人向かったとて、どうにもならないのでは?」
周囲の研修生たちが控えめに相槌を打つ。青年の見解は的を射ていたからだ。
「現在魔物たちを統率しているのは人間出自の魔王。その人物こそ、レカーディオの父君、ハルヴァード二世と目されています」
オトサタ教官の話に呼応し、周囲の研修生たちがざわめく。
「父君を説得に向かう彼を、人々は勇者と称え誉めそやす。そこに商機があるのです!」
#ファンタジー
オトサタが渾身のガッツポーズで研修生たちを鼓舞する。
(凄んごい商魂ね。人類の危機なんて、知ったこっちゃないというか……)
顔を引きつらせたユミヨは、内心呆れかえるのだった。
***
ビヨグランデに散在する常夜灯の光が朝日と交代し、ユミヨも研修最終日を迎えていた。
「事ほど左様に、フィールドワークでは瞬時の判断力を求められます。勇者パーティが赴く危険地帯には、魔物の脅威がつきものだからです」
壇上のオトサタ教官が黒板に大きく『|バディ《相棒》』と書き記した。
「よって、単独行動は厳禁! 必ず二人以上で行動していただきます」
そして、着座しているユミヨを指さす。
「新入社員のユミヨさん! 前に出なさい」
「はいっ!」
緊張の面持ちで立ち上がったユミヨが壇上に上がる。すると、黒板の真後ろの影がのそりと動き出す。
「勇者パーティ付きを希望する、命知らずなあなたにチャンスを上げます。ボディガードとセットでね」
黒板裏から現れたのは、極端な土管体型のオジさんだった。分厚い瞼に豊かな髭はおなじみのキャラクターだ。
「ドワーフのロコモンっつーもんだ。雇われ傭兵だけど、ひとつ宜しくな」
ロコモンがユミヨの両手をギュっと握る。節くれだった太い指は、ホッカイロの様に温かかった。